26.デジャブ
加藤さんと別れた後、家に帰宅した俺は朱里が何処に消えてしまったのかを案じていた。スマホを見て朱里とのチャット欄を除いてみたが未だに読まれた気配がない。
「朱里、何処に行ったっていうんだ」
俺は頭を抱えた。今朝殺される未来を避けたからといって油断してはいけなかった。衝動的に過ちを起こしてしまったのではなく、計画的な犯行だとしたら常に警戒を行わなければならなかった。それだけなら兎も角、何故俺は呑気に加藤さんと一緒に下校なんて行動を取ってしまったんだ……?
俺は朱里を必死に探し回っていた。命の危険があるのだから当然だ。加藤さんは事情を知らないのだ。一緒に下校しようと誘うのはそこまでおかしな訳ではない。だが俺はどうだ。朱里の命の危険があるというのになぜ呑気に一緒に下校何て行動を取ってしまったんだ?
……いや、この考えは不要だな……。
余計な事を考えたらなんだか眠くなったのでベッドに入り、目を閉じた。それは何かに導かれるように。
目を覚ますと朝の七時を示していた。いかん、制服のまま寝てしまったのか。登校するには早いので取り合えず来ていた制服をハンガーにかけ、シャワーを浴びる事にする。シャワーを浴びた後、俺は自室に戻り制服に着替えてリビングに向かう。テーブルの前には妹の遥香と、母さんが座っていた。先に食事をとっている様だ。
俺の家族は母さん、俺、妹の三人家族だ。父さんは俺が幼い頃に亡くなっていたため、俺自身、父さんとの記憶があまりない。
「あっ、おにい、朝からシャワー浴びるなんて珍しいね」
妹の遥香はパンを食べながら俺に話しかけてくる。
「ああ、昨日疲れちゃってそのまま寝ちゃったんだよ」
「え、あんた、もしかして制服着たまま寝たんじゃないでしょうね」
「いや、帰ったらしっかりアイロンかけるから……」
母さんは全くと……と呟きながら立ち上がり、食器を流しに置いてさっさと家を出てしまった。父さんが亡くなった後、女手一つで俺達兄弟を育ててくれているため、朝早くから夜まで働いている為、頭が上がらない。まあ、ただ単純に気が強くて怖いのでビビっているだけだが。
「おにい、今日も朱里ちゃんと一緒に学校へ行くの?」
「あ、うん、多分」
「多分ってなによ」
昨日から朱里と連絡が取れないという事実は伏せた方が良いだろう。余計な心配はかけない方がいいだろう。
「じゃあ、私は先に学校に行くね」
妹の遥香は近所の中学に通っている。家から近い所なので少し早いのではないかと思うが、遥香は昔から朱里の事が苦手のようで鉢合わせにならないように先に学校に行くことが増えた。妹の中学より俺の高校は少し離れているので俺も準備をして早く出なければ。
俺は急いで朱里との待ち合わせ場所に向かった。しかし、そこに朱里の姿はなかった。俺はスマホの朱里とのメッセージ欄を見たがまだ確認された気配がない。俺は慌てて学校に向かう事にした。急いだためか十分ほどで校門まで着いた。
校門の前で何かざわざわして様子がおかしい。校門の前を通る時、近くにいた生徒同士が話しているのを聞いてしまった。
「なんか、教室で誰か殺されたみたいよ」
俺はまさかと思い、自分の教室まで走り出した。下駄箱で靴を脱ぐ暇も惜しんで俺は駆けていた。そして自分の教室の前で大勢の人がたかっているのが見えた。柱の前でもどしてしまった生徒を気にする事もなかった。
「悪い、みんなどいてくれ!!」
人だかりをかけ分けて自分の教室の中を見た。
そこには以前の記憶で見た朱里が黒板に血だらけで吊らされた姿そのままの光景が目の前に広がっていた。




