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ついうっかり

翌朝


彰人は身体に温かい感触を感じつつ目を覚ました。

見慣れない天井、そしてすぐそばで寝息を立てている空がいた。

「1度だけ、1度だけであとは我慢します!」なんて言ってはいたものの、めちゃくちゃ抱きついている空がいた。

やれやれと思いながらも、その頭を撫でてみたりする。

さらさらとした髪の毛を手ぐしですいてみたりする。彰人は空は朝が弱いと思って油断していた。だが・・・


「(えっ、えぇぇぇぇー!ど、どどどどどうすれば・・・!)」


実は珍しく朝早く目が覚めていたのだが、彰人から触れることはこれまでなかったのでされるがままになっていた。そして完全に起きるタイミングを失ってしまった。

自分から抱きついたりするものの、彰人のほうから行動を起こされると緊張して何もできなくなってしまう。

それでも、自分のことをちゃんと女の子だと意識してくれてるのかなとか幸せを感じていた。そうしたまま時間が経ち、やがて・・・


「・・・起こしちゃったら悪いし」

「(ああっ・・・終わってしまう!A-B間リピートを希望します!)」


彰人はそう呟き手を止めた。一方の空はデジタルオーディオプレーヤーの便利な機能を思い出し、リアルでエンドレスなでなでを継続してもらえるよう心の中で懇願していた。


今はまだ朝の6時を過ぎたくらい。カラオケは全員の都合を考慮して正午から始めることになっていた。

駅前にあるカラオケボックスで楽曲数No1の機材があり、ドリンクやフードサービスなども充実しているちょっとお高いお店だ。

今回もまた彩香のおごりでいいらしい。自分から言い出したから、と彩香は言っていたがウェイクミーランドのときも大所帯だったわけだし、流石に今回は割り勘でいいと彰人は提案したのだが・・・


彩香「彰人は学生で、しかもバイトしてる身でしょ?こういうのは変に気を遣う必要ないから」


とLINEで窘められてしまった。

だがここで疑問が残る。自分と同い年なのに学生ではないのか?お金だって勝手に入ってくるわけではない。そして・・・


「(どうして俺がバイトしていることを知ってるんだ?)」


彰人が駅前の本屋でアルバイトをしているのは学校関係者と悟、浅村、そして空だけのはずだ。少なくとも彩香にバイトのことを言った覚えはない。

さらに言えば昨日の彩香の空に対する発言「あんたがやってるゲームには・・・」の部分。

空が歴戦のエロゲーマーなのを知っているのは彰人と虚空さんフォロワー(虚空たんスレを見ているか、おまえたちの夜配信のくだりを見ている必要がある)くらいなはず。

彩香は彰人が知らない一面を持っているのではないか。どうしてもそこが引っかかっていた。


やがて空が耐え切れずにもぞもぞし始めた。彰人はそれを確認して空に声をかける。


「おはよう。よく眠れた?」

「お、おはようございます・・・あの・・・」

「どうしたの?顔が赤いみたいだけど・・・」

「(~~~!それは彰人のせいなんですよぉ!)」


彰人は普段通りでCoolな面持ちで微笑んでいた。

そんな態度を見て「普段からそうしてくれればいいのに」という想いでいっぱいな空がいた。わざとやっているなら相当なワルである。


「もうっ!なんでもないです!」

「えっ、なんで怒ってるの?」


そういって空はベッドから降りて部屋を出て行ってしまった。

顔も合わせようとしない。空が彰人を見ないなんてことは今までなかったことだ。

彰人は寝ている間に何かしてしまったのかと思い本気で悩んでいた。

一方の空はドアを背にして立ち、なでなでされたことを思い返していた。


「(どうしよう・・・彰人の顔を直視できない・・・)」


これが彰人の本心なのか。それとも単なる好奇心なのか。そもそも空は男の人のことをよく知らない。

お父さんの記憶もおぼろげにしかなかった。空が小さいときによく頭を撫でてくれたような気がするが、それも遠い昔の記憶だった。

水でも飲んで落ち着こう、そう思って1階へと降りていった。


「あら、空ちゃん早いわね・・・ってどうしたの?」


台所にはみなもが立っており、朝食の準備をしていた。今日は純和風な朝食らしい。

みなもは空のことをよく見ている。それは不登校になったときに空の異変に気づけなかったという自責の念にかられ、もっと空のことをしっかりと理解しようと思っていたからだった。

昨日も二人一緒に寝たのだろう。その際に何かあったのだろうか?

でも彰人がそんなことをするような男の子には思えない。

だから、みなもは静かに空の言葉を待った。


「・・・彰人がね、その・・・」

「うん。やっぱり彰人くんのことなのね」

「その・・・彰人が・・・」


そう言って空はうつむいてしまう。みなもは思った。

いくら彰人とはいえ男の子なのだ。隣に女の子がいたら衝動を抑えられなくなるのかもしれない。

空は自分の娘だということを差し置いてもかわいい。そんな子が隣で無防備で寝ていたら、ちょっと触ってみたくなる気持ちもわかる。

男はだいたい野獣・・・そう、真夏の夜の淫夢もびっくりなのだ。


「朝にねっ、その・・・頭を撫でてきて・・・すごくうれしくて・・・もう顔を見れなくて・・・!」

「・・・なるほどですね」


みなもは間違いが多い若者敬語で返した。

ちなみに「なるほどですね」という言い回しは適切ではない。

「なるほど」という感嘆詞に「ですね」という丁寧語をつけたりはしない。

それにネットで調べると「なるほどですね ムカつく」と検索候補に出てくるくらいなので、もしこの言い回しを多様しているのならば「さようでございますね」に言い換えるといいだろう。間違い敬語を多様していると軽く見られてしまう危険がある。


「お母さん!私どうすればいい?」

「空ちゃんはどうしたい?」


みなもはそう言って空を見る。別にいじわるをしているわけではない。

”知らなかったこと”にするか”相手の気持ちを確認する”か。それは空に判断を委ねようと思ったのだ。


「わ、私は・・・彰人の気持ちが知りたい!」

「・・・そう、ならちゃんと彰人くんに聞いてみて。彼なら・・・彰人くんなら答えてくれると思うわ」

「うん・・・彰人に聞いてくる!」


そう言って勢いよく階段を登っていった。そんな空を愛おしく思う。

彰人に会ってから本当に変わった。初めて彰人とマグダナルダで会う日、あんなにはしゃいでいる空を見て本当に救われたのだ。

だからこそ、この恋がうまくいってほしいと願う。みなもが彰人のことを大好きだと言ったのは”2つの意味”である。


「(彰人くんの周りには魅力的な女の子がたくさんいる・・・)」


愛だの恋だのは自分の気持ちだけでは成立しない。お互いに想い合う関係でなければ、その関係も長くは続かない。そのことをみなもはよく知っていた。


空は階段を登り切り自室の前に立つ。この先に彰人がいる。緊張しながらドアを開け放った。

すると・・・


「空・・・!その、ごめん!」

「えっ」


空は目の前の光景に目を疑った。彰人は正座をして両手を床につけ、空に対してうやうやしくお辞儀をした。つまりこれはジャパニーズドゲザである。


「空が許してくれるまでこうしてるから!」

「ええっ、彰人っ顔を上げてください!」


そう言っても彰人は顔を床につけたままだった。彰人はそのままゆっくりと口を開く。


「・・・空が俺のことを見ないなんて今までなかった。もしかしたら何かとんでもないことをして怒らせたんじゃないかって・・・」

「・・・確かに、彰人はとんでもないものを盗んでいきました」

「えっ、盗んだ・・・?」


彰人は空の意外な言葉に思わず顔を上げる。何を盗んだのだろうか・・・。彰人にまるで心当たりがない。

空は溜めに溜めて言い放った。


「私の心です!」

「・・・」


それは有名な怪盗アニメ作品の名言である。その作品だけ監督が違い作品のテイストも違う。ジャケットの色も赤ではなく緑なのだ。怪盗アニメファンの中で意見が分かれる作品だが名作であることには違いない。


「彰人は私の頭をなでなでしましたね?!さらには私の髪を弄んだりして!」

「空・・・起きてたのか?!」

「はい!もっと普段からしてほしいくらいです!」

「じゃあなんでさっき目を合わせてくれなかったんだ?」

「そんなことをしたのに、まるで何もなかったかのようにしてたのが許せなかったんです!あとすっごくうれしくて・・・その彰人の顔をまともに見れなくて・・・」


カァァァとお互いの顔が赤く染まる。しばらくして彰人から口を開いた。


「・・・その、まだ寝てるかなって思って・・・。空がかわいくてつい触ってみたくなって・・・」

「今度寝てるときにやったら怒りますからね!次からはちゃんと起きてるときにしてください!」

「・・・」


それはつまりいつでもしていいということだろうか。そう思って無言を貫いていると・・・


「わかりましたかー?!」

「わ、わかった!ごめんなさい・・・」


彰人は申し訳なさそうに答えた。

空はそんな彰人の隣に座り肩を並べて微笑んだ。

なんだかいい雰囲気になっている。まるで恋人のように過ごしていた。


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