8.黒い感情
「何か面白い事になっているみたいね」
4人で出かける約束をした日の夜、立花さんからチャットが来た。立花さんは他人事だと思って、すっかり面白がっているみたいだ。
「全然面白くないよ!!」
「まあ、でも三波さんと高橋さんと一緒に出掛けるというのは有益な情報を得られる可能性があるかも」
「どういうこと?」
「あの二人、完全に別グループで関わり合いが無かったはず。それに様子見てるけど三波さんはどうやら高橋さんが苦手みたいだし」
確かに今日、みんなで話している時、明らかに三波さんの様子はおかしかった。いつも明るいのにずっと下を向いていたし高橋さんに必要以上に気を使っているように見えた。
「そんな二人が一緒に出掛けるなんて何かボロを出すかもしれないし。そうじゃなくてもデートで気が緩んで余計な事を話してくれるかもしれないし」
立花さんとは顔を合わせて話しているわけではないが、笑顔で文字を打ち込んでいるのが目に浮かぶ。
「まあ、どんな事になるか分からないけど、極力話聞けるように努力してみるよ」
「あくまでデートなんだから楽しんでね(笑)いきなり重い話をしても浮くだけだろうし」
立花さん、他人事だと思って……、まあ女子達と一緒にお出かけなんて初めての事だし、浮かれていないと言えば嘘になるのだが。
「せっかく、杉下君とお昼食べるようになったのに、あの糞女、邪魔しやがって」
私は家に帰って自分の部屋に戻った瞬間、髪を結っていた紐を取り、鞄を壁に放り投げて悪態を付いた。
「何が、二人でデートだ。調子に乗りやがって、あのクソビッチがよ」
勇気を出して、杉下君を誘って、野乃花と楽しくご飯食べていたのに、高橋絵梨香、アイツが横入して来なければ。
「佐藤さんが死んじゃって、すぐ杉下君に唾つけに行くなんて白状とか言ってたのに、テメエは何なんだよ!!」
いくら叫んでもこのイライラは止まらない。部屋にある小物を手当たり次第に壁に投げつける。いくら杉下君と野乃花がいるとはいえ、あの糞女と一緒に出掛けるなんて反吐が出る。立ち尽くしていると自分の携帯から通知音が鳴った。どうやら杉下君からメッセージが来ているようだった。先ほどのイライラが吹っ飛びメッセージを確認する。
「今日、高橋さんと話している時、様子がおかしかったけど大丈夫?」
杉下君は優しい。私の事を心配してメッセージをくれるなんて。
「全然大丈夫だよ!!そんな事よりみんなでお出かけするの楽しみだね~」
「そうだね~、どこ行くとかは明日また相談するのかな?」
「そうかも、でも高橋さんが行きたいとこになりそうだよね……」
文字を打ちながら嫌になる。アイツは自分の立場を利用して好き勝手しようとするなんて目に見えている。
「う~ん、確かに……、でも三波さんが行きたいところあるなら、俺から高橋さんに提案してみるけど何処かある?」
「私の事はいいから、杉下君の行きたいところある?」
杉下君が行きたい所、優先に決まっている。私にとって自分が楽しい事よりも杉下君に楽しんでいる事の方がはるかに重要だ。
「俺!?いや~、インドアだから具体的にどこ行きたいとかはないんだよね……、みんなが行きたいところの方が楽しめると思うよ」
「それなら映画館なんてどう?」
「あ~、いいね、俺みたいな口下手でも乗りけれそう(笑)そしたら明日、高橋さんに話してみるよ。ありがとうね」
その後は他愛のない会話をしてチャットは終わった。やはり高橋絵里香、あの女が最大の障壁になる。あの女さえ、あの女さえいなければ。私の中でどす黒い感情が渦巻いていた。