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約束

手を引かれたまま空の部屋に戻ってきていた。お互いに顔が赤い。


みなもの爆弾発言により、彰人はまだ心臓がバクバクいっていた。ちらりと空を見やる。彼女の顔は真剣そのものだった。そして口を開く。


「・・・私のお父さんになってくれるんですか?」


「えーっと・・・その、急だったからなんとも・・・」


みなもさんは虚空さんのことを伏せておくつもりだろう。だからとっさにあんな嘘をついたんだと彰人は判断した。みなもさんが言うつもりがないなら、それに合わせるのが道理だと思った。


空は煮え切らない彰人の言葉を聞いて、空はぽつぽつと話し出した。


「私、お父さんがいないんです。昔は居たんですけど小さい頃に死んだってお母さんに言われて・・・でも信じられなくて」


彰人はこんなに寂しそうな空を見るのは初めてだった。彰人の胸が締め付けられる。みなもさんは女手一つで空を育てたんだ。だからあんなに大事にしていた。


「・・・ごめん」


彰人はなんて声を掛けたらいいかわからない。口からは謝罪の言葉が自然に出ていた。


「でも!お母さんがいるから私は幸せなんです!それに今は彰人もいる・・・」


そのまま彰人を見る。彼女は意を決心したようにして・・・


「お母さんが幸せになるなら・・・って少し思いました。でも!やっぱり私・・・」


お互いの顔を見つめあいながら


「彰人が好きだから・・・!」


真剣に真っ直ぐに彰人を見ていた。彰人も目を逸らせない。


「だから・・・私と結婚してほしいんです!」


彰人はここまで人に想ってもらえるなんて、こんな日が来るなんて思ってもみなかったことだった。中途半端なことはできない。それだけは絶対してはいけないと思った。だから空に向かって言う。


「空の気持ちはしっかりと受け取ったよ。でも、俺自身まだ答えを出せそうにないんだ。自分の気持ちがきちんと決まったら、その時改めて言わせてくれ」


真剣な彰人の表情に、空も息を吞む。そして


「私、待ってます。彰人の気持ちが決まったら真っ先に私に教えてください」


そう言って右手の小指を彰人に向かって差し出す。


「約束、です」


「ああ、約束な」


二人は小指を結び、契りを交わしたのだった。




時間は17時を少し過ぎたくらい。そろそろゲーム配信を始めようと準備にとりかかる。


彰人が自宅から持ってきた外付けキャプチャーボードをパソコンのUSB端子につなげてドライバをインストールする。それに続いて自宅から持ってきたWebカメラを接続した。


「?カメラはもうありますけど・・・?」


空が不思議そうな顔をして彰人に問いかける。


「ああ、これは今回の配信で使おうと思って持ってきたんだ。あとで説明する」


そしてセットアップを進めていった。彰人はパソコンに詳しいこともあり、スムーズに事は済んだ。




その後、家庭的機械本体とキャプチャーボードをつなぐ。そしてカートリッジを刺して電源を入れてみる。パソコンのモニタ上にゲームの画面が映し出された。


その様子を興味深そうに空は見ていた。空にとってこういったレトロゲームを見るのも触るのも初めてだ。家庭的機械の電源ボタンがスイッチ式なのにも驚いていた。


「右側の四角いボタンはなんですか?」


「それはリセットボタンって言って、ゲームのタイトル画面に戻るときに使うんだよ」


「タイトルに戻るって?」


「初めからやり直したいときに使うんだ。しかもこの時代はセーブもできないから、クリアするまでぶっ通しでプレイする感じだったんだよ」


空はゲームのことはよくわからないが、”クリアするまでプレイする”の部分に驚いていた様子だった。


その様子を見て彰人は改めためて今回の配信の方針を考えていた。


それは「家庭的機械を見るのも初めて」という超初見プレイを配信する、というものだ。


ただの”初見プレイ”ならば、もうすでに腐るほどある。スーパー配管工ブラザーズとはそれほどにメジャーなゲームなのだ。人を集めるにはこれくらいしないといけないと思っていた。


「空、これから配信するけど・・・俺に相談しちゃダメだからね?」


「なんでですか?!おにちくですか?!」


空は悲鳴を上げる。そして相変わらず鬼畜を読み間違えていた。


「”おにちく”じゃなくて”きちく”な。でさ、虚空さんはこのゲーム機を見るのも初めてだ。そうだね?」


「そうですけど・・・」


突然一人でやれと言われて不安な顔をする。その瞳にはうっすら涙も浮かんでいる。その顔を見て彰人は申し訳なさそうに言う。


「いじわるしたいわけじゃないんだ。前も言ったけど、注目されるには”他人と差別化”していかないといけない。誰もしなかったような表現をしていかないと誰も見てくれない。見に来たとしてもすぐ退出してしまう」


”すぐ退出してしまう”これは3ヶ月間の虚空さんが散々見てきた光景だ。


「だから、見に来てくれた人と一緒にゲームを楽しんでほしい。みんなのコメントと一緒にゲームをクリアしてほしいんだ」


まだ空は不安そうだった。


「・・・私に・・・できるでしょうか?」


「大丈夫。今の空ならできるよ。それに最低限の手助けはするから。だから・・・」


”VTuber虚空さんを存分に楽しんでほしい”と空に力強く告げた。


やがて空も迷いが吹っ切れたのか、彰人をまっすぐに見据えて言った。


「どこまでできるかわからないけど・・・でも私、やってみます!」


その言葉を聞いた彰人は嬉しそうにうなずき、配信の手順を説明していく。


そうして18時、遂に虚空さんの初めてのゲーム配信がスタートした。

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