歴戦の・・・
空はまだ信じられなかったが、最近プレイしていたエロゲー「隣の部屋に彼女がいる幸せ」のことを思い出していた。
それは新しい環境に引っ越してきた主人公が隣人に挨拶したときに一目惚れして交際に発展し、あんなことやこんなことをするゲームだった。
彰人はモテる。これは彩香や風花の反応を見ても間違いないだろう。こんなところにも好敵手<ライバル>がいたなんて・・・。空は自分がうつつを抜かしていたと後悔する。ここは乗り込むべきか迷う。そんなとき親友の存在を思い出した。
震える手で親友へと電話をかける。電話の主はすぐに応答した。
「・・・?!どうしたの空!」
「ぐすっ・・・朱里ちゃん・・・彰人の部屋から・・・うう・・・女の人が・・・」
空の様子がおかしい。そして”彰人の部屋から女の人が”のワード・・・。
これはただ事ではないと判断した。
「空?!今どこにいるの?すぐ行くから!」
朱里は親友を救うため、急いで支度を始めた。
それから少し前、彰人の部屋ではちょっとした修羅場が起きていた。
「えっ・・・ここ・・・彰人くんの部屋?」
千晶が目を覚ましたのだが記憶がない。
「どうしてベッドの上に・・・?」
体にはタオルケットがかけられていたが、着衣が乱れているしなんだか体がだるい。そしてめちゃくちゃ頭が痛かった。
そうしているうちに彰人が目を覚ました。とりあえず状況を説明してもらおう。
「彰人くん!私どうしてここに・・・?」
彰人は「おはようございます千晶さん」といい、昨日の状況を説明する。
それでも千晶は納得しない。自分がお酒に強いことを自覚しているからだ。
そんな千晶に彰人はスマホを向け動画を再生した・・・。
「ぎにゃーーーーー!やめてーーーーー!」
「わかりましたか?”ちーちゃん?”」
「わかった!わかったから!消してよぉーーー!」
「ダメです。当分この動画は残させていただきます。千晶さんの戒めのために」
「ウワァン!」
そうしてチロルを抱いてカギを持ち、隣の部屋へと帰っていった。
朱里は空と合流し、彰人の部屋の前まで来た。まさかこんなところに伏兵がいたなんて・・・と怒りをあらわにする。
「開けろ天河ァ!ゴルァ!」
朱里がドアを蹴りながら叫ぶ。
彰人は突然の騒音に驚く。それにこの声は五所川原だ。急いでドアを開ける。
「五所川原?!やめてくれ!賃貸なんだ!」
ドアの弁償代金がいくらなのか知らないが、修理代金を支払う余裕はないし、そんなことが親にバレたら怒られるだけでは済まないだろう。なぜここに五所川原がいるかとか空の様子がおかしいとか頭には?マークがいくつも浮かんでいた。
二人の様子がおかしい。五所川原はめちゃくちゃ怒っているし、空はビニール袋を手に下げながら泣いていた。とりあえず説明をお願いする。
「あんた自身に聞いてみなよ!」
「えええ・・・」
わからないから聞いているのに五所川原はずっとこの調子だった。
とりあえず中に通してテーブルの前に座ってもらう。そしてコーヒーでも出そうと思ったのだが・・・
「お構いなく!それより空に謝って!」
何を謝ればいいんだ・・・と思っていたところに空が意を決して話し出す。
「隣の女性と・・・どんな関係なんですか?!」
「隣の女性・・・千晶さんのこと?」
彰人はだんだんと理解してきた。朝に自分の部屋から千晶が出てきた。
それを見て”朝帰り”とでも勘違いしてるんだろう。
「千晶っていうのね・・・?!このっ泥棒猫!」
「泥棒猫って・・・」
随分と昭和な表現だった。五所川原の怒りは収まらない。
「待ってくれ!確かに朝に出ていったのは千晶さんだけど、何もないって!」
「天河の言葉なんて信じられない!」
「隣に住んでいるのに朝帰りなんておかしいです!」
彰人は天を仰いだ。このままでは疑いは晴れない。千晶を呼んでくることにした。
「ちょっと待ってて!千晶さんに説明してもらうから!」
そういって隣の部屋に向かう。インターホンを押し千晶が出るのを待つ。
「んー・・・なぁに?頭痛い・・・」
「千晶さん!今大変なんです!来てください!」
そう言って千晶の手を引く。チロルが出てくるのを待ってドアを閉めカギをかける。
チロルが空の元へと駆けていく。そして膝の上で丸くなった。
「わっ・・・猫さん?かわいいー」
「ほら、泥棒猫じゃない。どういうことか説明してもらえます?!」
千晶は突然2人の女の子からぶしつけな目で見られ戸惑っていた。
「えーっとぉ・・・」
千晶ははっきりしない。その態度が朱里をイラつかせる。
「昨日この部屋で何があったんですか?!はっきり言ってください!」
「・・・えっと、覚えてないんだよね・・・ははは」
朱里は彰人を睨みつける。そして言った。
「まさか・・・泥酔させて襲ったっていうの?!」
「襲ったって・・・確かに泥酔してたけど」
彰人は言ってからしまった、と思った。
「やっぱり泥酔させて・・・あんなことを・・・!」
「いや・・・だから・・・」
このままではまずい・・・そう思ったとき、スマホに動画を残していることを思い出した。あれを見せれば納得してもらえるだろう。
「そうだ!動画を撮ってあるんだ!これを見れば何もないってわかるよ!」
我ながら名案だと思ったのだが・・・
「え・・・動画を撮ってる?まさかハメ撮り・・・?!」
空の顔から表情が消えていく。それは最近プレイしているエロゲー「配信彼女」のことが思い出されたからである。なぜ複数のエロゲーをプレイしているのか。
それは空が歴戦のエロゲーマーだからに他ならない。趣向の違うゲームを平行しながらプレイするのはエロゲーマーの基本だった。
そのゲームは動画配信者として活躍している女の子が主人公と出会い、愛があったり脅されたりしながら二人の行為を動画に納めていくという内容だ。
朱里はハメ撮りと聞いて「何それ、どんな鳥?」と空に聞いていた。
そんな朱里に空が耳打ちをする。それを聞いた朱里の顔が朱に染まった。
「んなぁ?!天河ァ!あんた・・・人畜無害みたいな顔してそんな鬼畜だったなんて!」
「人畜無害みたいな顔ってなんだよ・・・」
彰人はしょんぼりした。どんな評価なんだ・・・。そして盛大に誤解されている。
「彰人くん!あの動画だけはダメ!あんなの見られたら私・・・!」
「ああもう!千晶さんは黙っててください!」
千晶の静止を振り切り動画を二人に見せる。
<ちーちゃん、飲みすぎちゃダメだよ。お家に帰ろう?>
<いや!帰らない!>
<ちーちゃん、もう大人でしょ?お家に帰ろう?>
<いや!一人にしないで!>
「あ”あ”あ”ーーーーー!」
「・・・」
「・・・」
千晶はその場に崩れ落ちた。動画を見た二人はきょとんとしていた。
「・・・まぁ、天河がそんな奴じゃないって信じてたけど」
「嘘つけ!めちゃくちゃキレてただろ!」
空は”ちーちゃん”と呼ばれているのを聞いて自分も隣に住もうかなとか本気で考えていた。
放心状態で帰ろうとする千晶に朱里が声をかける。
「あんまり飲みすぎないでくださいね?”ちーちゃん?”」
「ウワァン!もうお酒飲まない!」
そう言って千晶は帰っていった。ああ言ってたけど絶対飲むだろ・・・と彰人は思った。
そして二人が部屋に残る。なんだかんだでもうお昼に近い。二人が申し訳なさそうに彰人に向き合った。




