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ほんとのともだち

「天河、お前にはもう少し付き合ってもらう。職員室にこい」


鬼塚がそう言って職員室へ誘導する。そして職員室の扉をくぐると・・・


「天河君きた!」


「これで勝つる!」


「コングラチュレーション・・・!」


「おめでとう」


「おめでとう・・・!」


職員室にいた職員全員が立ち上がり、拍手をしながら彰人のほうへ向き直る。


「え・・・?」


それはまるで一世を風靡し、社会現象にまで発展したアニメの25話のようになっていた。


正直理解ができない。


「ありがとう天河彰人」


鬼塚が嬉しさを隠さずに言う。


「橘の親御さんからアキトという男子のおかげで娘が学校に行くと言ってくれたと連絡があったんだ。親御さんは泣いていたそうだ。それほど嬉しかったんだろう」


「空のお母さんが・・・」


彰人は胸が熱くなった。自分と、そして彩香の力を借りることで空は学校に来てくれた。


風花の言う通り、空は変わった。以前のようにオドオドしていなかった。はっきりと相手に意見が言えるようになっていたのだ。


空のお母さんのことをもちろん知らないが、空があれだけ可愛いのだからきっと綺麗な人なんだろうなと思った。そして改めて挨拶に行きたいとも思った。


だが、まだ安心はできない。朱里との関係をなんとかしない限り、また不登校になっていまうかもしれない。ここで問題を解決し、胸を張って会いに行きたいと彰人は思った。




職員室の奥、人一倍大きな机には教頭先生がいた。教頭は彰人に向かって手招きをする。


「君が天河彰人くんだね。私にちょっと付き合ってくれないか」


そう言って応接室に向かっていく。女性の職員さんたちが一斉に給湯室に向かう。


「私が教頭先生の好み知ってるから!」


「私だって知ってるし?彰人くんに私の紅茶を飲んでほしい!」


「あんたたち雑なのよ!邪魔だわ!」


・・・どうやら誰がおもてなしするかで揉めているようだ。彰人はそれを横目で見つつ応接室へ入っていった。




応接室なんて滅多に来ない。大きなテーブルに大きなソファーがそれぞれ2つ、向かい合って設置されている。教頭先生と彰人はお互いが向かい合うように座った。


そこに高級そうな焼き菓子と紅茶とコーヒーがセットでそれぞれに向かって置かれた。


おそらく揉めた結果、全部出せばいいということにでもなったのだろう。出されたからには飲まないと失礼だと彰人は思った。


それを見た教頭先生は苦笑しながら言う。


「騒がしくてすまないね。何も遠慮することはないよ」


「それじゃあ・・・」


そう言って彰人は紅茶に口をつける。柔らかな茶葉の香りが鼻を抜けていく。


「美味しい・・・!」


普段あまり紅茶を飲んだりすることはない。そんな彰人でもこの紅茶は高級なんだろうなと思わせるような美味しさだった。その様子を見ていた教頭が言う。


「美味しいだろう?ある人からの頂き物だよ。君も無関係ではなくなったね」


「?」


彰人は教頭の”無関係ではなくなった”の意味を図りかねていた。


「空君は今から3ヶ月くらい前にグラウンドの隅で泣いているのを見つけてね」


教頭はそれを見て思わず声かけた、とそう言った。


「もう誰も信じられないって泣きながら言っていたんだよ」


「・・・」


「私はね、学校だけが人間関係を構築するところではないと思っている。ネット上の誰かとだってちゃんと信頼関係を築けると、そう思っているんだよ」


「(空がVTuberとして活動を始めたのがちょうど3ヶ月前くらい・・・そうか、教頭先生の言葉を聞いて活動を始めたんだ・・・)」


彰人はずっと思っていた。空のような引っ込み思案な女の子がVTuberをどうしてやろうと思ったのかと。それはあまりにも無謀すぎる挑戦だと思ったのだ。教頭先生の言葉で納得がいった。


「彰人君と空君はネットで知り合ったと言っていたね?ネット上の彼女はどうだい、ちゃんと明るく振舞えているかい?」


彰人に向かって優しい眼差しを向ける教頭。それに対して彰人はこういった。


「まだぎこちないですけど、これからもっと明るくなると俺はそう思っています」


その発言に満足そうに頷く。


「そうか。今の空君には彰人君がいる。もう何も心配いらないね。彼女をよろしく頼む」


教頭先生の言葉に彰人は・・・


「わかりました。俺が彼女を守ります」


そう力強く言ったのだった。




そうしてお昼休みが終わり、午後の授業が始まった。空とは机をくっつけながら授業を受けている。彼女は嬉しそうだ。彰人は気づいていないが、周りからしてみれば完全なるイチャコラだった。悟はあきれ顔でそれを見つめ、浅村はその様子を優しい顔で見守っていた。だが一人だけ悪意のある眼差しを向けていた。窓際にいた朱里は二人を忌々しそうに見つめていた。




放課後になる。柚は教室に残っている人たちに声をかけて回っていた。


「ちょっと教室使うから今日は早めに下校してねー」


みんな柚の言葉に従って下校の準備を始める。そうしているうちに風花が彰人のそばに寄ってきた。


「天河君、ちょっと」


「え、ああ・・・」


彰人は空が心配だったが風花について教室を出る。


「これから天河君は私と行動を共にしてもらうわ」


「・・・空と五所川原のことだな」


「そう。放課後に2人で話すようにセッティングしたわ。柚も一緒よ」


「空・・・」


彰人は思う。空は確かに変わった。以前のような迷いはない。でも、自分をいじめていた人間を前にちゃんと話ができるだろうかと。


「橘さんのこと、信じてないの?」


「そういうわけじゃないけど・・・」


「なら信じてあげて。2人で話したいって切り出したのも橘さんなんだから」


それを聞いて彰人は驚く。でも空は確実に強くなっていることを知ったのだった。




そして放課後。朱里、空、柚の3人だけが教室に残っていた。




朱里と空がお互いを見据える。そして空が口を開いた。


「朱里ちゃ・・・いや、五所川原さん!私の話を聞いてください!」


「・・・なに?」


朱里は空を睨みつけながら言う。その瞳は動揺に揺れていた。


「昔の私があなたたちに迷惑をかけたことは謝ります。本当にごめんなさい!」


「・・・」


朱里は何も言わなかった。そのまま空が続ける。


「でも、あなたたちが私にしたことは許せそうにはありません。私は傷つきました」


そう言われ朱里が口を開く。


「あんたが陰キャでウザいのが悪いんでしょう?!いつもいつもオドオドして・・・あたしが話かけたって全然聞いてないみたいで・・・!」


柚は二人から少し距離をとったところに立ち、様子を見ていた。もし朱里が暴力に訴えるようだったら柚が全力で止めるつもりだった。彼女は空手の有段者だ。護身術は一通り身につけている。


空は申し訳なさそうに朱里に頭を下げる。


「本当にごめんなさい。当時の私は自分に自信がなくて、誰かに自分が必要とされてるなんて思ってもみなかったことなんです。だから朱里ちゃんが声をかけてくれてもどうしていいかわからなかった」


「だったら!」


朱里は叫ぶ。


「だったら、どうしたらいいのかわからないって言ってくれればよかったでしょう!?私だって・・・」


柚は知っている。朱里は空に対して未練があった。でも朱里の取り巻きの2人が空に対して嫌がらせ行為をしていてもそれを止められなかったことを。空をかばったら自分がいじめられるかもしれない。だから朱里は空を生贄にしたのだ。自分がいじめる側になれば自分がいじめられることはない。


「あんたが悪いのよ!あんたみたいなのがいつまでもウジウジしてるから!ムカつくんだよ!学校にくんな!陰キャのくせに!」


朱里は泣きそうになりながら叫ぶ。それを聞いた空はしっかりと朱里を見ながら言った。


「それはできません。私は約束したんです。きちんと学校に行って、卒業して、そして堂々と胸を張って一緒に歩こうって!」


朱里は戸惑っていた。自分が知っている空はこんなに強くないはずだった。


「あいつのせい?天河があんたを変えたの?」


「彰人と彩香、どちらも私のかけがえのない人です・・・!」


朱里はそれを聞いて泣きそうになる。自分以外の女子の名前が出たことで、空にまで見捨てられたような感覚になってしまったからである。


「あんたみたいな陰キャが・・・!」


「私は陰キャなんかじゃない!」


朱里の言葉を遮りながら空は叫ぶ。これは大切な親友との約束。空はそれを守ったのだ。


「うっ・・・ううう・・・」


朱里は泣いていた。空にまで嫌われてしまった。以前一緒につるんでいた2人はクラス替えをきっかけに音信不通となった。隣のクラスだし、会おうと思えば会える距離だが”空をいじめる”という共通のことが無くなってしまい、話す話題もないのだ。


ネトゲで知り合った人たちがそのゲームを辞めると音信不通になるなんてよくあることだ。


”共通の話題”が無くなったとき、人間関係は壊れてしまう。所詮その程度のつながりでしかなかったのだ。


そんな朱里に空は言う。


「朱里ちゃん、私をいじめた責任をとってください。私の言うことをなんでも聞いてください」


朱里は絶望に近い表情で空を見る。自分をいじめた人間からどんな報復が待っているのだろう。一人になってしまった朱里は恐怖におびえていた。その顔を見た空はこう言い放つ。


「私をいじめた罰として、私の友達になってください。その期間は一生です」


「えっ・・・?」


朱里は”友達になってください”という部分が信じられなかった。あれだけひどいことしたのに。


そのやりとりを見ていた柚がゆっくりと口を開く。


「五所川原さん、私はその条件悪くないと思うけど?それにこのままだったら天河くんがあなたを許さないだろうしね」


”天河”という単語に反応する。そうだ、天河彰人は空の彼氏だ。私のことを強く憎んでいるに違いない。そして、自分も空みたいになりたいと思った。空を羨ましいと、そう思った。おずおずと空に尋ねる。


「いいの?私なんかが友達になっても?」


その様子に空は優しく微笑みながら言う。


「いいとか悪いとかじゃありません。これは罰なんですから」


そう言って朱里の手を取る。


「これからよろしくお願いします。朱里ちゃん!」


そして二人は強く抱き合うのだった。




その様子を見ていた柚が風花に向けてLINEを送信する。


これで空の問題は無事解決した。風花はホッと胸をなでおろしたのだった。

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