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”慣れる”ことと”忘れられる”こと

今週の土曜日にまた空の家でゲーム配信をしようと思った。

空とはLINE通話で連絡を取り合い相談して決めたことだ。

学校では空、朱里、風花、柚とクラスメイトが談笑している様子が伺える。

どんなガールズトークを繰り広げているのかはわからないが、これこそ青春だろう。


彰人は浅村から8インチタブレットを借り作業をしていた。

100円ショップで購入した保護フィルムを気泡が入らないよう慎重に貼り付ける。

その様子は真剣そのものだった。悟も浅村も一言も発さず見守る。

やがて保護フィルムが貼り終わる。


「よし。綺麗に貼れた」

彰人は満足そうだ。その様子を見て浅村が声を上げる。


「天河、お前は一体何者なんだ?」

「浅村、知らねーのか?彰人は保護フィルム貼りの職人なんだぞ」

「そんな職人もいるのか・・・」


浅村は驚きを隠せない様子だった。それを見て彰人が呆れた声を出す。


「悟はテキトーなことを言いすぎだ。ちょっとコツがいるけど誰でもできるよ」

「でも天河、携帯ショップの店員も綺麗に貼ってくれるぞ?」

「まぁ、あの人たちはたくさん経験してるだろうし、職業柄じゃないかな」


確かに携帯ショップによっては保護フィルムを無償提供してくれて貼ってくれるところもある。今時はフィルムではなくガラス製が主流なので、ホコリなどが入らなければ誰でも気泡がなく貼ることが可能だ。


そして浅村に8インチタブレット用クッションケースとマイクロファイバークロスを渡した。


「持ち歩くときはこれに入れておけばスレ傷なんかはつかないと思う。ただ強い衝撃には耐えられないから、そこは注意で。あとは画面を拭くようにこれも」

「さすが天河だな!いくら払えばいい?」

「これ全部100円ショップで購入したからお金は大丈夫だよ。その代わり大事にしてやってくれ」

「ああ!ありがとう!」


浅村は嬉しそうだ。早速ケースに入れカバンにしまった。

ドラゴンズボールも読み終わり、今はシヌノートを読んでいるようだ。

なぜわかったのかというと、彰人に対して「天河って、面白っ・・・!」と言ってきたからである。それはシヌノートを拾ったことにより出会う死神のセリフだった。


「浅村は経験ないかもしれないけど、俺も小さい頃に復讐ノートみたいなの書いた記憶がある。だからシヌノートにはなんか思い入れがあるんだ」

「天河、俺をなんだと思ってるんだ?俺だって復讐心に駆られたことくらいあるぞ」

「そうなのか?あまりそんな感じないけどな・・・」

「俺も最初からこんなんじゃなかったんだよ」


誰にでも気兼ねなく接することのできる浅村でも黒歴史はあるらしい。

黒歴史がない人なんていないのかもしれない。誰だってやり直したいと思う過去はある。間違いに気づけたからこそ、今の自分があるんだと彰人は思った。


そうして学校生活は穏やかに過ぎていった。


そして土曜日。カバンにスーパー家庭的機械本体とソフトを入れ、あとは午前中のうちに駅前のケーキ屋さんで買ったクリームたっぷりのロールケーキを持ち駅に向かった。

もう空の家の場所はわかるので迎えはいいと言ったのだが、空は駅に迎えに来ると言ってきかなかった。

そして空の家の最寄り駅に到着する。改札を出るとすぐに空が駆け寄ってくる。


「彰人!待ってたよ!」

「ああ、これ持ってくれないか?午前中のうちに買ってきたんだ。みなもさんと一緒に食べて」

「え?これケーキ?嬉しい!みんなで食べようね!」


そうして10分程度他愛のない会話をしながら歩き、空の家の前まで来る。

すると一台の高級車が路肩に駐車していた。別に車が止まっていること自体はそんなに珍しいことじゃない。でもここら辺では見かけない高級車だ。

後部座席とリアウインドウには黒いスモーク加工がされており、中を見ることはできない。

彰人はそれがなんとなく気になりつつ、空の家に入っていった。


「お母さん、ただいま!彰人がロールケーキ買ってきてくれたよ!」

「みなもさん、またお世話になります」

「おかえりなさい空ちゃん。彰人くんもいらっしゃい。じゃあ早速食べましょう。紅茶の準備するわね」


今日のみなもさんはピンクのセーターを身に着けていた。相変わらず胸に目が行ってしまいそうだが、空におっぱい星人呼ばわりされてしまいかねない。彰人は気を引き締めて臨んだ。


「彰人くん、最近の学校生活はどう?」

「友達がいるので楽しいですよ。それにこの前ライブに行って友達も増えたんです」

「彰人・・・それってもしかして女の子?」


空がジト目で見つめてくる。美智留もクウカも女性だが、特にクウカは”女の子”という年齢ではない。まぁそんなことを言ったらグーで殴られそうだが。


「まぁ・・・女の人もいるよ」

「うー・・・彰人はモテるんだからね?風花だって・・・」


そう言って言葉を詰まらせる。風花は空になんて話したんだろうか。

あの日以来、「橘さん、一条さん」ではなく「空、風花」と名前で呼び合うようになっていた。それは女の子同士の秘密だろう。


「ふふっ、最近は空ちゃんも楽しそうでお母さんも嬉しいな。この前だって彰人くんのことをね・・・」

「わー!お母さんダメ!」

「?」


何やら自分の話題がこの母娘の間で話されていたようだが、空が必死になってそれを妨害する。おそらく悪い噂ではないと思うけど・・・。


「はいはい。わかったわ空ちゃん。秘密ね」

「もうっ・・・」


そうしてケーキと紅茶でティータイムを過ごし、やがて2階の空の部屋に来た。


パソコンデスクのスピーカーの横に巨大な熊のぬいぐるみが置いてあった。

それは彩香にもらったウェイクミーランドのぬいぐるみだ。


「今日はどんなゲームをやるの?」

「空はもちろん初めてだと思うんだけど、この”おまえたちの夜”っていうゲームだよ」

「おまえたちの夜・・・って?」

「冬のスキー山荘で事件が起こるんだ。それを解決するゲーム。空がいつもやってるその・・・エロゲー・・・みたいな」


女の子の前でエロゲー発言は勇気がいるが、それ以外の表現が見つからなかった。それを聞いた空は顔を輝かせる。


「えっ、じゃあADVですか!それならちゃんと出来そうです!」


世の中にはノベルゲームのことを「ADV」と呼ぶ人と「AVG」と呼ぶ人が存在する。別にどちらが正しいとかはないのだが、それぞれで分かれていたりする。

単純に言葉を区切る場所が違うだけだ。空はADV派らしかった。


空はスーパー配管工ブラザーズでワールド1クリアですでに憔悴していた。

アクションゲームは苦手なのかもしれない。


「ああ。今回はコメントを見逃すこともないし、自分のペースでできると思う。ただし・・・」

「ただし?」


彰人には一つの懸念があった。今回もゲーム配信だし、おそらくnyちゃんねらーが多くくるだろう。そうすると・・・


「ネタバレ厨の存在が心配だ」

「ネタバレ厨って?」


「ゲームの結末を全部しゃべってしまう人のことだよ。おまえたちの夜は有名なゲームだし、かなり昔の作品だ。内容を知っている人も多いと思う」

「うーん・・・それは私が”ネタバレしないでください!”ってみんなにお願いします!みんな多分いい人です!」


空は簡単に人を信用しすぎるような気がする。彰人はひとつ気になったことを聞いてみた。


「空はさ、煽ってくるコメントを見てどう思う?配管工ブラザーズの時だって結構いたけど・・・」

「私、ずっといじめられていたからそういうの慣れたんだと思います・・・あまり深く考えないようにしてます」

「・・・そうか」


そんなことに慣れなくてもいいのだが、空の過去に干渉できるわけではない。

人は”慣れる”ことと”忘れられる”ことのおかげで生きていけるのではないかと思う。そうじゃなかったらとてもじゃないが精神が持たない。

今後はそういう思いをしなくていいように全力でサポートしてあげようと思った。


今日は事前にフォロワーに告知をしていた。さらに自身の紹介ページで”土曜日の17時配信です!”とコメントを残している。

スーパー配管工ブラザーズ回のアーカイブ配信はかなりの再生数になっていた。

nyちゃんねらーを始め、口コミで広まったのだろう。確かにただの初見プレイではなかったと思う。


もうすぐ17時。空はパソコンの前で準備をした。


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