12.映画はエンドロールまで
「そんな焦んなくても良かったね」
ゲーセンから慌てて映画館まで来たが案外余裕があった。
「私ポップコーン食べた~い、遥斗も食べるでしょ?」
「う、うん」
俺の腕を高橋さんが引っ張っていき、売店の列まで連行されてしまう。列は前から数えて十人ほどでカウンターが三つあるのでそこまで待たずに注文できそうだ。
「遥斗何にするー?」
俺は売店の上に書いてあるメニューを眺めてうんと考える。
「え~、じゃあコーラとキャラメルポップコーンかな……」
「あっ、私もキャラメル好き~。じゃあ二人でカップルセット頼んで一緒に食べよーよ」
カップルセットとは何ぞやとメニューを見返すと、ポップコーン大きいLサイズとジュースが二本のセットのようだ。普通に買うよりお得なので承諾する。
「全然良いよ。安いし」
「あ~、カップルの点は気にならないんだ」
高橋さんは小さい声で何か囁いている。何て言ってるんだろう。
「私達もカップルで通じるかな(笑)」
「デュフ、どうでござるな」
三波さんと吹本さんも二人で楽しそうに話している。売店で各々ポップコーンと飲み物を買った後、券売機に向かって予約した席のチケットを発券した。
「四人席並んでるけど、何処座る?」
「私、遥斗と隣ね~」
「わ、私も隣が良い!!」
高橋さんと三波さんが俺の隣に座りたいと言ってきているので意見を汲まないといけないみたいだ。
「え~とそうなると俺が中央側になるね。吹本さんは?」
「拙者は端で良いで候」
ということで、左の通路側から吹本さん、三波さん、俺、高橋さんという順で座る事になった。で今回見るのは流行りの恋愛映画らしい。そういうのに疎いのでよくわからないが面白いといいな。
四人で座席に座り、スクリーンを見る。映画の前に、予告映像や映画泥〇の映像が流れている。映画〇棒の中の人ホントにすごいよなあ。
とうとう映画本編が始まった。ストーリーは主人公である女子高生が病に侵されて病室で過ごしている時に同じ病院で入院しているイケメンと意気投合して友達になる。触れ合っていくうちにそのイケメンの事を好きになっていく。
先に退院した主人公だったがイケメン君は逆に症状が悪化していってしまう。その後、イケメンと結ばれた主人公であったがイケメンは亡くなってしまうという泣き映画のようだ。物語も終盤という時にポップコーンを食べようとしたら高橋さんも食べようとしたのか手がぶつかってしまう。
「あっ、ごめん!!」
小声で高橋さんに謝る。
「う、うん、全然大丈夫」
暗くてあまり顔が見えないがいつものような明るい感じではなく、何処かしおらしい気がする。横の三波さんを見ると手にハンカチを持って目を拭いている。鼻もすすっているし結構泣いているみたいだ。
もうそろそろ映画が終わりそうというときに吹本さんが立ち上がり外へ出ていこうとしている。お手洗いだろうか。そしてしばらくすると映画が終わりエンドロールが流れ始めた。
「あ~、超泣いちゃった」
「う、うっ、いい話だったね~」
「いや、瞳泣きすぎでしょ……」
三波さんは未だに泣いているようだ。でも確かに普段恋愛映画など見ない俺でも感動した。涙を流す程ではなかったがうるっときた瞬間はあった。
「そういえば、野乃花、終わる前にトイレ行くって言った後戻ってこないね」
「もしかしたら外で待ってるかもしれないし取り合えず出ようか」
俺達はスクリーンを後にして外に出たが、辺りを見渡しても吹本さんの姿はない。
「あれ、吹本さんいないね」
「私、ちょっとお手洗い見てくるね」
三波さんはそういうとトイレの方へ走って行った。
「吹本さん大丈夫かな~」
「う~ん、まあすぐ戻ってくるでしょ」
高橋さんはどうでも良さそうに話した。正直、二人が話すところなど見たことがないし、高橋さんからしてみれば俺や三波さんを通しての友達の友達といったところだろうしあまり興味がないのかもしれない。
その後、映画館前で数分待っていると三波さんがこちらに駆け寄ってきて必死な表情で叫んだ。
「杉下君、高橋さん、野乃花が、野乃花がどこにもいないし連絡もつかないの!!」
こうして吹本さんは突如として俺達の目の前から消えた。




