約束 #2
小さい世界の前には悟が立っていた。なんだかひどく疲れている。
「はぁぁぁ、なんであいつが・・・」
「悟、体調は大丈夫か?」
彰人は心配して声をかける。その様子を見て悟は意を決して言った。
「あとでお前にも話すわ。いろいろと・・・な」
「そうか。何かあれば相談してくれ。親友だろ?」
「おう。あとでな」
そうして小さい世界の前にいるが、お城のような巨大な建物に無数のドアがあった。そしてそのドアはすべて同じであり、ぱっと見ただけではどんなアトラクションかわからない。
「ここは男女2人で入るんだよ。誰と誰にする?」
柚はどういったアトラクションなのか知っているようだ。悟、浅村はお互いを見合い・・・
「俺はパス。今入ったばかりだ」
「俺も内容を知っているし、天河でいいんじゃないか?初めてだろ?」
「じゃあ、男子は天河くんに決定ね。そうなると女子なんだけど・・・」
柚がそういうと空、彩香、風花が殺気立つ。誰も譲る気はないようだ。
「こういうときはジャンケンですよね?彰人と入るのは私です!」
「あんた、ここ最近ずっと一緒にいるでしょ?あたしに譲りなさいよ」
「私、天河君に話したいことあるから」
3人が話していても埒があかない。それぞれが手を出し、ジャンケンの姿勢をとる。すると空が揺さぶりをかけた。
「私、グーを出します!絶対です!」
「そう、なら私はパーを出すわ」
空の揺さぶりに正面から挑む風花。
高度な情報戦が行われていた。そしてジャンケンが始まる。
「じゃんけん・・・」
「ぽん!」
空、彩香はグー、風花はパー。勝負は一瞬で決まった。
空はその結果にショックを受けた。
「ああっ!チョキ・・チョキをだしていれば・・・!」
そう。風花がパーを出すと宣言しているのだからチョキを出せば良かったのだが、空は嘘がつけない。もしかしたら風花が空の言葉の裏をかき、他の手を出すかもことにかけたが風花も嘘を付くような人間ではなかった。
風花は嬉しそうだ。そして宣言する。
「じゃ、天河君を少し借りるわね。行きましょ天河君」
「あ、ああ」
そして二人は小さい世界に入っていく。その後ドアが閉められた。
その様子を見守っていた柚がこんなことを言う。
「そういえば~、愛し合う男女が小さい世界で愛を誓うと永遠に結ばれるんだって~」
「え”っ・・・彰人!彰人ォー!」
空はまるでムンクの叫びのような、女の子が見せてはいけない感じで破顔した。
「はぁ~、そんなおまじないが本当なら離婚届なんか要らないんだよ?」
彩香はめんどくさそうに言った。夢の国にいながら全力で夢を否定しにいっていた。
二人一緒に小さい世界の中に入る。彰人は入ってすぐに驚愕の事実に気づく。
「えっ?これ、小さい世界っていうか狭い世界じゃないか!」
小さい世界の部屋は四畳半くらいの広さしかなく、その中にはキャラクターたちが抱き合っているモニュメントやイラストが多数飾ってあった。
どうやらここは愛し合う男女がイチャコラするためのアトラクションらしかった。
「ふふっ・・・ねぇ天河くん、あの時はありがとう」
「えっと・・・?」
「私のお昼を買ってきてくれたときのこと。優しいね」
「いや、当然のことをしたまでだし・・・」
風花は優しく微笑む。そして一枚のチケットを差し出した。
「これ。ハーヴェスタムーンのライブのチケット。必ず来てね」
それはボーカルの詩亜の直筆サイン入りのチケットだった。No.0001とある。
彰人も近々ライブハウスで行うことは知っていたが、チケットをネットで購入しようと試みたが、サーバーが速攻で404エラーになり、つながったと思ったら完売になっていて取ることができなかった。再販などもないし、すっかり諦めていたのだが・・・
「えっ・・・これ本当にいいの?一条さんも行きたいんじゃ・・・」
「私のことは気にしないで。ちゃんと会場にいるから。あと・・・女の子とか連れてきちゃダメだからね」
「う、うん」
風花は微笑んだままだ。なんだかあの日・・・空と朱里が放課後話し合ったときから雰囲気が違っていた。それは彰人の気のせいではないだろう。
そんな彼女を美しいと思った。もちろんそれはスタイルが良いせいもあるが、自分に向けられる笑顔が綺麗だな、と思った。
「ありがとう一条さん。当日楽しみにしてる。詩亜の生歌が聴けるなんて夢みたいだ」
「彼女・・・恥ずかしがり屋だから、みんなの前で緊張しちゃうかもしれないけど・・・見守っていてね」
「わかった。ちゃんと感想伝えるから」
そう言ってチケットを大事そうに鞄にしまう。そうして二人が扉を出ていくと空が第一声をかける。
「あの!二人で一体何をしてたんですか・・・?まさか、愛を誓いあっていたとか・・・?!」
「ふふっ・・・そんなことはしてないわよ。ただ”約束”しただけ、ね?」
風花が意味ありげに言う。空は”約束”という単語に強く反応した。
「どんな約束ですか?!約束なら私が先にしてます!」
「ふーん、じゃあ橘さんが教えてくれたら教えてあげるけど・・・どうする?」
空が彰人と約束したのは「彰人の気持ちが決まったら教えてほしい」という内容だ。空は彰人に対して「結婚してほしい」とまで言っている。風花の約束の内容が気になるが、流石にこれは公言できそうになかった。
「えっと・・・」
「ね?簡単に教えられるものじゃないでしょう?だから秘密」
柚はその様子を見て胸をなでおろした。風花は目的を達成できたようだ。
「みんな揃ったし、いろいろ回ろうよ。希望があったら遠慮なく言ってね」
柚が率先してみんなの意見を聞いて、それに合わせて行動することにした。
パーク内の様々な仕掛けや、常連客しか知らないようなことも柚が教えてくれた。みんなで写真を撮ったり、アトラクションを体験したりして過ごした。
そうして夕方になる。帰る前にお土産を買っていこうとお店に立ち寄る。
彰人はバイト先の本屋に持っていくための缶に入っているクッキーの詰め合わせを買った。あとは隣人である千晶用に猫がモチーフとなっているキーホルダーも一緒に買う。あとは・・・
「北見さんに聞きたいんだけど、頑張っている人を応援するようなお土産ないかな?」
「応援するようなもの?だったらこれかな、願いが叶うようにっていう想いが込められたキーホルダーだよ」
それは天使がモチーフとなっているキーホルダーだった。これなら喜んでくれそうだ。その様子を見て柚が彰人に尋ねる。
「ねぇ、もしかして女の子にあげるの?」
「えっ・・・ええと、うん」
「はぁぁぁぁぁ・・・」
柚は盛大にため息をついた。親友が今日あんなに頑張ったのに、これでは報われない。それを見て彰人は”?”という顔をしていた。
みんな各々でお土産を買い、パーク内の入口付近の広場にやってきた。
そこで彩香がみんなに向けて言う。
「あたし、ちょっと荷物取ってくるからみんなここで待ってて!」
そういって駆けだしていく。そうして7人から見えない場所にいた瀬良と恋の元へ向かった。そこには大きな袋を持った瀬良が立っていた。
「これでいいんだろ?」
「ありがと。もう少しの辛抱だから」
そう言って荷物を受け取り7人の元に戻る。瀬良はげっそりしていた。恋に好き放題連れまわされたのもあるし、恋がいたとしても次々と声をかけてくる輩が絶えなかった。二度と来るまいと心に誓った。
「空にプレゼントがあるの。これ」
「ほんと?!開けてもいい?」
「いいよ」
そこにはウェイクミーランドで大人気の熊のぬいぐるみがあった。
このサイズだと値も張るだろう。空は大喜びしていた。
だが、そのぬいぐるみを見て柚は怪訝そうな顔を浮かべる。
彰人はその様子を見て柚に声をかけた。
「どうしたの北見さん?」
「え?ああ、あのぬいぐるみってオンライン通販限定なんだよ。どうしてわざわざここで渡すのかなって」
「そうなの?人気があるからパーク内で販売したとかじゃ?」
「うーん・・・そんなことしないと思うけどなぁ」
確かにウェイクミーランドを展開する運営が販売したものだし、彰人も柚の言葉に気になったがあまり深く考えなかった。
浅村がみんなに提案する。
「なぁ、みんなでLINE交換しないか?せっかく集まったんだし」
「そうね。ここで会ったのも何かの縁だし、いいんじゃない?」
風花の声でみんながスマホを取り出すが、彩香は不満そうだ。
「えー・・・別にいいんだけど・・・」
その反応に浅村はショックを受ける。そんな彩香に彰人が窘める。
「彩香のおかげで今日は楽しい思いができたんだし、個別にお礼が言いたいとかあるんじゃないか?それにまたみんなで遊びたいし」
「まぁ・・・彰人がそういうなら・・・」
彩香は渋々ながらスマホを取り出す。その様子に浅村が沸いた。
「さすが天河だな!みんなで交換しよう!」
そうして全員でLINEの交換をした。そうして彩香は一人先に7人の元を離れていった。




