疑心
瀬良が運転する車の中で彩香はスマホを見ていた。彼女のスマホのLINEにはメッセージを知らせるバッジが”999”となっている。彼女のLINEには知らない人からのメッセージがたくさん来る。それは好意的なものもあるし、誹謗中傷を表すメッセージもたくさんあった。
いつ、どうやって自分のLINEアカウントが流出したのかは知らない。最初は一件一件ブロックしていたが、最近ではもう面倒くさくなって放置していた。
そんな中”天河 彰人”の文字を見つけてタップする。今日のことのお礼が記してあった。そしてまた遊びに行こう、そう書いてあった。
彰人は優しい。それは画面上でも伝わってきたし、実際会っても優しかった。
自分の信じる人は彰人しかいない。彼なら自分を特別扱いしないで見てくれる。
だからこそ、空に負けるわけにはいかない。絶対彰人を振り向かせる、そう強く思った。
そこに”浅村 竜二”からメッセージが来る。
「(浅村・・・)」
彰人の親友で、確かにいい奴だと思った。気が利くし、なんというか”慣れている”感じがある。それに自分に興味を持ってくれている感じもあった。
でも、なんて返信しようか迷う。彩香は他人に対して疑心暗鬼になっているところがあった。自分に向けられる好意を素直に受け取ることができなくなっていた。
それはLINEの件もあるし、配信中のときのコメントや掲示板の書き込みなども彼女を迷わせる理由となっていた。
”エゴサをするな”とアドバイスを受けたりもしたが、やはり自分のことがどう写っているのか気になってしまい、見てしまう。そうして一人落ち込んでしまったりする。
エゴサとは”エゴサーチ”の略で自分自身や自分に関わりのある会社やサービスが、どのように思われているのか検索することだ。
スマホを見たまま固まっている彩香を見て恋が声をかける。
「どうしたの彩ちゃん?もしかして彰人くんから?」
「え?・・・ああ、浅村くんからなんだけど・・・なんて返信すればいいかわからなくて」
恋は”浅村くん”と聞いて男子3人を思い浮かべる。彰人のことは写真で知っていたし、悟のことはもちろん知っている。そうするとあの茶髪の彼が浅村くんなのだろう。
「なんてメッセージが来たの?」
「今日のお礼と・・・あとあたしが読んでいるマンガを読むから語りたい・・・って」
「浅村くん、彩ちゃんに興味があるんじゃない?いいじゃない、趣味を共有できるって素敵なことだよ」
「・・・うん」
そういって浅村に返信するメッセージを打っていく。それは彰人に送るメッセージとは違い、当たり障りのない無機質な文章になっていた。
そうしてメッセージを送る。すると数分後に浅村から返信が来た。無機質な文章であったが浅村は喜んでいるようだった。
瀬良は運転しながら後部座席の二人の様子を見やる。今日の計画は果たして良かったのか・・・瀬良は彩香に従っただけだ。彼女がそう望むなら手を貸すまで。もう誰も失うわけにはいかない。そうして目的地まで車を走らせた。
ウェイクミーランドから帰る一行は途中まで同じ電車に乗り、それぞれに別れ帰っていた。
男子3人は彰人の家に集まることになっていた。それは悟の話を聞くためだ。
3人で話しながら彰人の家に向かった。学校以外で集まるのも珍しい。
「コーヒーくらいしかないんだけど・・・それでいいか?」
「ああ、お構いなく」
そういってテーブルの前に3人が集まる。悟は真剣な顔で言った。
「俺はあの大道寺可憐と付き合っている」
「そうなのか?じゃあ俺があの時接客した・・・あの人が・・・」
「出会いはどんな感じだったんだ?」
彰人、浅村それぞれが悟に質問する。
「あー・・・二次改革の定期配信があるだろ?それで本屋の店員っていうからもしかして彰人か?って思ってな・・・」
”自分の親友かもしれない”という趣旨の内容を話した。
そうしてコメントのやり取りをしていたところ、メンバー限定の非公開チャットに招待され詳細なやり取りを繰り返し、会うこととなったらしい。
「なんか話している間に仲良くなっちまってよ・・・気づいたらそうなってた」
悟は照れながら言う。彰人は親友に恋人ができたことに素直に喜んでいた。
「じゃあ学校でスマホを気にしていたのも・・・相手は可憐さんだったのか?」
「・・・ああ、ただめちゃくちゃしつこくてよ・・・四六時中LINEが来る感じでな・・・」
彰人は本屋で会ったときの印象は”お嬢様”という感じだったし、そんな風には思えなかったが・・・。
「会おう会おうって言ってくるけど、相手は大手VTuberだぜ?バレたらどうなるか・・・二人もわかるだろ?」
「・・・確かに女性VTuberに男がいた、なんてなったら大騒ぎだな」
彰人はそういってうなずく。確かに虚空さんの配信のときも自分がいるのがバレないように終始気を配っていた。それに手代木花にも男がいるかもしれないとネットの掲示板で大騒ぎになっている。
「ウェイクミーランドではどんな感じだったんだ?」
浅村はウェイクミーランドで悟を追いかけていた可憐を見ていた。どんなやり取りをしていたのか気になる。
「人目を避けるために小さい世界に入ったまでは良かったんだが・・・全然会ってくれないとかめちゃくちゃ文句言われて大変だったぜ・・・」
悟はそういってうなだれた。なかなか苦労しているようだ。
「もし何か協力できることがあったら言ってくれ。できる限りのことはするよ」
「俺はあまりVTuberに詳しくないが、相談くらいには乗れるだろう」
彰人と浅村はそれぞれ悟に言う。悟は満足そうにうなずいた。
「ああ、お前らなら話しても大丈夫だしな。つーわけで優しく見守っててくれ」
そういっている悟のスマホにはメッセージが来ていた。おそらくメッセージの主は可憐だろう。悟はやれやれといった感じでスマホを見ていた。




