おまえたちの夜 #2
成田 智はガールフレンドである宮内 里奈の誘いでスキー旅行を楽しんでいた。二人で新雪のゲレンデを滑り、冬にしかできないアクティビティを満喫した。
今日は里奈の叔父にあたる”中里夫妻”が経営するペンション<ディアノイア>でお世話になる。里奈によると中里夫妻の料理は絶品らしい。
ディアノイアは山奥にあり、運がよければ希少な動物たちを見ることもできるそうだ。都会に住んでいる智にとってこんな機会は滅多にない。
ひとしきり遊んだあと、里奈と二人でゴンドラに乗り目的地へ向かっていた。
智たち二人以外にもディアノイアに泊まるお客さんがいるようだ。みんないい人だといいな。
里奈「到着~!ここが叔父さんが経営するペンションだよ!」
智「へぇ・・・」
そこには北欧ノルウェーを彷彿とさせる世界が広がっていた。ペンションの周りは雪景色が広がっており、大自然のど真ん中にディアノイアは建っていた。
智はこの感動を写真に撮りたいと思いスマホを取り出した。すると・・・
智「あれ?ここって圏外なんだ。外との連絡手段はどうするの?」
里奈「ディアノイアの中に専用電話があるから心配しないで。そうやってすぐにスマホを見るの、悪い癖だよ?」
智「ごめん・・・なんか圏外って通信障害の時くらいしか体験してないからちょっと不安になった」
里奈「あはは。その気持ちもわかるよ。私だって暇があればヌイッター開いちゃうし。でも今はスマホのことは忘れよう?せっかく来たんだから」
智「ああ。そうだな」
二人はそんな会話をしながらディアノイアの玄関をくぐった。スライド式の木製の扉を開け中に入る。
加奈「あれ、お客さんじゃない?ねぇマスター!若いカップルがご来店だよー!」
中里「若いカップル?もしかして里奈ちゃんと智くんかな?」
里奈「叔父さん!久しぶり!」
智「初めまして。成田 智と申します。本日はお世話になります」
中里「やぁ、里奈ちゃん、そして智くん。ここは何もないけど”何もないところ”がセールスポイントなんだよ?都会の喧騒を忘れてくつろいでいってね」
中里夫妻と挨拶を交わし、ロビーに案内される。そこには同じ会社で働いているというOL3人組(加奈、聖羅、雫)とフリーカメラマンの一ノ瀬 美也子、投資で生計を立てているという戸坂 幸次、そして一人距離を取って座っている田中 誠二の合計6人がいた。
智と里奈はそれぞれに挨拶をした。距離を取っていた田中はその挨拶を聞いているのかいないのか、反応はなかった。
それまで無言だった虚空さんがポツリと感想を漏らす。
「田中さんがあやしいです!」
ポッポ時計「挨拶もできないから犯人確定」
ステルス忍者「まって、まだ何も始まってない」
病んでるとグレてる「俺の本名、田中なんだが・・・」
並盛「じゃあ俺は中田だよ」
マッソ「じゃあってなんだよ!」
鯵さんま「ジャーパネットジャーパネットフゥ!フゥ!夢のジャパネットナカタ~」
突剣階級「送料はおまえらが負担!」
たっちゃんパパ「なんで送料無料じゃないんだろう?少し足して無料でいいよね」
クソ汁「おまえら脱線しすぎだろwww」
突然の本名晒しにもめげずに虚空さんはいう。
「ジャパネットから離れてください!いっつも電気シェーバーの宣伝じゃないですかー!」
二階堂紅しょうが「虚空さんのコメントが一番切れ味あるなwww(シャープな4枚刃)」
だいだい「今BSでシェーバーの宣伝してたw」
†ガイア†「ワロタ」
彰人は前と同じように空の部屋で自分のスマホを使って配信を見守っていた。
先ほどのネタバレは確かにこの登場人物の名前が使われていた。
ネタバレ厨は本気で正体を明かすつもりのようだった。あの一回だけで引き下がるとは思えない。虚空さん、そして初見さんのために彰人もコメントに反応できるよう細心の注意を払っていた。
ロビーにいた人たちと他愛ない会話を交わし交流を深めていった。
そんな中、田中は一人誰とも話さず、かと言って自室に行くわけでもなくロビーの隅のほうで読書をしていた。
智はそんな彼を心配する。無理になれ合う必要はないとは思うが、このままにしておくこともできない。智のほうから声をかけることにした。
智「あの、田中さんはどんな職業をされてるんですか?」
田中「・・・フリーのシナリオライターだよ」
田中はめんどくさそうに言った。智はそんな反応をされてもめげなかった。
声をかければ返事をしてくれるのがわかっただけでも収穫だと思った。
智「へぇ!じゃあ今読んでいる本もシナリオを考えるための・・・」
そう言ってブックカバーがされた文庫本を覗き込んでみる。すると・・・
智「(黒いせぇるすまん・・・?文庫本サイズのマンガを読んでいるのか?)」
田中「おい、勝手に覗き込むんじゃない」
智「あっ・・・その、すみません」
明らかに田中の機嫌が悪くなる。確かに黒いせぇるすまんも人間の心をうまく表現した傑作マンガだが、まさかマンガを読んでいるとは思わなかった。
そうして会話ができる状態ではなくなってしまったため、里奈の元へ戻ることにした。
里奈「みんなそれぞれ事情があると思うよ?」
智「あー・・・そうだね・・・」
智は大学でも一人でいる人をほっとけない性格で声をかけたりする。そのおかげで大学内では友達がたくさんいるのだが、今回は地雷を踏んでしまったらしい。
フリーのシナリオライターならば有名な著者の話題で話が合うかなと思ったが、あいにく智は黒いせぇるすまんをよく知らなかった。田中と話すのは一度時間を置いたほうがいいだろう。
ロビーに荷物を置いたままにもしておけないので、部屋に行き夕食の時間まで過ごすことにした。一人になるとついスマホを取り出してしまうが、圏外なので何もできない。智は時間がゆっくり流れているように感じた。




