3.登校中の約束
「犯人に関する情報?それに俺がクラスの女子と接触?俺にそんなことできないよ」
俺にそんな探偵のようなことは出来ないし、クラスの女子と話をするなんて陰キャの俺に出来る芸当ではない。
「勿論、あなたに多大な負担をかけるつもりはない。あなたから女子に話しかけるのは厳しそうだものね」
「そ、そうだよ」
「おそらく、いえ、間違いなくクラスの女子からあなたへコンタクトがあるはずよ」
「なんで?」
「誰が殺したかはともかくとして女子達があなたに好意を抱いている事は事実よ。そして彼女達から邪魔な存在だった佐藤さんがいなくなった」
「つまり、朱里がいなくなったから俺と接触することが出来るようになったと?まさか……」
「まあ、いきなりこんな事言われても信じられないと思う。ただ頭に入れといて欲しいの」
「完全には信じられないけど俺に接触してきた女子と話をしてみる」
「良かった。それじゃあ、連絡先だけ交換しておきましょう。何か情報があったら連絡してほしいの」
「分かった。じゃあこれ」
そういうと俺のスマホをチャットアプリの友達追加欄の画面を出して立花さんに差し出した。
「それと、学校では極力話さないようにしましょう」
「?」
「誤解しないで欲しいのだけど、もし佐藤さんの殺害理由があなたに関係があるとすれば近くにいる女子は危ないと思うの」
「え、まさかそんなこと……」
「まあ、念のためにね、だから何かある時は基本的にはチャットで連絡を取り合いましょう。そしてこの事は誰にも話さないで欲しいの」
「了解、じゃあまた何かあったら」
取り合えずここで話は終了した。正直、話を完全に信じられるわけではないがクラスメイトが朱里の事で何か知っているのならば俺も知りたいと思ったので直に協力しようと思った。
結局カラオケの代金は立花さんが払って、クラスの人に見られるわけにはいかないと時間をずらして店を出ることにした。
九月十日、翌朝また一人で登校している。いつも朱里と一緒に登校していたので何処か違和感を覚えてしまう。
「おーい、杉下く~ん!!」
物思いにふけりながら歩いていると後ろから誰かに話しかけられた。後ろを振り返ると、クラスメイトの三波さんが手を振りながらこちらに駆け寄って来た。
「み、三波さん、おはよう……」
「も~、朝だからってテンション低いよ~」
軽く背中をはたいてきてびっくりした。
「う、うん」
「あ、ごめん……、いきなり馴れ馴れしかったよね?」
「い、いや、全然大丈夫だよ」
「本当?杉下君と話をしたくて、はしゃぎすぎちゃって……」
いつも元気な三波さんがしゅんと俯いてしまった。
「ほ、本当に平気だから気にしないでよ。俺ってほら……、人見知りだからちょっとビックリしただけなんだ」
「へ~、そうなんだ」
さっきまでしゅんとしていたのにぱっと明るい笑顔で僕を見上げている。今までそんなに気にしていなかったが三波さんはかなり可愛らしい顔をしているなと感じた。ポニーテールがトレードマークでこの通り明るい性格でクラスの中心人物である。
「ところで朝からどうしたの?」
「え?いや杉下君が歩いているのを見かけたから話かけただけだよ?」
三波さんはそんな事を言うが今まで三波さんから登校中に話しかけられたことなどなかったので疑問を覚えた。だが、昨日の立花さんの話を思い出した。
「あなた、佐藤さんとずっと一緒にいたじゃない。まあ、女子達の話ではあなたをほかの女子から遠ざけていたって話らしいわよ」
本当かウソか分からないが、昨日言われた事は頭に入れたほうが良さそうだ。
「そういえば昨日、杉下君って昼休み一人で食べてたよね?」
「あ、ああ、そうだね」
朱里が亡くなってから、一緒に昼食べる人なんていなかった。
「もし良ければなんだけど……、今日一緒にお昼ご飯食べない?」
「え、あ、ああ大丈夫だけど」
急に一緒にご飯の誘いを受けたのでびっくりしてとっさに許可してしまった。
「本当?やった~、約束だよ」
三波さんは満面の笑みで指切りをしたいのかこちらに小指を差し出してきた。
「う、うん、約束」
咄嗟に小指を出して指切りをした。
「えへへ、じゃあまた後でね~」
指を離すとダッシュで校門へと走って行ってしまった。咄嗟の出来事に色々考えるが昨日の立花さんの話を思い出し気を引き締めた。