16.知らない事
「ん……」
目を覚ますと見覚えのない天井だった。
「?、ここは何処だ?」
周囲を見渡すと病室のような場所だった。しかし所々、ボロボロになっており今は使われていないように見える。見たことのない場所になぜ自分がいるのだろうか。よく見ると、ベットに寝かされながら、自分の右腕に手錠がつながれており鉄柱にチェーンで繋がれている。
「な、なんだよ、これ」
「音がしたから見に来たが起きたか」
扉を開けて二条先生がこちらにやって来る。
「に、二条先生、これ今どうなってるんですか?」
「うん?覚えてないのか?」
そこで俺は何が起きたのかを考える。確か、放課後黒いフードを被ったやつに話しかけられてその後、交番に行こうとした所、二条先生に話しかけられて一緒に交番に行く話になって二条先生の車に乗ったところまでは記憶がある。
「先生の車に乗った後の記憶が……」
「ああ、その時お前に飲料水を渡しただろう、その中身に強力な睡眠薬を入れたんだよ」
「なっ」
あの時に先生の手で俺を眠らそうとしたという事か。つまり俺は先生に誘拐されたということだろうか。
「な、なんでそんな事を」
「ふふっ、君と話をしたかったからかな」
「話?そんなの学校で何時でも出来るじゃないですか」
「学校では出来ない話だよ」
二条先生は不適な笑みを浮かべながら俺を見下ろしている。
「……、で先生は俺とどんな話をしたいんですか」
俺が尋ねると近くにあった椅子を持ってきて座りながら俺に語り掛ける。
「君の事はある程度知っているつもりだが、そうだな……、君の好きな女性だけはまだ分からないんだ。教えてくれるかい?」
「は?ふ、ふざけてるんですか……?」
このような事をしでかす人をあまり刺激するべきではないと思うが、意味が分からず口が滑ってしまった。二条先生はフムと顎をかいている。
「いやいや、ふざけているわけではないよ。純粋に興味があるだけさ」
「……じゃあ何でそんな事に興味があるか聞きたいですね」
「ハハハ、それを女性に言わせるのか、君に好意を抱いているからだよ」
「……嘘だ」
「いやいや、心から思っている本心だよ」
そういう先生はニタニタと笑みを浮かべているが、目が笑っていないように見える。
「……最近、仲の良い友達は増えましたが、誰の事も恋愛対象として好きな人はいません」
「ふ~ん、どうやら嘘をついているように見えないしホントにそうなんだろう」
そういうと二条先生は立ち上がり、部屋の中をグルグル歩き始めた。
「でも可哀そうになあ」
「何がです?」
俺は疑問に思い二条先生に尋ねる。
「お前の事を好きな女性があんなにいるのにお前は誰の事も興味がないとは」
「きょ、興味がないわけじゃない……、ただ誰か一人を好きになっていないだけで」
「ふふっ、まあいいさ。で話は変わるが、お前は疑問に思った事はないか?」
「何がですか?」
「お前は確かに顔はいい、だがそれだけで大して話もしてこなかった連中がお前に好意を持っている事に」
「……」
正直、今まで何回も疑問に思ったことだ。コミュニケーション能力があるわけでも、頭が良いわけでもない。ましてや運動神経もあるとはいえない。そんな人間が女性から行為を持たれている。
「確かに、それは考えたことがあります。それには理由があるってことですか?」
「ふふっ、ヒントは与えてやったが答えまで教えてやる気はないな」
先生はそういうと扉に向かい、何処かに行こうとしている。
「ちょ、ちょっとまだ話は終わっていないですよ!!」
「ひとまず話はまた後でにしようか」
そういうと先生は扉を閉めて何処かへと行ってしまった。




