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隣人は静かにおつまみを食う

それからの日常は平穏なものだった。学校に行って授業を受け、友達と話したり空と話したりした。モウカリで購入した品の代金もきちんと支払った。




バイトがある日はバイトにいそしんだ。店長から「天河くん目当てで来る人もいるんだよ」と言われたりした。自分が何かしたかなと思いつつ、空と出会ってから色々と周りが変わってきたように感じた。




そうしているうちにモウカリから商品が届いた。さっそく動作確認を取ることにした。出品者の方が接点復活剤を塗布してくれると言っていたので、その辺は心配ないだろう。




接点復活剤とは金属端子に塗りつける薬剤であり、レトロゲームでは端子不良などでゲームが読み込めない時に使うものである。スーパー配管工ブラザーズの時のように息を吹き付けるとこで一時的に回復したりするが、長い目で見れば接点復活剤などを塗布したほうがいい。劇的に改善するだろう。




サラリーマンファイターⅡXのカートリッジを刺してスイッチを入れてみる。


するとすぐに画面が付きオープニングデモが始まった。この時代のゲームはロード時間なんてものは皆無だ。久々に家庭用ゲーム機を購入したのでワクワクする。




少し遊んでみることにした。キャラクターはもちろんタカシだ。


演出が始まり、ステージ1が始まった。だが・・・


「技が出ない・・・?」


彰人はゲーセン勢であるため、操作方法はアーケード筐体に慣れている。


だがスーパー家庭的機械はコントローラーで操作する必要があるので、そのギャップがあるのだ。思うように必殺技が出ない。これは慣れるしかないだろう。


少しプレイして5回に3回くらい技が出るようになってきた。それでもここぞという時に技が出ないのはもどかしい。きちんとした練習が必要だと思った。


「まぁ、少しずつ慣れていけばいいかな」


ステージ3まで行って今日は終了することにした。




次に「おまえたちの夜」の動作確認をしてみる。


こちらも一発で画面が付き、タイトル画面が現れた。


「よし。これもOKだな。あとは空に相談していつ配信するか決めよう」


二つとも無事に起動できた。すぐにスマホでモウカリを起動し受け取り連絡をした。


”この度はお取引いただきありがとうございました。また機会がありましたら宜しくお願い致します”と入力し、受け取り連絡を完了させる。


するとすぐに出品者から評価の連絡が来た。良い評価だった。




空にも「新しいゲーム配信をしようと思ってるんだけど、空いてる日あるかな?」とメッセージを送っておいた。


すると「明日空いてますか?お部屋に行ってもいいですか?」とうるうる涙目スタンプと共に返事が来た。


特に用事もないので「大丈夫だよ」と返信する。




今は土曜日の午後8時頃。夕食を終えパソコンでネットでも見ようかなと思っていた時である。部屋のインターホンが鳴った。


「誰だろう?」


ドアまで行き鍵を開ける。するとドアが開き隙間から一匹の猫が入り込んできた。チロルだ。


「ということは・・・千晶さん?」


ドアを開けた主に声をかける。が、返事がない。どうしたんだと思ってドアを開けると彼女は泥酔していた。




「ちょ・・・千晶さん!飲みすぎですよ!」


「うー?うるさいなぁ・・・いいれしょこれくらい・・・」




そう言って彰人の部屋の中に入ってくる。着衣が乱れていて目のやり場に困る。


千晶はたまに飲みすぎて彰人の部屋に乱入してくることがあるのだ。その際は必ずチロルを連れてくる。チロルもご主人の様子がわかるらしく、すぐに彰人のもとへ駆け寄ってくるのだ。


彼女はこの前も「親に早く結婚しろと言われた」とか「独身の女がペットを飼うなんて、婚期が遅れるだけだ」など言われたと愚痴っていた。


チロルを溺愛しているので、チロルのことをとやかく言われるのが大嫌いなのだ。




とりあえず、そのままにしておけないので部屋に千晶を上げる。テーブルの前にクッションを敷き、そこに座ってもらった。




「おつまみちょーだい!」


「はいはい・・・」




彰人の家に来る最大の理由は”おつまみ”だ。以前、彰人の部屋でお酒を飲む際にあったほうがいいよな?というノリでおつまみを作ったのが始まりだった。


それをいたく気に入り、お酒を飲んでゴキゲンなときはやってくるようになった。ちなみにおつまみ代としていくらかの金銭は受け取っている。




「その前に・・・チロルー!ちゅーるだぞー!」


チロルが”ちゅーる”という単語に反応する。いつチロルが来てもいいようにご飯やおやつをストックしていた。


彰人の足元に寄ってきて体を摺り寄せる。彰人はしゃがみ込んでちゅーるの封を開けてあげた。チロルは早速食べはじめる。


「かわいいなぁ・・・」


彰人に対しては従順なチロルがとても可愛いと思えた。自分も飼ってみたいとは思ったりするものの”命を預かる”という責任があるし、学生の自分では面倒が見きれないと感じていた。何事も中途半端ではいけない。


彰人の真面目さがうかがえた。




それを終わらせ、早速おつまみの作成に移る。冷蔵庫の中を確認し、チーズと豚バラ肉のスライスを取り出した。チーズに豚バラ肉を巻き、油を敷いてフライパンで焦げ目がつくまで焼く。その上から若干のしょう油と塩コショウで味を整える。


皿に盛り付け千晶のもとへ運んでいく。千晶はさっそく箸をつけ、食べ始めた。




「んまーい!・・・お酒が進むぅー!」


「千晶さん、もうやめたほうが・・・」




彰人が知る限り千晶はお酒に強い。こんなに泥酔しているのは珍しかった。


おつまみを食べつつお酒を飲み続ける。やがて・・・




「ちーちゃんだって結婚したい!」


ダァン!とテーブルを叩く。彰人はびっくりして千晶を見る。




「・・・ちーちゃん?」


「・・・なに?」




彰人はてっきりチロルのことを言っているのかと思ったら、千晶が反応した。


「(もしかして・・・千晶さんの昔のあだ名だったりするのか・・・?)」


それに”ちーちゃん呼び”すると素直に言うことを聞いてくれるみたいだ。


これを利用して自分の部屋に帰ってもらおう。




念のため、スマホで動画を撮ることにした。千晶は泥酔したときにほとんど記憶がない。そのために保険のため記録を残そうと思った。




「ちーちゃん、飲みすぎちゃダメだよ。もうお家に帰ろう?」


「いや!帰らない!」


千晶はその場でいやいやした。その様子を見て彰人は困る。


「(どうすればいいんだ・・・)」


明日は日曜日だし、別に泊まっていっても問題はないが・・・。




「ちーちゃん、もう大人でしょ?お家に帰ろう?」


「いや!一人にしないで!」


そう言って彰人の足に絡みついてくる。最近女性に抱きつかれることが多いなとか思ったりする。柔らかいものの感触が伝わり、気が気ではない。




次第にそのままうつらうつらと頭を揺らし始めた。眠いみたいだ。


撮影していたスマホの操作して保存し、テーブルに置いた。




このまま床に寝かせるわけにもいかない。態勢を立て直しベッドへと誘導する。


そのままベッドへ寝かせ、新しいタオルケットを持ってきてかけてあげる。


千晶はそのまま寝てしまった。




「部屋にカギをかけないと・・・」


千晶の部屋はそのままになっているはずだ。防犯のためにもカギをかけたほうがいいだろう。そう思い隣の部屋へ行く。玄関の下駄箱の上にカギが置いてあるのでカギをかけ、自分の部屋に戻ってきた。カギは明日起きたら渡せばいいだろう。




チロルが彰人のそばに寄ってくる。チロルの寝床も必要だ。洗いたてのバスタオルを持ってきてチロルのそばに置く。


そうして使った食器などを洗って、お風呂などを済ませ自分も寝ることにした。


ベッドが使えないので今日はソファーで寝よう。


そういえば明日空が来るらしいけど、まぁ大丈夫だろうと思いそのまま眠った。




翌朝




空は朝早く電車に乗り、彰人の家の最寄り駅までやってきた。居ても立っても居られず早く来てしまったが、彰人ならきっと許してくれるだろう。


誰でもない彰人の家だ。あの時は眠くて仕方なかったが家の場所は覚えた。


今日は手作り料理を作ってあげる予定だ。お母さんに負けてられない。


彰人と結婚しようとするなんてとんでもない好敵手<ライバル>だ。


その座はたとえお母さんであっても譲る気はなかった。




手作り料理を食べさせてあげるなんて恋人みたいだな・・・なんて思いつつ彰人のアパートの前まで来た。部屋のドアを見る。すると一人の女性が猫を抱えながら彰人の部屋を出て、隣の部屋に入っていく瞬間を目撃してしまった。




「えっ・・・」




空はその場に立ちつくす。目の前の現実を受け入れることができなかった。

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