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親友

学校を終え自宅へ帰ってきた。顔に出さないようにしていたが、やはり”朧月”のことが気になる。どうしても気持ちは落ち込むばかりだった。


夕食を終えスマホをいじっていた時にLINEのメッセージが来る。悟と浅村からだ。


悟「まだ気にしてるのか?まぁ焦らなくてもいいと思うぜ。なんかあったら相談しろ」


浅村「俺の気のせいならいいんだけど、悩みでもあるのか?言いにくいことなら無理には聞かないが」


どうやら二人には隠し事はできないらしい。彰人は覚悟を決めた。




翌日




彰人は悟と浅村に”朧月”のことを相談しようと考えていた。とにかく自分だけでは解決できそうにない。それにこのままでは自分がどうにかなってしまいそうだった。


今日の昼休みに二人に相談しよう。そう決めて学校へ向かった。


学校に着くと”天河くん!おはよう!”と知らない女子から挨拶されるようになっていた。別に挨拶されることは嫌ではないが、急に自分の評価が変わったような気がするのは気のせいではないだろう。今までは全くの他人だったのだ。


その挨拶に応えつつ、自分の教室に向かう。悟と浅村はすでに学校に来ていた。


その二人に声をかける。


「おはよう。実は二人に相談があって・・・」


悟と浅村はお互いに顔を見合わせる。ついに来たか、という感じだ。


そうして3人の顔を近づかせる。


「なんだ?周りに聞かれるとまずいことなのか?」


悟が確認をしてくる。それにうなずいて応え、声を抑えつつ2人に事情を話す。


「今日の昼休みに屋上で話がある。時間空いてるか?」


悟と浅村は彰人の提案にうなずく。


「おう。別に構わないぜ。浅村も大丈夫だろ?」


「ああ。しかし、何か重大なことっぽいな」


いつも通りに接してくれる2人に感謝し「じゃあ昼休みに」と言って授業の準備を始めた。


その様子を見ていた女子がいた。五所川原 朱里だ。彼女は昨日からずっと彰人を見ていた。親友の彼氏であり、親友をいじめていた自分を許してくれた人である。そんな彼のことがずっと気になっていた。何か影がある・・・。


このことは空にも話したのだが、肝心の空もはっきりしない。何か隠している様子が気に入らなかった。


そうしていると空が教室に入ってくる。彰人たちに挨拶したあと朱里のそばにやってきた。


「空、あんたにいいこと教えてあげる」


空は目を輝かせる。


「いいこと・・・って何?」


空の耳に口元を寄せささやく。


「天河たち3人がお昼に屋上で何か重要な話をするみたいよ」


「!!!」


空はおそらく”朧月”の件を相談するつもりだと直感した。自分や彩香を巻き込むわけにはいかない。なら親友である彼らに真っ先に相談するんじゃないかと思ったのだ。


空の様子を見て朱里はつぶやく。


「・・・なんか知ってるわけね。ねぇ、私にも言えないことなの?」


「朱里ちゃん・・・ごめんね。話せる時がきたらちゃんと話すから」


朱里は自分が信用されていないわけではないことを知り安堵する。その”話せる時”が来ることを待つことにした。


「じゃ、私は役目を果たしたんだからしっかりやんなさいよ!」


そういって背中を叩いた。




お昼休み




彰人たち3人はそろって教室を出ていった。その様子を窓側の席で見ていた朱里と空は顔を見合わせてうなずく。


「朱里ちゃん、ちょっと行ってくるね」


「ちゃんと彼氏の悩みを聞いてやんなさい。天河が元気ないとこっちも調子狂っちゃうから」


朱里ちゃん、もしかして彰人のこと好きなのかな・・・とか思いつつ3人の後をついていった。




屋上は基本的に鍵がかかっておらず、誰でも利用することができる。誰もいないことを確認し、入口近くの壁に3人で腰を下ろす。


「さて、何を話してくれるんだ?俺たちが力になるぜ」


悟の言葉を聞いて彰人がうなずく。


まずは空がVTuberをやっていることを話さないといけないだろう。このことは自分と渡來さんしか知らないはずだ。しかし”朧月”のことを話すには避けては通れない。


「驚かないで聞いてほしい。実は空はVTuberをやっていて・・・」


そういいながらスマホで登録されている配信チャンネルを2人に見せる。


「これは・・・どう見ても橘さんだな。自分が好きだったりするのか?」


彰人は”自分がこのアバターにした”とは言えず、黙ってしまう。そこの浅村が言った。


「橘さんが・・・ねぇ。じゃあそこで知り合ったのが天河ってことなのか?」


「ああ。配信中に偶然見に行って、学校に通ってないってことを聞いてさ。それで力になれないかなって思って」


2人はふんふんとうなずく。


「さっすが彰人君だぜ」


「天河らしいな」


「でさ、その配信をステルスで見ていたやつが居たみたいなんだ」


”ステルス”という聞きなれない単語を聞いて悟が質問する。


「ステルスってなんだ?何か見えない、って感じか?」


「ああ、自分のアカウントを非表示にすることのできるツールのことだよ」


悟は日ごろからVTuberの配信を見ている。アカウントが非表示にできるということのメリットを理解した。


「自分の存在がバレずに視聴できるわけか・・・。アカウントをさらしたくないとか、何かしら裏があるんだろうな」


悟はそういったツールは反対派だ。何かやましいことがなければ、そんなツールを使う必要はない。


「今回はその”ステルスで見ていた奴”に関することでいいんだな?」


浅村が的確に事の真相にたどり着く。彰人はうなずき、相談しようとした・・・


その時に屋上へ続くドアが開かれる。




男子3人が一斉にドアへと目を向ける。そこには覚悟を決めた表情の空が立っていた。


「空?どうして・・・?」


「彰人・・・ごめんなさい。あの夜、彰人のスマホを見て知ってしまったんです」


夜更かしの理由、左手に握りしめていた彰人のスマホ、頑なに理由を言わない姿勢・・・彰人の中で疑問が氷塊していった。


「・・・あのLINEを見たんだな?」


「はい・・・彰人が何か隠し事をしていたから、どうしても知りたくて・・・」


彰人だって隠したくて隠していたわけじゃない。真っ先に空に言いたかった。でも、それは”朧月”の標的にされるかもしれないことを意味していた。


「あいつの標的は俺だ。空を巻き込むわけには・・・」


彰人の言葉をさえぎって空が叫ぶ。


「私にだって関係あります!そもそも私の配信を見ていた人間の仕業なんですから!それに彰人が傷つくのを見過ごせるわけないじゃないですか!」


その剣幕に悟が驚いていた。


「な、なぁ橘さん落ち着いてくれ。二人が言っている”あいつ”って何物なんだ?そいつが彰人を悩ませてるんだろ?」


そう言われた彰人はスマホのLINEのトーク画面を見せる。そこには「おまえをみているぞ」の文字と壁ドンと彩香と抱き合っている写真が表示されていた。


「・・・いや、彰人くん、お前なにしてんの?」


悟が呆れたように言う。浅村も苦笑していた。


そこにはリア充がやることが連続で表示されていたからだ。


彰人はそれどころではない。だが、ちゃんと説明しないと先に進めそうになかった。


マグダナルダで壁ドンした経緯と、そこで過ごした時間のこと。帰りに彩香が突き飛ばされて偶然にも抱き合うようになってしまったことを説明した。


「ふーん、なるほどねぇ。いや彰人くんはモテますなぁ」


「言ってる場合か。この写真が撮られていること自体おかしいんだ」


浅村が何かに気づいたように言った。


「橘さんの配信を見て”朧月”は二人が会うことを知った。そこで現場に行き後をつけスマホを向けた・・・ってことか。心当たりはないのか?」


彰人はこんなことをされる覚えはなかった。首を横に振って応える。


「彰人を脅すには材料が少なすぎないか?これはどちらかというとVTuberをやっている橘さんのほうが脅威だと思うんだが」


悟は女性VTuberの配信もよく見ている。だからこそ、男の影があることの重要性を知っていた。


そう言われて彰人も「確かに」と思う。自分を脅すというよりは空のほうが被害が大きい。なのになぜ空を脅さないのだろうか?


「天河のことを知っている人物には間違いないだろう。だが、今すぐどうこうするようなことはないと思う。犯人の思惑はわからないが、天河が恐れているようなことにはならないだろう」


浅村が言う。それは空と彩香に危害が加わえられることは今のところない、ということでいいんだろう。


「彰人、俺もVTuberの知り合いがいるから聞いてみるわ。とりあえずは浅村の言う通り、普通に過ごして問題ないんじゃないか?」


”VTuberの知り合い”が引っかかったが、そこは言及を避けた。配信のやり取りで仲良くなるパターンも十分あるだろう。


「天河、これから自分のアカウントを使うときは注意したほうがいい。情報が把握されている可能性がある」


悟と浅村に相談して良かったと心から思うのだった。




屋上への入り口の壁には梯子がかけられており、そこの上には貯水タンクが設置してある。


その裏で一人昼食を取っていた少女は4人の会話をずっと聞いていた。


「(隣のクラスの天河と橘・・・今うわさのカップル・・・)」


彰人と空の関係は隣のクラスにまで伝染していた。今まで不登校だった空が突然学校に来るようになり、しかもその様子は一変していたのだ。うわさによるとそれは”天河彰人”のしわざらしいと。


「(同じ学年にVTuberの中の人がいるなんて・・・面白いことになりそう)」


そう思いつつスマホを操作し、新人VTuberの検索をかけ始めたのだった。

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