19.恐怖からの逃亡
「杉下君!!」
俺の目の前に現れたのは立花さんだった。
「えっ、立花さんな、何で?」
立花さんがなぜこんな所にいるのだろうか。
「そんな事はいいから、ハアハア、早く逃げるよ!!」
立花さんはここまで急いで走って来たのかと息を切らしている。
「い、いや、俺の腕に手錠があって鍵がない……」
「分かってる、ほら」
そういう立花さんの手のひらには鍵が乗っている。
「なんで立花さんが鍵を……」
「そんな事良いから、先生が戻ってきちゃうでしょ」
「!!う、うん」
立花さんは急いで俺の手錠のカギ穴に。俺は無事動けるようになった。
「じゃあ急ぐよ!!立てる?」
「あ、うん、大丈夫」
俺が立ち上がった瞬間、立花さんが俺の手を引き駆け出した。ドアを開けた瞬間、廃病院の中は電気がついていない中、避難誘導灯の緑の光が怪しく光っていた。立花さんはそのまま俺の手を引き廊下を走る。
ある程度走ったところで階段があり下を駆け降りる。一階まで降りた時、廊下の奥からコツコツと誰かの足音がするのを聞いた。
「チッ、もう戻ってきたか」
立花さんは舌打ちをして廊下の奥を睨みつけているかと思えば次の瞬間には俺の腕を思いきり引っ張った。
「杉下君、出口はこっちだから早く!!」
「う、うん」
俺は彼女の言う通りに従うしかなく、言われるがまま出口まで走る。俺達は出口を開けて何とか外まで脱出した。目の前には広々とした駐車場跡があった。その先を見ると電灯に照らされた坑道が見える。
「このまま走って!!出口にタクシーを待たせてある」
立花さんは走ったまま叫んだ。俺達はハアハアと息を切らせながら走る。駐車場には一台黒の車があった。昼間に見た先生の車で間違いないだろう。その先まで走ったところで立花さんが立ち止まる。
「あのババア、やりやがった」
立花さんは歯ぎしりをして恨み節をこぼす。
「どうしたの?」
「多分、先生がタクシーを帰らせたんだと思う。タクシーが無くなってる」
「え、じゃ、じゃあ走るしかないんじゃ」
「……そっか、杉下君は分からないかもしれないけどここ山の中なんだよね」
「え?」
道路を見ると確かに病院の前は平たんだが先を見ると激しい坂になっている。
「麓まで行ったら人もたくさんいると思うけど、この病院までくるのに車で十分ちょっとは登ったから、走ったら1時間くらいかかると思う」
何という事だ。どうやら自分は山奥の廃病院にまで誘拐されていたようだ。確かに人がいるところなんで誘拐場所に適していないし当然と言えば当然か。
「こんなことなら先生の車のタイヤでも潰しておくんだった……」
「……、車を持っている先生にはすぐ追いつかれる。だったらかなり危険だけど公道を避けて山の
中を降りるしかないんじゃないかな」
俺は頭を抱えている立花さんに向かって提案をする。
「……いや、それありかも」
意外にも立花さんは賛成をしてくれる。
「かなり危険な賭けだけど、確かこの山には登山用の道があったはず。流石に電灯とかはないにしても携帯で灯りをつけながらなら探せば見つかるかも」
俺達が相談している間に遠くの背後からエンジンをかける音がする。先生が車に乗り込んだのだろうか。
「あまり時間はない。遭難とか色々な危険性はあるけど先生にこのまま捕まるよりかはマシ」
俺達はそういうとガードレールを超えて山中に駆け込んだ。
「携帯の灯りはまだつけない方が良い」
山中に隠れて静に音をたてないよう息を潜める。するとしばらく待つと先生の車が山を下ってやがてエンジン音も聞こえなくなった。
「ふー、ひとまず一安心ね」
俺達はひとまずの危機を乗り越え息を吐いた。これでしばらくはまけるはずだ。
「でも先生もすぐ俺達が道路沿いを走っていないことに気が付くはずだ。立花さん電話は?」
「ダメ、電波が完全につながってないから連絡つながらない」
俺は病院に電話がないかと考えたが使えるはずがないし試す時間もない事から諦めた。
「じゃあ危ないし山の中で登山道がないか探そう」
「そうね。焦って怪我したら意味ないし慎重に行きましょう」
そういうと立花さんは立ち上がった。俺はその時ふとした疑問を問いかけた。
「ねえ、そういえば立花さんってどうやって俺を助けてくれたの?」




