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みんなで過ごす休日

電車に乗って駅前のカラオケ店に向かう。

空はスマホを片手に”VTuberの歌ってみた動画”を真剣に見ていた。

歌詞のチェックに余念がない。どうやらボカロ曲を歌うつもりらしい。


ボカロ曲とはボーカロイドという歌詞と音階を打ち込んでいくことで”歌ってもらう”ことのできるソフトウェアを利用した作品のことだ。

少しだけ機械的な部分もあったりするが、魅力的なキャラクターが歌唱することもあり、それが良いというファンも多い。

曲にもそれぞれの個性が光る。様々な心象を表す楽曲が存在し、深い内容の楽曲も多いのだ。


だが、間違っても学校の給食の時間に流したりしないようにしよう。

音楽の好みは千差万別。音楽に関して言えば”自分の好き”が通用しない場合もある。みんな違ってみんないいという世界なのだ。


対彩香に向けてのウォーミングアップを図っているようだった。

彰人は空の家を出るまでひとつ悩みがあった。それは”服を着替えられない”こと。その悩みは意外な形で解決することになる。

おまえたちの夜配信が終わったら家に帰るつもりだったので、当然服装はそのまま・・・のはずだったのだが。


「なぁ空、どうしてみなもさんは俺が着るような服を持ってたんだ?」

「うーん・・・そういえば彰人の身長体重とか特徴とか聞いてきたことがあったかも・・・」


ちなみに彰人の身長は182cm、体重は72㎏である。標準より少し身長が高いくらいだ。

細身ではあるものの、TシャツなどのサイズはLかLLじゃないと丈が少し短く感じてしまう。ジーンズなどのパンツ類は裾を詰めなくてもピッタリだ。

上から下まで真新しい服装で電車に乗っていた。これはみなもがイメージした彰人の私服なのだろう。落ち着いたシックな出で立ちで統一されていた。


「ひょっとして、3人でどこかに行きたかったのかな・・・」

「あ、もしかしたらそうかも!お母さん、美味しいあんみつのお店に行きたいって言ってたし!」

「この服も貰っちゃったし、お礼も兼ねて今度3人でどこかに出かけよう」

「そ・・・それってデートのお誘い?!」


空は大変興奮した様子だった。確かにデートとも言えなくないが、母娘揃って出かけることをデートとしてカウントしていいものか彰人は迷う。

エロゲーでもなかなか無い、珍しいイベントだと思った。


「まぁその辺の解釈は個人の自由ってことで・・・」

「じゃあデートです!」


そうして二人は目的地の駅まで電車に揺られていた。

”彰人を守ります”と空が言い、玄関を出る前にお互いに見つめあったのを思い出す。

空には力強い意思が感じられた。彰人も朱里に言われたように「流される」ことなく、今日のカラオケを終えて渡来との食事に行くと心に決めた。


空と彰人はどちらからでもなく、自然と手をつないでカラオケ店へと向かっていた。そのさりげなくてなんでもないことが空は嬉しかった。


そのまま集合場所であるカラオケ店まで歩く。お互いに特に会話らしい会話はない。空はこうしているだけで幸せだった。

カラオケ店の前にはモデルのような女性と談笑している爽やかなイケメンがいた。風花と浅村である。

二人ともプライベートで会うというのは初めてだった。お互いの私服姿もこれが初めて。学校で見るのとは違うクラスメイトの姿にちょっとだけ気恥ずかしさを感じていた。


「二人はもう来てたんだな」

「ああ、俺は今日を待ちわびていたからな」


彰人は浅村と風花に向き合う。浅村は興奮気味だった。

普段あまり感情を表に出さないので、浅村のこういう一面を見るのは新鮮だ。


「浅村くんは一番最初に来てたのよ。でもいてくれて助かったわ・・・柚がいないとこんなに大変だったなんて・・・」


風花はそう言いながら深いため息をついた。彰人と空がその言葉の意味を図りかねていると「ナンパ目的の男たちに絡まれていた」のだと浅村が教えてくれた。

そこは浅村が機転を利かせて風花を救ったらしい。

確かに風花は目立つ。それは綺麗さが際立っているのもあるし、どこか異性を寄せ付けない一種の畏怖のようなものもあって、それが逆に男心をくすぐるようだった。

二人揃っての登場に浅村は疑問を投げかける。


「なぁ天河、もしかしてまた泊まったのか?」

「えーっと・・・まぁそうなるかな」


嘘をついても仕方がないし、風花と浅村は親友だ。ここは包み隠さず行こうと思った。


「ねぇ、彰人のその服って空のコーディネートなの?」


風花は彰人の私服姿を指摘した。彼女はハーヴェスタムーンのライブで彰人の私服を見ている。その時とはちょっと違う印象なのが気になった。


「これはみなもさん・・・空のお母さんがくれたものなんだ」


そう発言すると風花は驚いた表情を見せる。


「えっ・・・もう親公認なの?!じゃ、じゃあすでに・・・その・・・やっぱり・・・」


言いながら俯いてしまう。以前のお泊まりの際に問題になった”同じベッドで寝た”事件。あの時は悟と浅村の機転のおかげで大事にはならなかった。

むしろ何もしなかったことで彰人の男性としての株が終値から1ドル50銭ほど上昇している。

もちろん、二人のイチャコラを快くないと思っているクラスメイトもいたが、それは仕方のないことだ。


万人に好かれる、なんてことは土台無理な話である。人間誰しもが嫌われていたりするものだ。

「好き」よりも「嫌い」の感情のほうが目立つこの世界では、自分が嫌われたことをちゃんと受け止めて、そのうえで自分の力で人生の向上を目指していかなければならない。


人に好かれることだけが人生の目的ではない。見せかけの愛や友情では根本的な解決にならないし、その”よそよそしさ”がなんとなく相手に伝わるものだ。

好かれるほうが確かに良い人生を送れると思うが、それを目的にして生きることは大変しんどい。


誰からも敬愛されるのは”神”くらいしか思いつかないが、その神でさえ

「神は私を見捨てたんだ」「私には何も与えてくれなかった」

と言った具合で神に対してまで不満を持ちながら生きている人がいる。

”神という都合のいい存在”を勝手に作り上げているだけなのだろう。


現在<いま>を生きるのはあなた自身だ。現在過去未来、どのように思い、どのように過ごすかはあなたの選択にかかっている。


彰人は風花の「親公認」の単語で焦る。なにやらあらぬ誤解をされているようだ。その誤解を解かなければならない。


「風花・・・昨日泊まったのはだな・・・」

「風花っ!お母さんは私の公認ライバルなんです!一秒たりとも気が抜けません!」


空の公認ライバル発言に二人は顔を見合わせる。それってつまり・・・


「なぁ、天河はもしかして橘さんのお母さんにまで手を出したのか?」

「ちょ・・・ばっ、手を出すなんてそんなことするわけないだろ!」

「彰人なら・・・彰人ならきっとなんとかしてくれる」

「なんとかってなんだよぉ!」


風花はゴールデンダンクの名台詞を言い微笑んだ。それは主人公の高校との試合で描かれた「絶対の信頼をおけるチームメイト」へかけられた言葉である。

風花もゴールデンダンクを読んでいるのだろうか。だが彰人はそこを気にしている場合ではなかった。

浅村は得心がいったという表情でひとつの回答を導き出した。


「橘さんを救ったのが天河なんだ。ならその男の子にとても感謝しているだろう。自分では解決できなかったことを天河がしてくれた。この感情、まさしく”愛”だ!」

「あ、愛って・・・おい浅村!確かにみなもさんはとても綺麗な人だけど・・・」


そう言いながら彰人はうつむいてしまう。昨日は大好きや愛してると言われているし、スマホの操作を教えているときなんてずっと密着していたのだ。

浅村はそんな彰人の様子をみて「やれやれ・・・」と両手を上げた。


「お、もう4人来てるんだ、ってどしたの彰人?」

「あ、彩香さん!」


そこには彩香の姿があった。浅村の興奮は最高潮だった。そんな浅村の視線をまっすぐに受けた彩香はちょっと複雑そうな顔をしていた。

そんな二人の様子を風花はじっとみつめる。これは誰が見ても「浅村が彩香に恋をしている」というのがわかる。浅村もそれを隠そうともしないからだ。


「あーさーむーらーくーん?エッチな目でジロジロ見ないでくれますー?」

「ご、ごめん!でもその恰好・・・なんというかすごく・・・」


浅村は嘘をついたりごまかしたりせず、正面から向かいあった。

人間は自分に不都合なことが起きると、とっさに嘘をついたりするものだが、浅村の彩香に対する態度は”馬鹿正直”と言えるほどの潔白さをうかがわせた。


「確かに彩香・・・ちょっとその恰好は・・・その・・・」

「あああ彩香!ぶっちゃけエロすぎます!何か羽織ってください!」


彰人と空がそれぞれ彩香に向かって声をかけた。空に関しては好敵手<ライバル>に対してけん制の意味も込められている。


「あんたらねぇ・・・エロいと思うやつがエロいんだぞ☆」


彩香はいたずらっぽく笑って見せる。それがまたかわいさを際立たせていた。

彩香の服装は肩を大きく露出させた恰好で胸元もかなり見える。

更にはホットパンツを履いていて太ももの曲線がなまめかしい。

防御力ゼロのガールフレンド(候補)とでも言ったところだろうか。

それを見た風花はカバンからストールを取り出して彩香の肩にかけた。


「風花・・・?あんたもエロいって思う?」

「ええ。ちょっと刺激が強すぎよ。私のクラスメイトの風紀を乱すことは許さないわ」

「さっすが風花!私にはできないことを平然とやってのける!そこに痺れる憧れるゥ!」


空は彩香のエロさに修正パッチが当たったことで歓喜していた。

そうして5人で談笑していると、一人の女の子がこちらに向かってやってくる。

なんだか取り巻きまでいるみたいだ。

彰人はその姿を確認して手を振って迎える。それはバイト先の同僚の凛なのだが・・・


「おはよー諸君!私は彰人くんと一緒にバイトしている北条 凛って言います!今日はすっごく楽しみにしてたんだ~」

「この人が”凛さん”!?・・・彰人っ!大人の女性だって言ってたのに!」


空は「私が思っている大人と違う」と彰人に抗議した。

マジンガーZとマヅンガーZくらいの違いがあるという。

どうして空が怒っているのか。それは凛の恰好に問題があった。


「えーっと、凛さん?どうしてその恰好で?」

「え?だって彰人くんが”一番いいやつ”って言ったからだよ。これ私の一番いいやつ」


それはいわゆる”ゴスロリ”ファッションだった。黒と差し色にシルバーが入っていてドレスのような気品あふれる姿をしていた。

凛の容姿も相まってめちゃくちゃ似合っている。だが、カラオケをしに来るにはミスマッチとも言えなくない。ゴスロリ上級者はどこにでも出没するからミスマッチという表現は語弊があるかもしれないが。

問題は大量の取り巻きが発生していることである。ネトゲのモブトレイン状態だ。

モブトレインとは、Mobモンスターのことを大量に引っ張ってきてパーティーメンバーのところまで誘導し、ウィザードやハンターの高火力スキルで一気に殲滅して経験値ウマウマを実現するプレイのこと。


だが連れてくる途中で攻撃を受けて死んでしまったり、他のパーティーになすりつけてしまったりして問題になっている。ネットの掲示板では即刻晒されるプレイでもある。


凛は彰人の腕を取り、ある程度距離を保ちつつ付いてくる取り巻きに対して可愛い声で言った。


「ごめんねっ、私にはもう先約がいるの!」


それを聞いた取り巻き連中は_| ̄|○←こんな感じで打ちひしがれていた。

「やはり長身イケメンには敵わないのか!」や「絶対ビッチだろ・・・」とか

「萌えるでござるな」なんてそれぞれ口にしながら散っていった。

彰人はその様子を見てあきれ顔だ。


「もう、凛さん。そんな可愛い声で言ったら逆効果ですよ?本当にアニメのキャラが現実に現れたみたいになってるじゃないですか」

「えっえっ、それって褒められてるのかな?しかもかわいいて・・・ドキドキ」

「ある意味褒めてますけど・・・」


そうして腕を取ったままの凛を引き剝がすべく、空が毅然とした態度で凛に向かい合う。


「あなたが凛さんですね?私は橘 空と申します。”彰人”のクラスメイトかつ彼女候補、そして今日は訳あって一緒に来ました。凛さんは”ただのバイト先の同僚”ですよね?」


どややぁという感じで「さっきまで手をつないでいたんだぞ」マウントを取りに行く空。ここは先手必勝で力関係を示しておかなければならない。

空と凛に緊張が走る。各国の交易が途絶えてしまいそうな挑発行為だった。


「ふぅん・・・あなたが空ちゃんね。確かに彰人くんと一緒に働いてるけど”私しか知らない彰人くんの一面”知ってるんだけどぉ・・・そんな高圧的態度なら教えられないなぁー」

「うぐぅ!?私の知らない彰人!どんな風に働いてるのか知りたい!」


凛はニヒルに笑みを浮かべながら続ける。


「それに・・・空ちゃんがこんなにかわいいのは予想外だったかもねー」

「えっ、かわいい?私が・・・?」

「うん。かわいいよ、すっごく。彰人くんも隅に置けないなぁーこのこの」


彰人の脇腹を肘で打ちながら答える。

空の表情がみるみる変わっていく。


「彰人っ!凛さんは裏表のない素敵な人です!」

「・・・空、その言い回し初めて会った時も言ってたよな」


空はかわいいと言われることに慣れていない。凛にかわいいと言われ堕ちてしまう。まさしくチョロインであった。

そんなやりとりを見ていた彩香が手を叩きながらみんなに知らせる。


「はいはい。なんか人だかりができちゃってるからもう入るよ。あたしは人混みが嫌いなの」

「そうね。私も不躾な視線を浴びるのは好きじゃないわ」


誰かがヌイッターにでも投稿したのだろうか。30人くらいの人だかりができていた。もしかしたら先ほど凛に振られた勢の仕業かもしれない。

確かに美少女揃いなので目立つことは間違いない。単純に駅前だから人が多いというのも一理あると思うが。


そんな中である姉妹が彰人たち(正確には風花)を見つめていた。


「お姉ちゃん、あの人がそうなの?」

「そう。私服を見るのは初めてだけど、あの雰囲気までは隠しきれない」


”お姉ちゃん”と言った少女のほうが身長が高く、見た目もお姉ちゃんだ。

一方のお姉ちゃんと呼ばれた少女は身長は低いが胸はそれなりに大きい。一見するとアンバランスな姉妹がそこにはいた。


「お姉ちゃん!あの男の子2人かっこよくない?彼氏かなぁ!」

「日和、あの詩亜嬢に男なんて穢れたもの居ていいはずがない」


日和ひよりと呼ばれた少女はお姉ちゃんを人混みをかき分け前に誘導する。

背が低いためちゃんと見えてなかった。すると・・・


「え、彰人・・・?」

「お姉ちゃん、あの男の子と知り合いなの?!すごーい!」

「ふっ、お姉ちゃんは大人だから」


どやぁ!と日和に向かって腰に手をあて胸を張った。だがいかんせん小さいので、あまり偉そうには見えなくて微笑ましい光景が広がっていた。


「(彰人と詩亜嬢がカラオケ・・・ってことはハーヴェスタムーンの生歌が聴けてしまうのでは?!)」


お姉ちゃんと呼ばれた小さい女の子はどうにかして彰人にコンタクトを取ろうと妹と一緒に行動を開始した。


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