5.新たな頭痛の種
三波さん達と食事をとったその日の夜、その出来事を立花さんにチャットで報告をした。
「了解、早速三波さんから接触があったのね……」
「うん、流石に事件の事は聞かなかったけど」
「当然、その方がいいでしょうね。もっと距離を縮めてから触れるべきだわ」
いきなり、事件の話など重い話をしても重すぎるし間違いなく引かれるだろう。
「他に何か変わったことあった?」
考えていると立花さんからコメントが来ていた。
「そういえば高橋さんが朝挨拶してきた。今までそんな事なかったのに」
「高橋さんって高橋絵里香さん?ちょっと面倒な人ではあるけど彼女から接触があるのは良い事ね」
高橋絵里香さん、押しも押されぬクラスの中心人物だ。誰もが認めるクラスのカーストトップと呼べるだろう。制服を軽く着崩し明るい髪色の所謂ギャルというやつだろう。俺のような人間とは関わり合いがなさそうと考えていた。
「良い事?」
「ええ、もしクラスメイトが事件に関係ある場合、まず間違いなく高橋さんが何かしら関わっているとみるべきだもの」
「彼女が犯人に関係するかもしれないってこと?」
「そこまで言わないけど……、あなたも知っていると思うけど彼女がこのクラスの中心人物なの。当然クラスの情報の多くも彼女に集まる。それにあの子クラスの代表の面しているような人間よ。揉め事があれば関係しているに違いないもの」
大分、立花さんの感情が入っている意見だと感じるが、おおよそ賛成できる意見ではある。以前クラスでイジメが起きていると噂があったが高橋さんがそれを諫めて解決したという話を聞いたことがある。
「でも俺なんかと話す理由が分からないよ」
「彼女もあなたに気があるって話があるみたいよ」
いまいち、クラスの女子達が俺に興味があるという情報は信用していないが、今日の三波さんの行動を見るとそういう可能性もあるのかもしれない。わざわざ俺の為に弁当を作ってくるなど好感を持っていないとしないだろう。それか幼馴染を亡くした俺を気遣っているか。今のところ、クラスのみんなは俺を心配してくれているんだろうと思ってはいるが。
「正直それはないと思うけど彼女から接触があったら、話はしてみるよ」
「お願い。夜にわざわざごめんなさいね。また何か分かったら情報を頂戴」
「了解。おやすみなさい」
ひとまず今日の報告はこのくらいでいいだろう。報告が終わると携帯を枕元に投げてベットに倒れこむ。三波さん達と一緒に食事したり、高橋さんから朝から挨拶されたり慣れない事をしてかなり疲れた。今日はこのままゆったり眠れそうだ。
九日十一日、翌日の朝、昨日あのまま寝落ちしてしまい、ぐっすり眠ってしまったようだ。体がカチコチに固まったまま登校しなければならなくなりかなり憂鬱だ。
「は~」
学校へ向かいながら思わず大きな欠伸をしてしまう。
「大きな欠伸だね~」
いきなり横から話しかけられビックリして横を見ると赤髪に気崩した制服の女子、高橋さんがすぐ横に立って俺の顔をまじまじ見ていた。
「た、高橋さん!?お、おはよう」
「はよ~、ちょー眠そうだね?」
「い、いや~、変なところ見られちゃったな」
誰かに見られると思わず思い切り欠伸したのでかなり恥ずかしかった。
「変?いや、ちょー可愛い顔でよかったかな」
「可愛いって、ハハ、まさか」
正直かなりいたたまれない。
「ごめん、全然話変わるんだけどさ~」
先ほどまで笑っていた高橋さんが心なしか真面目な顔になっている。
「うん?」
「私たちって今まであんまり話してなかったよね?」
「そ、そうだね。昨日話しかけられてビックリしたよ。ハハ」
「あ、そうなん?ごめんね~。でもさこれからは話しかけていいんだよね?」
「え?いや全然良いけど、何で?」
「いや、本当のこと言うとね。杉下君、クラスで浮いてるな~って」
「あ、ああ、俺この通り、あんまり人と話すの苦手でさ」
「そんな事ないと思うよ。それより理由は……」
「理由?」
「ん、何でもないや。それよりこれからはクラスでも話そうよ」
正直、高橋さん一人なら頑張れば何とか話せる気がするが、高橋さんはクラスの中心グループにいて正直彼ら全員と上手く馴染める気はしない。その様子を見て高橋さんは不安そうにしている。
「ごめん、嫌だった?」
「いや、全然嫌じゃないんだけど、みんなと馴染める気はしないなかもな~って」
「ああ~、亮とか咲結構見た目、いかついもんね~。アハハ、あいつら良い奴らだよ?」
亮君、咲さん、名前は正直分からないがクラスでいつも話している友達の名前だろう。
「い、いや~、俺この通り、暗いからみんなの雰囲気壊しちゃうかなって」
「あ~、そっか、別に大丈夫だと思うけどな~」
高橋さんはう~んと腕を組みながら考えている。
「あっ、じゃあうちとだけ話せばいいじゃん」
「え?」
「私だけだったら怖くないでしょ?」
「う、うん」
そうはいうが高橋さんは何時も友達と一緒にいるからどうするんだろうなどと考えていると、高橋さんは続けてこう言った。
「放課後とか休みの日とかで話せば良くない?」
「ふぇ?」
突拍子のない事を言われて変な声を出してしまった。
「アハハ、今何て言ったの?アハハハ」
立花さんは僕の変な鳴き声がツボに入ったのか大笑いしている。
「取り合えずチャット交換しようよ。何処か遊びに行くときとかそれで相談すれば良いっしょ」
「う、うん!?わ、分かった」
またも突拍子もない事で驚いたが、すっとスマホを取り出し彼女にチャットアプリ画面を見せた。高橋さんもスマホを取り出しお互いチャットアプリでフレンドになった。
「ありがと~、じゃあ、今度行くデートの相談しようね~」
そう言うと、高橋さんは学校へ走り出してしまった。最近の女子は約束事をしたら走ってどこかへ行ってしまうのが流行りなのだろうかと考えた。
「うん、デート!?」
とんでもない事を言われたのに気付いたのは高橋さんの姿が見えなくなった後のことであった。