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親と子と

その日の朝食


白米のいい香りがしている。具だくさんのお味噌汁に焼き鮭、小鉢には納豆、それと味付け海苔とお漬物・・・旅館で迎えた朝のような、そんな朝食の風景だった。

橘家では食生活の充実をモットーとしており、ご飯だったりトーストだったりとその日によって違っていた。それはみなもが空に大きくなってもらうためにと栄養バランスを考えて食事を作っているためだ。


みなもは看護師として働いていた経歴を持つ。その際に管理栄養士の資格も取得しており、自身が料理好きなのもあって手の込んだものも喜んで作る。


今日は彰人に向けての献立である。一人暮らしで焼き魚を食べるということはあまりしないだろう。魚焼きグリルの使い方がわからなかったり、掃除が面倒という理由からあまり進んで魚を食べたがらない若者が多い。

魚焼きグリルはなにも魚を焼くだけのものではなく、様々な料理に使える便利な品物だ。高火力で焼けるのも特徴で様々な料理研究家も推している調理器具である。


みなもは2人揃って仲睦まじく降りてきたのを見て安堵した。

なんだかお互いの視線が熱っぽい。さながらそれは新婚夫婦の様相を呈していた。


「ふふっ、お母さんお邪魔かしら?」


2人でリビングに来て腰を下ろしたところにみなもがそんなことを言い出した。

「え・・・いやいやいや!そんなことないです!居てくれなきゃ困りますよ!」


彰人も「なんだか新婚みたいだ・・・」と内心思っていたので、みなもの言葉をいち早く理解し反応した。あまりにも昨日と今日でお互いの距離が近づきすぎた感じすらある。


一方の空はみなもの発言と彰人の慌てる姿を見て「?」という感じだった。

歴戦のエロゲーマーである空は恋愛事情に詳しい(だいぶ偏ってはいる)のだが・・・


そのエロゲーにも弱点が存在した。

それは「主人公の両親はだいたい海外に単身赴任しているか、もしくは夫婦揃って世界一周クルーズ旅行に出かけており、放任主義の極みのような両親の元で暮らすパターンがほとんど」だからだ。


主人公と義理の妹と暮らすようなシチュエーションなのにも関わらず、

「あなたは本当の妹じゃないのよ」などといった重要な手紙をその辺の棚にしまっておいて、それを妹が偶然見つけ愕然とするという・・・かなーり雑な感じなのがエロゲーの主人公の両親たちである。

極めつけは「お前らはそうなると思ってた(てへぺろ☆」で丸く収まってしまい、兄妹の心理的葛藤は一体何だったのか・・・(哲学)となってしまうのだ。


彰人はいよいよもってエロゲーの世界に足を踏み入れたのではないかと錯覚していた。お昼からは美少女たちとのカラオケパーリィだし・・・。

親友の浅村が来てくれることに心から感謝した。


「ごっはん~ごっはん~」


空は朝から上機嫌だった。彰人とずっと一緒にいれて嬉しいし、今日はみんなでカラオケなのだ。人前で歌うことは少し恥ずかしいけれど「みんなで」遊べることが純粋に嬉しかった。


「はいはい。もう・・・空ちゃんが幼くなっちゃったみたい」

「ははは・・・」


みなもはわが娘を愛おしく感じていた。今も可愛いが昔の幼い頃だってそれはもう可愛いかったのだ。結婚して子供が出来て、お父さんと一緒に暮らして・・・


そんな時にふと「旦那」のことが頭をよぎった。子供は一人で生まれてくることはない。

みなもは少しだけ表情に影を落としてしまった。こんなに楽しいはずなのに、やはり今でも旦那のことが気になってしまう。今頃どうしているのだろう・・・


「みなもさん?どうかしたんですか・・・?」


彰人はそんなみなもに思わず声をかける。いつも明るく振舞ってくれるみなもが悲しそうに見えたのだ。その発言に空も心配そうに見つめる。


「えっ・・・う、ううんなんでもないのよ」

「そう・・・ですか。ならいいんですけど・・・」

「ごめんなさい。ちょっと昔を思い出しちゃって・・・さぁさぁご飯食べましょ!」


そんなこと言うみなもはいつも通りだった。

彰人は気にはなったものの、それぞれ事情があるのだと思い、この件を深く言及することは避けた。


食事を終えて3人はリビングで会話をしていた。

彰人はみなもにePhone13 Max Proの使い方を教えると前に約束していたため、駅前のカラオケボックスに行くまでの時間でスマホ教室を開くことにしたのだ。


向かい合って座っていた彰人に声をかける。ソファーをポンポンと手で叩き、


「彰人くん、隣に来てほしいな。そのほうがわかりやすいと思うし」

「あ、はい。それじゃあ・・・」


そう言って指定されたみなもの隣に座る。ふわっといい香りが漂う。

ドギマギしながらもスマホを手に説明を始める。すると彰人の左手にみなもの右手が重なる。


「(落ち着け・・・別に深い意味はない、ただ熱心にスマホの操作方法を教わりたいだけなんだ!Coolになれ天河彰人!)」


いつの間にかお互いの肩が密着しており、顔との距離も近い。彰人は顔が熱くなっていくのを感じた。


一方の空は対面のソファーに座ってその様子を見ていた。

二人で一つのスマホを持って談笑している。それに二人はもう投げ間合いぐらい近い、というか密着している。

サラリーマンファイターⅡXだったら確実にスクリューパイルされている距離だ。

そして気づく。みなもがスマホの画面を覗くときに明らかに”当て”に行っているのを・・・。

”それ”は空のは小さくて(物理的に)当てられないものだ。

彰人もそれに気づいているのか顔が真っ赤だ。


空の中で種(SEED)が割れた。

目のハイライトが無くなり叫ぶ。


「あんたって人はーッ!」


言いながら対岸のソファーへ乗り込み彰人の右隣に座り腕を取る。右腕を空、左腕をみなもに取られ、彰人は身動きが取れなくなった。

どちらもぎゅーっと抱きついてる形になる。彰人は平常心を保ちつつ言葉を放った。


「あ、あの・・・これはどういう・・・」

「お母さん!彰人と私は運命の糸(意図)で結ばれているんです!さすがのお母さんでもこれ以上は看過出来ません!デスティニーだからもう変えることは不可能!アカシックレコードにも刻まれています!」


彰人を挟みつつ顔をひょっこり出してみなもに抗議する。

そんなみなもは悪びれもせずこう言った。


「二人は昨日ずっと一緒だったでしょ?たまにはお母さんだって彰人くんに抱きつきたいときだってあるのよ?」

「抱きつきたいという部分については全面的に同意するけどダメなの!お母さんは・・・その・・・」


そう言って俯いてしまう。この先は実の母親に向けては言いにくい言葉だ。


「うん。なぁに空ちゃん?」

「そ、そのっ!女性的魅力に溢れすぎてて・・・!彰人が・・・堕とされ・・・」

「・・・」


彰人は沈黙しつつ思った。空が言いたいのは多分、エロゲーの母的なことだろうと。

初めて会った時も童貞を殺すセーターを着ていて、しかもそれが怖いくらいに似合っていた。

本当に綺麗な人だなと彰人は思った。


「おとす・・・?恋に落ちる、じゃなくて?」

「堕天使の”堕”と書いて堕とす、です!お母さんは・・・とっても綺麗だから・・・」

「・・・!!」


みなもは目を見開いて驚いた表情を見せた。

そしてスマホを素早く操作して言った。


「・・・空ちゃん、今のセリフもう一回言って」

「ふぇ?お母さんはとっても綺麗だから・・・」

「Yes!!」


そう言ってみなもはガッツポーズを見せた。

スマホのボイスレコーダー機能を使って今のセリフを録音することに成功したのだ。


「彰人くん、このデータ絶対失いたくないの!」

「えっ、えっとじゃあクラウドにバックアップを残しましょう」

「ええ!クラナドに!」

「クラウドです・・・」


彰人はなんとか右腕を解放してもらい、スマホを操作して先ほどの録音データをクラウド上にアップした。


そんなこんなをしているうちにお昼に近づいてきた。

出かける支度をしたほうがいいだろう。


「空、そろそろ準備したほうがいいかも」

「あ、はーい。どれ着ていこうか迷ってるからお母さん選んでほしいの」

「うーん・・・空ちゃんならどれを着たって可愛いと思うけど・・・」


空が着替える間は部屋にいたほうがいいだろうと判断し、空の部屋へ向かった。

浅村にLINEを送ってみる。するとすぐに返信がきて駅前のゲーセンで時間を潰しているらしかった。

今日を待ちわびていたとさえ書かれている。相当楽しみにしていたようだ。

そんな浅村に「一緒に楽しもう。そして今日来てくれてありがとう」と感謝を伝えた。

そんな彰人のLINEにはニコニコ笑顔の絵文字が送られてきたのだった。

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