恋人裁判
そうして二人は教室へとやってきた。
「おはよう」
彰人が代表して挨拶をする。二人一緒の登校に驚くクラスメイト達。それになんだが橘さんが眠そうだし・・・。
「な、なぁ彰人・・・もしかしてなんかあったのか?」
二人の様子を見て悟が恐る恐る声をかける。クラスは静まり返っていた、
「いやっ・・・何もないよな?空さん?」
空はうーんを考えたあと口を開く。
「昨日は私の部屋で一緒に寝ました」
「い、一緒に寝ただぁ?!お前らまさか・・・」
悟が空の爆弾発言に焦りながら言う。
「え”っ!!!」
ガタタッ!
窓側の席に居た風花が驚きの声をあげながら席を立つ。柚も驚いているようだった。みんなの視線が風花に集まる。
「・・・なんでもないわ。続けて」
なんでもなくねーだろと風花に目を向けつつ悟は続ける。
「お前らちょっと席につけ。俺が裁きを下してやるからよ」
裁きってなんだよ・・・と思いつつ、クラスの注目を集めてしまったし、ここは悟に従うしかないと思いそれぞれ自分の席に着席した。
「おし。彰人、俺がこれから質問するから、その質問にYESかNOで答えろ。わかったな?」
「ああ・・・わかった」
彰人と空の席の前に悟と浅村が陣取る。悟が真剣なまなざしで彰人を見る。
「・・・橘さんと一緒に寝た、というのは本当か?」
「い・・・YES」
朱里とその女友達から黄色い歓声があがった。空がついに次のステージへと登っていったのだ。
「それは双方の同意の上で行ったのか?」
「NO」
自分はちゃんと床で寝ると進言した。それを無理やり空が一緒に寝ると言い出したのだ。ここはNOだろう。
えっ・・・まさか天河くん?!とか聞こえてくるが気にしている余裕はない。
「ふむ・・・橘さんを自分のものにしたいという欲はあったか?」
「NO」
自分のものにしたい?一緒に寝ただけだしここはNOだ。
クラスのみんなが”何かおかしい”という空気になってきている。
「どうして橘さんが眠そうなのか理由を知っているか?」
「・・・NO」
これは本当に知らない。学校に来る途中でそれとなく話をしてみたが、はぐらかされてしまったのだ。
それを確認した悟は空のほうに向き直る。
「よし。今度は橘さんだ。彰人と同じくYESかNOで答えてくれ」
「は、はい・・・じゃなくてYES」
「彰人と一緒に寝れて嬉しかったか?」
「い、YES!」
空は興奮しながら言う。彰人はそれを聞いて顔が赤くなった。
「また一緒に寝たいと思うか?」
「YES!」
「その行為に愛はあったか?」
”愛はあったか”の問にうーん・・・と考える空。一緒に寝たけど彰人は何もしてくれなかった。空は不満だったのだ。だから答えた。
「NO!」
悟は腕を組みながらわざとらしく声を張る。
「一緒に寝ても愛がないんじゃいけねぇよなぁ?浅村?」
浅村は微笑みながら答える。
「ああ、まるで”一緒のベッドで寝ただけ”って感じに聞こえるね」
浅村はそのまま空に質問をぶつける。
「橘さん、本当に天河とは何もなかった?自由に発言していいよ」
そう言われ空は不満を爆発させた。
「はい!彰人くんは何もしてくれませんでした!私が隣にいるのに・・・ひどいです」
それを聞いた悟がやれやれといった感じでみんなに向き直る。
「そういうわけだ。この二人に特に進展はなかったってよ。一緒のベッドに寝ること自体ギルティだけどな!」
それを聞いたクラスメイト達がなぁんだという感じで席に着く。
彰人はまた悟に救われたと親友に感謝していた。そこに浅村がささやく。
「お風呂上がりの橘さんはいい匂いがした?YESかNOで」
「えっ・・・い、YES・・・」
それを真横で聞いていた空は顔を赤くしてうつむいてしまった。
そうしているうちに先生が来てHRが始まった。
1時間目の休み時間。悟はスマホを気にしながら教室を出ていった。
空は朱里と女友達によって尋問されているようだ。
彰人のもとに男子3人が集まってくる。
「よ、よう天河・・・ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」
「えっ、なに?」
クラスメイトなのは間違いないが名前が思い出せない。たしかモテるためにサッカー部に入ったとか言ってた奴らだ。
「どうしたらさ、女の子と知り合えるのかなって・・・」
「あー・・・」
今朝の一緒に寝たという事件で彰人の男性としての株が上がったらしい。実際に行為はしてなくても、女の子の部屋に泊ったというのは事実だ。出会いのきっかけが欲しいんだろうなと思った。
「ネットのコミュニティとか、あとはバイト先で知り合うとかじゃないかなぁ」
無難かつ安牌な方法を教える。彰人自身これで女性の知り合いも多い。
もちろん空と知り合ったのは手代木花の配信がお休みだったという偶然からなのだが。
それを聞いたサッカー部の連中が沸き始める。
「今の時代、やっぱネットで知り合うのが一番だよな!」
その様子を見て彰人は釘を刺す。
「でも出会い系サイトとかはサクラが多いからあまり利用しないほうがいいかもしれない。同じ趣味を持つ人たちのコミュニティがいいんじゃないかな」
その言葉を聞いて他の2人も同意したという感じでうなずく。
「さっすが天河だぜ!モテる男の言うことは重みがあるな!」
いや、重みってなんだよと思いつつ、愛想笑いを浮かべる。
そして彰人に礼を言って3人は自分たちの席に戻っていった。
「愛の伝道師 天河彰人」
それを見ていた浅村が言う。
「変な二つ名をつけるんじゃない」
苦笑しながら浅村に向き合う。浅村も笑っていた。
「でも本当に何もする気がなかったのか?橘さんだったら受け入れてくれただろうに」
「・・・いや正直すごい我慢したよ・・・でもまだ俺の気持ちを伝えてないし、中途半端じゃいけないかと思ってさ」
浅村はやれやれといった感じで肩をすくめた。
「・・・天河らしいな」
気が付くと空が席の近くまで来ていた。浅村がそれ見て席を立つ。なんだか様子がおかしい。
「・・・我慢なんてしなくていいのに」
ボソッとつぶやきながら席に座る。怒っているような困っているような表情だった。
昼休み
悟はスマホの電源を切りながらため息をついた。
「はぁー・・・」
「どうしたんだ?ため息なんてついて」
彰人は悟の様子を見て心配する。
「ん?ああ、ちょっとな・・・」
話しにくいことなのだろうか。自分から言うつもりがないなら無理やり問い詰めるのも間違いだろうと思った。
「ついに彰人と橘さんがヤったと思ったのにな」
「ヤったって?」
”ヤった”の意味がわからず悟に問いかける。悟はあきれながら言う。
「セックスだよ。わかれよ」
「お、おい!そういうこと言うなよ・・・」
彰人は焦りながら注意する。そういう言葉は不用意につかうもんじゃない。そう思っていたところ、悟の顔めがけてクリームパンが投げつけられた。
「へぶぅ!」
それは窓側の席から飛んできたもので・・・風花が不機嫌そうな顔をあげる。
「そこ!風紀を乱すようなこと言わないで!」
彰人は飛んできたクリームパンを拾い、悟は風花に対して抗議の声をあげる。
「なんだよ?男同士の話じゃねぇか。一条には関係ないだろ」
「あるの。天河君に変なこと吹き込まないでくれる?」
悟は「はぁーん・・・」とか言いつつ彰人の顔を見る。
「一条だって風紀委員のくせに自ら風紀を乱してるじゃねぇか」
これは男子の中でまことしやかに囁かれていることなのだが、一条 風花はモデルのようなスタイルで誰もが一目置く存在なのだ。本人に自覚はないのかもしれないが、かなり美人である。隠れファンも多い。ただ風花は他人に厳しいので、ある一定の距離をとっているところはあるが。
悟の言葉を聞いて「な、なっ・・・」と言いながらプルプル震えていた。
彰人は一条さんを怒らせたらまずい、と思っていた。その時、悟の顔面に未開封のカフェオレの缶が飛んできた。
「エボニー!」
悟がよくわからない断末魔を叫びながら椅子から落ちていった。
彰人は悟をそのままにして風花のもとへ駆け寄る。
「ごめん!一条さん!悟には俺からしっかりと言い聞かせるから!このまま教室で待っててもらえる?」
「えっ・・・天河君?」
彰人は返事も聞かず教室から飛び出していった。
目的はクリームパンとカフェオレだ。誰も男子に投げつけた品を食べたくはないだろう。あれが風花のお昼ごはんなのだ。新しい物を買ってくるために購買へと向かう。
少しして購買部へと到着した。ここのおばちゃんはいい人なのだ。誰にでも優しい。
「クリームパンとドーナツをください」
ドーナツはお詫びの品として買うことにした。
「あら?もしかして天河君?」
なんで自分のことを知っているんだろう?と思いつつ、はいと答える。
「ほらぁ、職員室で話題になってたのよ~。不登校の女の子を救ったって!」
ああ、そういうことかと納得する。おばちゃんは職員さんとも仲がいい。
「ドーナツおまけしてあげる。心配しないでいいのよ。おばちゃんの給料がちょっぴり減るだけだから!」
そういいながら快活に笑う。断る隙もなく袋にドーナツが2個詰められてしまった。
「またお願いね、天河君」
「ありがとうございます」
挨拶をして自販機でカフェオレを買う。そして急いで教室に戻った。
「一条さん!これ、新しく買ってきたから」
風花は彰人の行動にびっくりしていた。おずおずとした様子で袋を受け取る。
「悟のほうに飛んできたやつは俺らがおいしくいただくから心配しないで。あとドーナツはお詫びとして。2つあるから北見さんと食べて」
柚は「えっ、私のもあるの?」と言いい、彰人の顔を見ながら言う。
「そういうとこやぞ」
「えっ?」
彰人は何が”そういうとこ”なのかわからず、そのまま自分の席に戻っていった。
風花は彰人が買ってきたクリームパンを手にしながら、じっと一点を見つめていた。




