13.事件の事を考えよう
吹本さんは結局、あの後見つかる事はなく三波さんが吹本さんの家に連絡しても帰っていないとのことだった。その後、数日後吹本さんの家族から捜索届が出された。
当然の事ながら、朱里が殺された事件と関連しているのではないかと再び全国的な注目が集められる事となった。
「なるほど、そんなことがあったのね」
電話口の先で立花さんが息を吐く。吹本さんが失踪して数日後の夜、立花さんと電話で何があったかの報告をしていた。
「状況から考えて、映画の最中にトイレに行った時にいなくなったのはほぼ間違いないと思う。そこで何があったのか全く予想も出来ないけど」
俺は映画終わり間近に吹本さんがトイレに行くと言い立ち上がった後から見た者はいない事を伝えた。
「でも、実際に吹本さんはトイレに行った訳じゃなかったのよね?」
実は吹本さんが失踪した後、失踪前に最後に会った俺、三波さん、高橋さんは警察から状況を聞かれている。その際、映画館に設置されている防犯カメラがトイレへ行かず、真っ直ぐ外へ出ていく吹本さんの姿を映していたのだそうだ。
「うん……、だから警察も自分から姿を消した可能性も含めて考えているみたいなんだ」
もちろん、その他の重要な証拠などはこちらに伝えられているわけではないがそのような事は警察から伝えられている。
「勿論、私もその可能性が一番高いと思うけど、他の可能性も捨てない方が良いと思うわね」
「他の可能性?」
「外へ出たのは自分の意思でしょうけど、でもそれが指示されていたことだとしたら?」
「指示?」
意味が分からず、そのまま聞き返してしまった。
「あくまで例えなのだけれど、誰かからこの場所まで来いと指示されてそこで連れ去られた。または……とか」
「なるほど……」
立花さんの言うまたは……の意味も想像はつく。現実に朱里は殺されているのだから決して可能性が低いわけではない。
「でもそうなると高橋さんと三波さんは犯人の候補から消えるよね?」
「決してそうとも言えないと思うけど」
立花さんはきっぱりそう答えた。
「な、なんで?吹本さんがいなくなった時に俺達は三人で一緒に探したんだよ」
「それも一時間とかなんでしょ?その後、貴方達別れて捜したって言ってたじゃない。その時、またはその後に吹本さんと接触した可能性だってある」
立花さんの言う通りだ。吹本さんがいなくなった後、最初はみんなで探したのだがあまりに見つからないから、三波さんの提案で三人手分けして探すことになった。
「今までの状況を考えると三波さんかなり怪しいわね」
「み、三波さんが?何で」
「まず、手分けして探そうと提案しているのが三波さんというところ、三人を分断させて吹本さんと接触しやすくしたとか」
「まさか!?あんなに仲が良い二人がそんな事になるわけ……」
俺は耐えられず叫んでしまった。
「まあ、何で消えたかも何もかも分かってないんだからあくまで可能性の一つとして聞いてちょうだい」
立花さんに優しく諭されてしまった。俺は茫然と椅子に座っている所、急に俺の部屋の扉がバーンと開かれた。何事かと扉の方を見ると妹の遥香が立っていた。
「おにい!!うち壁薄いんだから夜の電話はほどほどにしてよ」
そこには仁王立ちをした阿修羅、もとい妹が立っている。
「ご、ごめん、兄ちゃんの電話もうすぐ終わるから」
「全く……、また女子とイチャイチャイチャイチャ……」
俺が謝ると妹はぶつぶつ言いながらばーんと激しく扉を閉めて自室に戻ったようだ。
「……、今の妹さん?ふふっ」
こちらのやり取りは立花さんにも聞こえていたらしく笑われてしまった。
「い、いやあ、恥ずかしい限りで」
「まあ、確かに今日は遅いし、このくらいにしてまた明日にしましょう」
時計を見ると夜の十一時前になっている。確かにもう寝る準備をする時間だ。
「じゃあ、また今度ね、おにい!!」
立花さんはそう言って電話を切ってしまった。また立花さんにからかわれるネタをつかまれてしまった。
「でも、また事件が起きた今、本腰入れて情報を探らないとな」
吹本さんが今どのような状態なのかは分からない。だが今回の失踪はおそらく朱里の事件と無関係ということはないはずだ。コミュ障の俺がどこまでやれるか分からないが犯人捜しをする必要を感じた。




