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2. お茶会にて

宜しくお願いいたします。


「スッとしたわ。さすがクラリノッサね」

 ラフィネ嬢は興奮が覚めないという調子で口を開きました。舞踏会の翌々日の事。


 今日のラフィネ嬢は、青色のワンピース。ワンピースといっても、私が普段着るようなラフな物ではなく、一見豪奢で、ちゃんと下にコルセットも装着。でも、板のような(ノルトル婦人の言うところの)乳上げ機は付いていないので、バストはやや控えめ。自然なスタイルのラフィネ嬢は美しく、the淑女といった感じ。


 それはそうと、私は、ラフィネ嬢に呼ばれ、アザレン公爵家で、お茶をしております。週に三、四日はお呼ばれしていますので、いつもの風景といったところ。でも、今日は、ポーラ様も参加しています。


 先日の一件で足を痛められたポーラ様は、侍女に支えられながら来られました。

 無理して来られなくてもよろしいのに……。とも思いましたが、そこは、ポーラ様のお気持ち。窮地に手を差し伸べた公爵家と私に少しでも早くお礼を言いたかったそうです。あぁ、この細やかなお心使い、可愛い。あっ、ここで可愛いって感想は、可笑しいかもしれませんが、可愛い。


「で、何があったの? 事情を教えなさい」

 ラフィネ嬢が面倒くさそうに聞かれました。

 何故そんな感じで話すのですか? まぁ、社交界では完璧な貴族令嬢なラフィネ嬢ですが、私と二人と時は辛口、辛辣、冷厳な口振りなので、いつも通りと言えばそうなのですが……。ほら、ポーラ様が怖がっているではありませんか。


 侯爵令嬢ポーラ様、公爵令嬢のラフィネ嬢より階級は一つ下、私の伯爵家より一つ上。始めはちょっとオドオドしながらも、バルド第三王子との事を説明してくれました。

 バルド第三王子とポーラ様は、産まれながらの婚約者。それは、第二騎士団を統括するタルホッド侯爵家と王族の繋がりを深める為のもので、当人同士の気持ちは一切関係のない政略的なもの。幼い頃は、仲良く過ごしてきた二人だったそうです。しかし、異性を意識し始める年頃になった頃、バルド王子は社交界の流行に沿って、ボン・キュッ・ボンを求めるようになってきたようで……。


 そこまで言って、ポーラ様は、ご自身の胸に手をあてられました。

 確かにボンではありません。でも、無いというわけでも、ささやかすぎるというわけでもない事は、服の上からでも分かります。侯爵家の者が公爵家に来ているので、社交界用のドレスとまで言いませんが、それなりの正装です。それでもちゃんと分かります。分かりますとも。

 大丈夫、胸なんて関係ありません。貴女は、私が守ります……って、何?

 何故、私の胸を見て頬を染められているのでしょうか?

 小振りな顎を引いて、茶色の瞳を上目遣い。まるで、恋する乙女のような……。可愛い。

 でも、何か言わなければ、こっちを向いてコメントを待ってる……。


「い、いや、あのポーラ様の胸は、そう、ス、スポーティ。スポーティで良い胸だと思います。走るにも邪魔にならないし、弓を射る時にも胸が舷にあたらないし……、そう、最高にスポーティ」


 そう、スポーティな胸。ちょっとあたふたしたけど、最高の表現ができた気がする。私、スゴイ!


「スポーティ……な、胸?」


「そう、スポーティ」


「スポーティ?」


「スポーティ!」


「スポーティ。」


「スポーティ。スポーティな胸、バンザイ」


「スポーティな胸! クラリノッサ様、スポーティな胸はお好きですか?」


「大好きです。スポーティな胸」


「私、スポーティな胸で最高!」


 何か、異様なテンションで乗り切れた……。


 黙っていたラフィネ嬢が、生暖かい眼差しで言われます。

「私は、スポーティ以上、ボン未満な訳だけど……。ポーラ、クラリノッサのは別だから」


 軽く胸でマウンティング取ってますね。言外に、『私は、貴女より上』って言葉が聞こえてきますよ。でも、ラフィネ嬢、ポーラ様は胸を板に乗せません。


「クラリノッサの腹を触ってごらんなさい」


 来ました!私の自慢の腹筋の出番。

 今日の私は、馴染みのラフィネ嬢とのお茶会という事で、比較的簡素な服装です。当然、コルセットなんてしておりません。


 恐る恐る私の腹筋に手を伸ばすポーラ様。華奢な手も可愛い。

 そして、ドングリ眼をさらに見開いて、驚きの表情で、問うて来ました。

「こ、これは何でしょうか?」


 私は、満面の笑みで答えます。

「アグニスです。その横の斜めにカットが入っているのがマルク」


「えっ? コルセットの種類ですか?」


「いいえ、キレイに六つに割れている腹直筋がアグニスで、脇から斜めに走っている腹斜筋がマルク。服の上からでも分かりますよね」


「えっ。えっ」


「ついに筋肉に名前を付けたか……」

 ラフィネ嬢が頭を抱えて呟いていました。



「――で、このクラリノッサは、騎士になりたいらし。大体が女の騎士なんて前例がないし、伯爵家令嬢が騎士なんて……」

 ラフィネ嬢が、私が鍛えている理由を話しています。

 でも、違うんです。いや、確かに騎士に憧れはあります。それよりも、筋肉は純粋に美しいんです。


「ラフィネ様、庶民の中には女冒険家や女性の傭兵等もいると聞きます。それに、私自身についても四六時中男性の騎士さんに護られるよりは、強い女性に付いていて欲しいのですが……クラリノッサ様のような」

 ポーラ様、ナイスフォロー。


「だったら侍女で良いでしょう」

 ラフィネ嬢、食らいつく。


「侍女では、その襲われた時とかに不安があります。……それにトキメキも」

 ポーラ様も食らいついていく。でも、トキメキって?


「護身術くらい身に付けなさい。嗜みでしょう」

 ラフィネ嬢、強い。


「護身術……」

 あ~、ポーラ様負けた。でも、大丈夫! 私は、貴女の騎士になりますから。私が貴女を護りますよ。


 買ったラフィネ嬢、こちらを見つめて、

「何ヘラヘラしているの? 貴女の事ですよ。どうしたいの? まぁ、ずっと私の横に――」


「筋トレ!」

 かぶり気味に間髪入れずに答えます。っと、何かずっと私の横に何とか言ってたような気もしましたが?


「貴女ねぇ」

 え、ラフィネ嬢、怒ってます?


「じゃ、じゃあ素振り?」


「何で疑問形なの!」

 やっぱり怒ってた……。


お読み下さりありがとうございます。

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