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1.嵐の前触れ

 九月一日、高校に入学して早一年と数か月、二年生の秋となっても俺、杉下遥斗すぎした はるとには友達がいなかった。友達が欲しいなと物思いにふけながら席に座りながら窓を眺めていた。

 

「遥斗~、ぼけーっとしてどうしたの?」


 いや、正確には友達は一人だけいる。今、俺に話しかけてきている幼馴染の佐藤朱里さとう あかりだけだ。

 

 「いや、何で俺は友達が全然出来ないんだろうかって悩んでいる」


 「いいじゃない、私がいれば」


 「いや、そうは言うけど男の友達だって欲しいし」


 正直、小学、中学の時は男友達が出来た時はあった。しかしその期間は長くなくしばらくしたら俺の傍を離れていた。


 「やっぱ、俺が根暗なのがいけないのかな……」


 「そうね~、そんな根暗なあんたと友達でいられるのなんて私くらいなんだから感謝しなさい!!」


 根暗で全然友達がいない俺とは違い、朱里は明るく社交的でクラスの人達とも話している。そんな姿を見て素直に羨ましいと思う。


 「あ、あの杉下君……」


 ふとクラスメイトの女子が俺に話しかけてきた。手にプリントを持っているので俺の知らない課題でもあるのだろうか。


 「ど、どうしたの?」


 朱里以外とは全く話さないのでぎこちない返事になってしまう。


 「加藤さん、進路希望調査表?ありがとね」


 その姿を見かねたからなのか朱里が代わりに返事をしてプリントを受け取った。


 「あ、うん、先生がそれ出し直しだからよろしくって杉下君に伝えといてって……」


 「わざわざ持ってきてくれたの?ありがとう」


 俺に対しての話なのだが、全部朱里が対応してくれて正直、ほかの女子とどう接するべきか分からないので助かった。



 「杉下君って佐藤さんと付き合ってるの?」


  放課後、クラスでぼっーと座っていた俺に女の子が話しかけてきた。同じクラスの三波瞳みなみ ひとみさんだ。あまり話をしたことがないので正直驚いている。


 「え、い、いや、どうして?」


 「う~ん、いつも一緒にいるからそうなのかな~って気になったんだよね」


 確かに朱里とは昔から常に一緒に行動することが多い。傍目から見たら付き合っていると思われていても仕方がないのかもしれない。


 「いや、朱里はただの幼馴染だよ」


 「え、そうなの?じゃあ何でいつも一緒にいるの?」


 「う、う~ん、なんでと言われてもなぁ。昔から一緒だから成り行きって感じかな」


 「ふ~ん、じゃあ、佐藤さんの事好きなの?」


 「え、す、好きって何が?」


 「何って佐藤さんの事を恋愛的な意味で好きかってこと!!」


 そんな事考えたことも無かった。朱里は幼馴染であり、それ以上でもそれ以下でもないと考えていた。


 「いや、朱里は幼馴染であって、恋愛対象としては見てない…と思う」


 「そうなんだ……、良い事聞いちゃったな」


 「二人で何の話してるの?」


 気付いたら朱里が後ろに立っていた。


 「あ、朱里いつの間に……、い、いや、ただの世間話だよ」


 「じゃあ、杉下君、またね」


 「あ、ああ、また」


 三波さんは朱里が来た途端、すっと自分の席へ戻っていった。


 

 「結局、三波さんとは何の話をしてたの?」


 いつものように朱里と下校している最中にふと尋ねられた。


 「え、いや、あの時も言った通り、ただの世間話だよ」


 「三波さんと話しているところなんて見たことなかったもん。絶対世間話じゃないでしょ」


 本当の事を言わないほうが良い気がした。何故かは分からないが、本能的にそう感じた。


 「そ、そういえば何か部活でも始めようかな~」


 堪らなくなった俺は朱里に対して問いかけてみる。


 「もう話を逸らす~、でも部活なんて二年生から始める人いないでしょ、それにあんた運動も出来ないじゃない」


 「そ、そりゃ運動部は無理でも文科系なら俺でも大丈夫だろ、漫画好きだし漫画研究部とかなら」


 「いや、うちの高校の漫研、まじめに漫画描く部よ。あんた漫画かけないでしょ」


 そう言われるとぐうの音も出ないが、そう考えると一つの疑問が浮かんできた。


 「そういや、朱里も中学から一度も部活入ってないよな」


 朱里は俺とは違い、運動神経良いし運動部に入っても良さそうだが。


 「べ、別にいいでしょ、部活に時間取られたくないのよ」


 「いや、朱里がいいならいいけどさ」


 「それに遥斗だって私がいないと寂しいでしょ?」


 「え、いやそんな事ないけど!?」


 「も~、素直になりなさいよ~」


 朱里が僕の頬に指をつんつんと突いてくる。昔からスキンシップがあるが未だに慣れない。

 そんな話をしていると俺の家の前まで来ていた。


 「あ、じゃあ、また明日、いつも通り八時にここで」


 「お~、分かった。また明日な」


 明日の登校も一緒に行く約束をして別れた。それが最後に朱里と交わした会話であるとも知らずに。


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