虚空さんの中の人
空の自室で2人がおっぱいについて話していた頃、みなもはひとりスマホとにらめっこしていた。
それはさっき彰人に教えてもらった”VTuber”について調べるためだ。
空のスマホが壊れたときに一緒に携帯ショップに行った。すると”家族割”を強く勧められた。一人だけだと高いが家族一緒だと安くなると。
その店員はしつこかった。スマホの本体代金がこんなに高いなんて・・・と思っていた。だが、店員のゴリ押しにより空と一緒のePhone13 Max Proを持つこととなった。
しかし、みなもは機械オンチだった。フラッグシップモデルを持っていても使いこなせていない。
「・・・」
店員に「携帯に話しかければ検索できますよ!」と言われたのを思い出す。
「・・・ブイチューバー」
スマホに向かって控え目に話しかけるがスマホは反応しなかった。
「ブイチューバー!」
今度は強めに言ってみる。それでもスマホは反応しない。
「・・・私が悪いのかしら?」
なぜ反応しないのか。それは魔法の言葉”ヘイシリ!”を言ってないからに他ならない。店員もそれくらいわかるだろうという傲慢な態度だったので、ヘイシリ!の説明をしていなかったのだ。
みなもは考える。彰人を呼んでこようかと。でも今は空の部屋できっと楽しいことをしているに違いない。さっき紅茶とクッキーを託したばかりだ。せっかくのお楽しみを邪魔したくないと一人で頑張っていた。
スマホに話しかけてもダメなら自分で入力するしかない。
ホーム画面にある検索バーを指でタップする。すると英語キーボードが現れた。
それだけでちょっとビビる。しかも、この不規則な並びは一体なんなのだろうか。どうしてみんな疑問に持たないのかが疑問だった。
ちなみにQWERTYキーボードとは「早く打鍵させないため」にこの並びになったという。タイプライターの時代に早く打鍵しすぎると、バネが絡まって故障の原因となっていたためだ。
そんなことをみなもは知る由もない。そして恐る恐る教えてもらった単語を入力していく。
「v・t・u・b・e・r・・・これでよし」
無事一回で入力を成功させエンターキーをタップする。
するとブラウザが立ち上がり検索結果が出る。その画面の一番上に「おすすめ!新人VTuber特集!」という文字とサムネイル画像が出た。そこにVTuberの写真とともに画像に文字が加工されていた。キャラクターの立ち絵のところに”虚空”という文字が当てられていた。
「・・・こくう・・・空?」
自分の娘の名前の漢字があってなにかシンパシーを感じてしまう。だが、サムネイルの画像では堕天使のような暗いキャラクターが出ている。
とりあえず、右も左もわからないので一番上のやつをタップしてみることにした。
すると画面が変わり、虚空さんの最新の情報が現れる。
「えっ?このお洋服・・・」
この服装に見覚えがあった。忘れたくても忘れられない。だって空があんなにも喜んでいたからだ。
その時、2階からドシーン!という音が鳴った。なんの音か気になる。それでもしばらく様子を見ることにした。
その間、この”虚空”というVTuberについて調べようと思った。プロフィールなどの詳細を確認してく。そこには最近の配信の履歴があり「3ヶ月経ちました~」とコメントが書いてあった。
「やっぱりこれ、空ちゃんだわ」
空の部屋は音もせず静かになっていた。空には悪いがどうしても確かめたかった。そして覚悟を決めて彰人を呼んでくることにした。
空と抱き合ったあと、少し時間が経ってから彰人が1階のリビングにやってきた。
「みなもさん?」
みなもは真剣な顔でうつむいていた。彰人もそれを見て何か重要な話をするために呼ばれたのだと思った。
「彰人くんに教えてほしいことがあるの」
そう言って持っていたスマホを彰人に見せる。そこには”虚空さん”が写っていた。
「(どうしてみなもさんが知ってるんだ?!)」
”VTuber”という単語を教えただけで虚空さんにたどり着くとは到底思えない。
そのままスマホを借り、詳細画面から一つ前の画面に戻る。すると画面には「おすすめ!新人VTuber特集!」のページが見える。さらに彰人は混乱する。
「(誰かが推薦しなければこんなページに特集されるはずがない・・・)」
虚空さんは初めて会った時点でのフォロワーは3人だった。この世界には数多くのVTuberが存在する。その中から誰かに推薦されるというのは宝くじの当たる確率くらい低いものなのだ。黙ったままスマホを操作し「推薦人からのメッセージ」という欄を見つける。そこには二次改革の大道寺可憐と伊集院狂也の二人の名前があった。
「(大道寺可憐は百歩譲ってわかるとして・・・伊集院狂也が虚空さんに目をつけるとは思えない・・・)」
大道寺可憐は比較的ミーハーな印象がある。こっそりゲーム配信とか見に行っていると公言しているほどだ。だが、彰人が知る限り伊集院狂也はそんなキャラではない。
ずっと黙ってスマホを操作している彰人を見て、みなもが心配そうに声をかける。
「彰人くん、どうかしたの?これ空ちゃんでしょ?」
彰人は嘘がつけない。ごまかしきれるとは思えなかった。やがてゆっくりと口を開く。
「・・・はい。このVTuberは空さんが演じているものです」
「やっぱり!」
みなもは自分の予想が当たって両手を合わせて喜ぶ。
「でもどうしてわかったんですか?この世にはたくさんのVTuberがいて、空さんだとわかるというのは・・・」
みなもはこの服装にしたのが彰人だと知らない。でも、みなもは自信たっぷりに言う。
「このお洋服ね、彰人くんに初めて会う日に着ていった服なの。あの子ずっとはしゃいでいて、そんな空ちゃんを見るのは・・・ほんとに・・・久しぶりで・・・」
思わず涙ぐんでしまう。それくらいみなもにとっては嬉しい出来事だった。
「・・・」
彰人は自分がマグダナルダで会ったときの服装をイメージしたことでみなもさんにバレてしまったと申し訳ない気持ちになる。でも、いつまでも隠し通せるものではない。
「おそらくですけど・・・教頭先生の言葉を聞いた空さんが始めたことなんです」
「・・・教頭先生が?」
「はい。”学校だけが人間関係を構築するところじゃない”っておっしゃってました。なので・・・」
「VTuberを始めた、と」
「はい」
VTuberをやってることを知ったらみなもさんは止めるだろうか。彰人はそんなことを思っていた。すると・・・
「私にはこういのはよくわからないけれど・・・どうかな?空ちゃんはちゃんとできてる?」
みなもは微笑みながら言った。それに彰人は答える。
「正直、これから・・・だと思います。でも、もう昔の空じゃない。だから・・・」
「うん。わかった。このVTuberのことも彰人くんにお願いしてもいい?私じゃ力になれそうにないから」
そう言って寂しそうな表情を見せる。そんなみなもに彰人は・・・
「はい!任せてください!」
そう力強く答えたのだった。
そうしているうちに2階から空が下りてくる音が聞こえてきた。彰人がなかなか戻らないから様子を見に来たらしい。
何やら二人が真剣な話をしている様子だった。恐る恐る空が声をかける。
「・・・ねぇ、二人でなんの話してたの?」
彰人はみなもに視線を送った。虚空さんのことを話すのか、話さないのかはみなもに任せるつもりだった。そしてみなもが口を開く。
「彰人くんにね、空のお父さんになってくれないかって話してたの」
その爆弾発言に彰人は驚愕の表情を浮かべる。
「えっ?ちょっ・・・えーーーー?!」
動揺を隠さずに叫んだ。そして空のほうを見やる。
「・・・」
空は彰人を見たまま固まっていた。何か真剣に悩んでいるようだ。
「そ、空・・・さん?」
彰人は恐る恐る尋ねる。そして、
「・・・やっぱりダメです!彰人は私の旦那さんになるんです!」
「なぁ、何が”やっぱり”なんだ?」
空はそれに答えず、再び彰人の腕を引く。そして強引に2階に連れていこうとする。
彰人はみなもの言葉の真相を知りたいと、みなものほうを向いた。
そんな彰人を見て、みなもはてへぺろしていたのだった。




