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そして、空の席の隣に座る。彰人は驚く。店内は空いている席がたくさんあるし、4人掛けの席を2人で使うなんてことは珍しくもない。だからその男の行動は不自然だった。




「あなたは・・・?」


彰人が声をかける。見た目は30代半ばくらい。カッチリとしたスーツを身にまとい、いかにも仕事ができそうな雰囲気の男性だ。ごく一般的なサラリーマンに見える。


そんなサラリーマンが彰人に向かって笑みを浮かべながら言った。


「やぁ、初めましてかな”イルポン君”」


「・・・っ!まさかあんたは?!」




彰人に戦慄が走る。ここで彰人がイルポンだと知っているのは空しかいないはずだ。そうなるとこいつが”空白”の正体なのか?空がいないのが幸いだった。彼女にDMを送って逃げてもらおう。そう思ってスマホに手を伸ばした時・・・


「彼女に連絡するのはやめたまえ。私は彼女にも話があるんだよ」




彰人は恐怖から相手を睨みつけた。


「まぁ、そんな怖い顔をするな。何も君たちを取って食おうとしているわけじゃない。私はこういうものだ」


男は上着から名刺ケースを取り出し、一枚の名刺を取り出し彰人に差し出す。


その動作に迷いはない。彰人も研修で習った名刺の受け取り方で対応した。


「渡来 正義・・・?」


「わたらい まさよし、だよ。なに偽造などしとらんさ」


大手企業の名前がそこにはあった。エリートなのは間違いないようだ。




「・・・あなたの目的はなんですか?」


「警告・・・だよ。VTuberとしてのね。あとは単純に君たちに興味があった」


警告・・・あまり良い響きの単語ではない。だが話をしてみて彰人が思っていたような変質者ではないと渡来の雰囲気から伝わってきた。


そこに空が戻ってくる。




「彰人さん・・・?この方は・・・?」


「やぁ、待っていたよ。君が虚空君だね?いや、思っていた以上にかわいいな」


「~~~!」




空は人から褒められることに慣れてなかった。かわいいと言われ照れる。


「すまないね。私はこういうものだ」


そう言って空にも名刺を渡す。空は名刺を受け取り首をかしげる。


「渡来 正義・・・?」


空の反応からして初対面なのだろう。彰人はますますわからなくなる。




「渡来さん、あなた本当に何者なんですか?」


「おや?まだ気づかないかね?私は二人にとって知り合いのはずだが」


そういわれて二人は顔を見合す。その様子を見た渡来は名刺の正義を指さして笑う。


「正義 を英語でなんという?」


「ジャス・・・あー!もしかしてジャスティスさん?!」


驚きのあまり声が大きくなる。




「こらこら、こんなところで人のハンドルネームを大声で言うもんじゃない。ネチケット違反だぞ」


ネチケットとは「ネット上におけるエチケット」を意味した造語であり、ネットマナーを守ることの意味が込められている。でもネチケットなんて単語使うとはおっさんなのかなと彰人は思った。


「今日は君たちにどうしても言いたいことがあってね。こうやって出向いてきたのさ」




渡来が真剣なトーンで語り始める。


「君たちは配信サイト内でイチャコラしていたね?」


イチャコラと言われ彰人がマグダナルダのローストコーヒー(おいしい)を吹き出す。


「いや、その・・・」


「なに、イチャコラするのが悪いと言っているわけではない。あの空間は全世界に発信されていることを忘れてはいけないよ」


そう。インターネットに繋がっているということは全世界の人間が閲覧できる状態にあるということだ。しかも入室制限などもしない状態でプライベートなやりとりをするなんていうのは言語道断だった。渡来は続ける。




「時と場所をわきまえたまえ。今日、私が来たのもちょっとした恐怖だっただろう?」


そういっていたずらっぽく笑う。


「それにVTuberを取り巻く環境として女性VTuberに男性がいるとなれば荒れる。それくらいはわかるだろう?」




彰人はうなずいた。確かに女性VTuberに男がいるなんて知れれば炎上必至だ。裏で付き合っている人たちはいるのだろうが、あくまで表向きはフリー、誰のものでもないのである。


「虚空君はこれからの逸材だ。炎上して潰されてしまうのは惜しい。私は虚空君を応援しとるのだよ」


空は応援している、の言葉で嬉しそうにはにかんだ。




「渡来さん、私が配信を始めたばかりの頃にぜになげしてくれてありがとうございました」


それを聞いて彰人は驚く。そうか、空にぜになげしてくれてたんだな・・・。


「渡来さんにはいくらもらったんだ?」


「えっと、3万円です」


「さ、3万?!」


彰人はいつも3000円ずつぜになげしていた。その10倍の額を渡来はぜになげしていたのだ。さすが社会人は違う。




「あの時のお金で何を買ったのかね?」


「えっ・・・えっと、男子と女子たちの青春ジュブナイルのやつで・・・」


彰人はさっきのアダルトサイト閲覧の件もあったし、これエロゲーじゃ?と思った。


「そうか。青春ジュブナイルとなると小説か。本はいいぞ。様々な教養が身につくからな」


「あ、はい・・・ははは」


空が気まずそうに目を逸らす。おそらくエロゲーで間違いない。エロゲのシナリオからも学ぶことはあるが、空の目的はそっちじゃない気がした。




彰人は渡来に聞いてみたいことがあった。


「渡来さん、昨日橘さんの配信を見ているときに”空白”のユーザーが出入りしていたようなんです。何かわかりますか?」


「ああ、それは巷で流行っているクラッキングツールだな。自分のアカウントをステルス化できるものだ。運営は対処するとは言っているものの口ばかりで放置されているのが現状だ」


「ステルス・・・!そんなものが・・・」


彰人は自分の知らない動画サイトの闇を感じた。




「元々は相手に気づかれないように閲覧したい有志が集い作成されたらしいが、そのツールがネット上に瞬く間に広がってな。現在はもう開発中止になっているはずだが、違法アップロードサイトなどにアップされるのが後を絶たない。誰でも手に入れられる状態だ」




そう言って渡来は真剣な顔つきになる。


「昨日、虚空君のページにアクセスしたのは私だが、他にもステルスで閲覧していた輩がいるかもしれない。だから2人にはこれからの活動には十分に気を付けてほしい。何かあれば私も力になろう」


「はい!ありがとうございます、渡来さん」


彰人はここに来たのがジャスティスさんで本当に良かったと思った。




「ところで・・・二人はもうLINE交換はしたかね?」


二人は顔を見合わせる。


「あ、そういえばまだだったね」


彰人は空のLINEを聞いていないことに気づいた。


「ぜひ!ぜひ交換したいです!」


空は身を乗り出しながら言う。それを聞いた渡来は嬉しそうにスマホを掲げた。


「よぉーし!みんなでLINE交換だ!ふるふるで交換しちゃうぞー!」


渡来は上機嫌だった。だがそれを見た彰人は気まずそうに言った。




「渡来さん・・・!今の時代はふるふるではなく、QRコードで交換するのが一般的です・・・!」


「なん・・・だと・・・?」


渡来はがっかりしながらスマホを下げる。そんな二人の会話を聞いていた空は首をかしげていた。




昔のLINE交換はBluetooth機能を使い、端末を振ることで近くにいる人たちと友達登録できた。現在ではその機能は削除されている。




そうしてお互いにQRコードを読み取り、友達登録が完了した。


「彰人君に空君、よろしく頼むよ」


渡来は友達が増えて上機嫌な様子で言った。


「こちらこそよろしくお願いします!返信はいつでもいいので!」


「俺も。返信に時間がかかるかもしれないけど、ちゃんと既読はつけるから」


渡来は満足げにうなずいて、二人に話す。


「だがスマホの扱いも気を付けるんだぞ。なぜなら・・・」


「なぜなら?」


渡来はすごい真剣な顔で言った。




「個人情報はSiriから出る」


「なっ・・・!」




彰人はヘイシリ!個人情報だして!とスマホに言えば無機質な声で「あなたの電話番号は0X0ー1234-5678、彼女いない歴=年齢です」とべらべらと喋りだすところを想像してしまった。いつ調べたかわからない好みの曲や、おせっかいな一面、パーソナルデータなどスマホの音声アシスタントは怖い一面もあることを彰人は知っていた。


気を付けようと心に誓うのだった。




そうしているうちに渡来のスマホが鳴る。


「ええい、こんな時に!」


ピッ


「あっ、ど~も~。大変お世話になっておりますぅ~はぁ~い」


どうやら仕事の電話のようだ。そのまま数分会話して電話が切れる。


「急な仕事が入ったようだ。二人の邪魔をしてすまなかったね。また機会があれば会おうじゃないか」


「今日は本当にありがとうございました」


「うむ。LINEはいつでも待っているぞ!ではな」


そう言って渡来は店内を後にした。そして二人が残される。




「・・・行っちゃったね」


「ジャスティスさん、とってもいい人でした!」




渡来とも話し、2時間くらい経過していた。そろそろお開きでもいいんじゃないかと思っているが、空が帰ろうとする気配はない。


そんなとき、陽キャグループにいたギャルが彰人たちの前を通り過ぎる。




なんとなく目で追ってしまっていたとき、彰人とギャルの目が合った。ギャルは一時停止したが、そのままトイレのほうに行ってしまった。


「?」


ただトイレに行くだけなら彰人のことを見る必要はないだろう。


彰人はなんとなくその少女が気になるのだった。

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