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私はヒーローを好きにならない ─ 上 ─

作者: 清来なる

 この世界には、ヒーローなんているはずない。

私は、知っている。

助けてほしい時にヒーローは救いの手を差し伸べてはくれないし、所詮ただの人間だ。やられれば死が待っている。そして、気づくのだ。こうなるのならヒーローになんてやらなければ良かったと。そう、最終的に誰だって自分が可愛いんだから。それなら、始めからヒーローの存在自体をこの手で私が倒してあげる。そうすれば、無能で無価値なヒーローなど居なくなる。そして、本当の世界平和を手に入れることができる。

 こうして私、ナジョルはある出来事によってヒーローをこの世から抹消させる為、悪の女王へと君臨した。


ナジョルの家は、街外れにある小さなお城で家族三人で仲睦まじく暮らしていた。

母のルジェリーと父のラートリーの間に産まれた子が、娘のナジョル。

 ナジョルは、いつものように家の近くを散歩をしていた。

散歩するところは大体決まっていて、辺り一面に白い薔薇が沢山咲いている場所があり、そこに行くのが当たり前になっていた。

その日もそこへ行き、白い薔薇を眺めていた。

辺りをゆっくりと見渡していると、真ん中辺りに“ある違和感”に気づいた。それは、一輪だけ赤い薔薇が咲いていたのだ。

ナジョルは一瞬考えた。何故ならいつも散歩でここに来ているが、赤い薔薇なんて一度も見たことがなかったからだ。

考えても分からず、とりあえず赤い薔薇が咲いている場所へ向かった。

その場所に近づくにつれ、ナジョルは眉間にしわを寄せながら不思議そうに一輪の赤い薔薇を見ていた。それは、赤い薔薇の花びらに所々白い斑点があり、そんな薔薇があるなんて今まで見たことも聞いたこともない。

 そしてようやく赤い薔薇の場所に着き、ナジョルは衝撃を受け深く動揺していた。

そこには、父ラートリーが倒れていて、胸には赤い薔薇の茎が刺さっていた。大きな衝撃に手は震え、頭の中は真っ白になり、全身の力が抜け思わず腰を落とした。

父ラートリーの胸に刺さっている茎とその白い薔薇を見ていて、赤い薔薇の花びらに何故白い斑点があったのか、その意味が分かった。それは、元々白い薔薇に父ラートリーの血が茎をつたって赤くなっていたから、一輪だけ赤い薔薇が咲いていたように見えたからだ。

少しずつ落ち着きを取り戻し、現状を整理し立ち上がった。

すると、誰かがこちらに向かってくる足音がした。

ナジョルは、隠れようとしたが隠れる場所がなく戸惑いながらもその場に居た。そうしている間に、足音の主が来た。ナジョルはその人を見てハッとした。息が止まりそうな程、呼吸が出来なかった。

その主は、街の平和を守るヒーローだった。

ナジョルはヒーローが好きで、家族と一緒にテレビでその活躍を見ていた。勿論、そのヒーローの名もしていたし、一番好きだったから分かる。そのヒーローの名は、アントム。

どうしてここにアントムが居るのか、頭が混乱した。

そして、アントムは混乱しているナジョルを見てボソッと呟いた。

 「お嬢様に見られてしまったか。仕方ない。」

その言葉を聞き、ラートリーを殺したのはアントムだと分かった。

ナジョルは震える声でアントムに話しかけた。

 「ねぇアントム、父を殺したのは貴方なの?」

アントムは、その問いかけに冷めたい目線をナジョルに送り、次第に笑って自慢気に答えた。

 「そうだよ。僕が殺した。お嬢様は知りたいのかな。何故ヒーローの僕が、ラートリーを殺したのか。答えは簡単だよ。前に他の人を殺した時にも、今のお嬢様のように見られてしまってねぇ、ラートリーに今すぐヒーローの名を捨てて、自首しろって言われたんだ。その時は、分かったと反省したフリをしたんだ。それで終わったかと思ったら、終わらなかったんだ。街でヒーロー活動している時に、ラートリーを見つけてね、何やら警察官と話していたから、小型盗聴器をラートリーの後ろを通った時にそっとつけたんだ。それで聞いてみたら、僕のことを話していた。話が終わったことを確認し、ラートリーが居なくなって、その警察官に話しかけたら、冗談だと受け取ったらしい。その後、ラートリーの内部情報を調べ上げ、今に至るって訳。分かったかな?」

ナジョルは、唖然とした。

アントムはそんな人じゃない。

 私が知っているアントムは、とても優しく、火災があった時だって、誰よりも多くの市民を救助していた。そんな強く、優しいアントムが好きだった。憧れだった。なのに、なんでこんなことになったのか分からないのと、そもそもアントムは前にも人を殺したと言っていたってことは、裏社会の人間であることも分かり、ナジョルの頭は情報がたくさんありすぎて、処理が追いつかなかったが、一つだけ理解出来たことはあった。それは、ナジョルはアントムによって殺されることだった。私だけがアントムが犯人ってことを知っているし、実際父を殺した理由もそうだ。体から急に寒気がした。ナジョルは殺されるのを覚悟していたが、ラートリーの殺害や好きだったヒーローは実は裏社会の人間であること、次々と衝撃が重なりナジョルの顔は青ざめていた。そんな様子を見たアントムは、ナジョルにある提案を持ち出す。

 「ねぇお嬢様、僕から提案があるんだが、いいかな?」

 ナジョルはアントムに目を合わせようとせず、下を向いたまま震えていた。

 「提案というのはね、僕の仲間に入ってくれるかな?もし入らないのなら、僕はお嬢様を殺さなくちゃいけない。

  でも、僕の仲間に入るというのなら悪の女王様として、組織を大きくしてほしい。どうかな?」

 ナジョルはアントムが何を言っているの分からなかった。しばらくして、アントムの提案に答えた。

 「分かったわ。私は貴方の仲間に入るわ。」

ナジョルの心はもう壊れていた。おそらく、ナジョルが断ったらその場でアントムの手によって殺され、次に母ルジェリーが狙われる。そんなことはさせないと母と自分を守るためにナジョルは悪の女王へと君臨することを決意した。

ナジョルはアントムにお願いをした。

 「最後に、父を埋葬させてほしいわ。だから、アントムはここから離れて。最後くらい父と二人にさせて 

  ほしいわ。」

 アントムは、待ちわあせ場所を伝えその場から立ち去った。

そして、ラートリーを埋葬しようと身体を動かそうとした瞬間とき、左ポケットからエメラルドグリーンのネックレスが見えたのだ。

ナジョルは、そのネックレスに見覚えがあったのだ。

何故なら、それはナジョルのものだからだ。

ナジョルは涙ぐんだ。

埋葬するのは止めその場にラートリーを寝かせたままにし、その辺にあったお花を束にして置いた。

そして、ナジョルはその場を後にした。

アントムが待っている待ち合わせ場所へ向った。

待ち合せ場所に着くと、アントムと馬車がナジョルを待っていた。

そして、アントムがナジョルに一言。

 「ようこそ。悪の女王様。では、行きましょう。」

そう伝え終わると、ナジョルは無言で馬車に乗り、続いてアントムも乗った。

そして、仲間が待つ場所へ向かった。


 しばらくして、仲間が待つアジトに到着した。

そこで待っていたのが、幹部や部下そして中にはアントムのようにヒーロー達が数名居た。

ナジョルとアントムが馬車から降りると、一斉に腰を低くしお辞儀した。

おそらくこの組織のトップがアントムだということは、一目で分かった。

そして、アントムがナジョルに紹介し始めた。

 「ようこそ。ここが我らヴァード連合のアジトです。」

伝え終わると、皆が私を一点に集中するかのように見てきた。

ナジョルは、辺り一面見て人の多さと怖そうな人たちばかりで少し怯えていたが、それは最初だけで次第に冷たい視線を向けた。そして、ナジョルはもう後戻りは出来ないこと、ヒーローが目の前に居ても誰も助けてくれないこと、そう考えると希望を持つことさえ無意味だと改めて理解した。

ナジョルは、ヴァード連合に挨拶した。

 「初めまして、私の名はナジョル。今日からヴァード連合の女王はこの私。皆でヒーローを抹消させましょう。」

挨拶を終えると、ヴァード連合は歓喜が高まっていた。

 ナジョルも、希望を捨てた今もう何も望まない。ただ、このクソみたいなヒーロー達が街に居ることが何よりも許せなかった。だから、一層の事ヒーロー自体を消えてしまえば早い話だと考えた。ナジョルは、この機をきっかけに人格が変わり、悪の女王に相応しい言動や行動をし始めた。

 アントムから、今までの対策方法や敵の倒し方などを一から頭に叩き込まれた。

ナジョルは理解を深め、次に狙う場所とその攻撃方法を勘が始めていた。

アントムから教えてもらったところは、大体が街中だった。

そして、アントムの願望としてはもっと被害を広めたいと話していた。

ナジョルはその願望に対して、笑みをこぼしながら答えた。

 「では、国そのものはどうかしら?今まで街を中心に攻撃してきたけれど、そんなちっぽけな戦いってつまらない。 私退屈しちゃうわ。だったら一層も事、国自体を焼き払えばいい。そっちの方が楽しそうじゃない?」

アントムは、ナジョルの提案に目を輝かせた。

 「流石です。僕がナジョル女王を選んで良かった。とても、楽しそうです。では、いつ決行しますか?」

ナジョルはもう決めていた。

 「そうね。では、一週間後の朝九時半に決行しましょう。」

 アントムは首を縦に振りった後、腰を下ろしナジョルに跪いた。

 「承知しました。」

 ナジョルは、アントムの行動を見て冷たい視線を送った。

そして、ナジョルは決行日に向けて次の準備をし始めた。

 「今から良いことを準備しなさい。国中の連合と手を組み組織を拡大しましょう。人数が多ければ多いほど良い。

  徹底的に潰しましょう。」

 アントムは他の連合と手を組むとは思わず、驚きを隠せなかったが、その反面に興奮が止まらなかった。

 「承知しました。直ちに準備してきます。」

ナジョルはアントムに一言伝え終えると、その場を後にした。

 「期限は、明日までよ。それまでに準備しなさい。」


 翌日、アントムは他の連合軍を探し始めた。

アントムとっては簡単な任務だった。

ヒーローは警察官と同等の扱いであり、情報は頭に入っていた。

 そして、国中で名の知れたある連合軍に交渉しに行った。

それはランリーが率いるザヴァ連合は、唯一超能力のレベルが高いと言われている。

 この国には何故か超能力が存在し、超能力のレベルもS~Cランクに分かれている。Sランクが一番強いが、中々居ない。ヒーローの中でさえ、五人に一人存在するかの確率にすぎない。平均的にはAランクが多いと言われているが、ザヴァ連合は何故か九割が、Sランクの割合があると警察の調べで分かっている。ヒーローでもそこまではいない。警察も何故そうなっているのか原因はまだ突き止められていない状態だ。警察の勘では、ザヴァ連合は陰で他の連合とのやりとりがあるのかも知れないと考えていた。考えれば考えいる程、謎が深まるばかり。

 アントムは、ザヴァ連合に協力してくれないか交渉するもそう簡単にはいかない。

リーダー格のランリーにどうしたら、協力してくれるのかを聞いてみた。

 「俺達がお前達に協力する?何を馬鹿なこと言ってんだよ。夢でも見てるのか?」

 「当然おかしな話だと僕も思うよ。ただ、どうしてもザヴァ連合の力が必要なんだ。」

 「もし協力して、俺達に何がメリットになるか教えてよ。」

 「メリットは国の全てだ。」

 「国?」

 「あぁ、国だ。僕達は女王の提案でこの国からヒーローを消滅させるのが目的だ。

  一気に片付けた方が手っ取り早い。」

それを聞いたランリーはニヤリと不気味な笑い方をし始めた。

 「あぁ、なるほどな。じゃあ、ヒーローの根本を燃やすということかな。とても面白い。

  この国にはあまりにヒーローが多すぎるし、何より弱い。超絶クソなクズがただヒーローごっこ楽しんで

  市民に強いと思い込ませてやがる。お前の女王はまるで悪の女王だな。徹底期的に潰さないと気が済まない人。」

 「そうだな、僕達のナジョル女王はとても面白く冷徹な女王様だよ。」

 「分かった。面白そうだから、乗ってあげるよ。」

 アントムはまさか連合を組めるとは思わず、交渉を結べたことに気持ちが高まった。

 「じゃあ、交渉成立だな。改めて初めまして、僕はアントム」アントムはランリーに自己紹介をした。

 「アントムね。俺はランリーだ。宜しく。」

お互い、手を交わし合った。

 アントムは、自分のアジトへと向かった。

真っ先にナジョルに報告した。

 「ナジョル女王。今戻りました。この国で一番名の知れたザヴァ連合軍と手を結びました。」

それは聞いたナジョルは、顔色一つ変えずに当たり前のように答えた。

 「そうか。まぁ、交渉は簡単だったろう。」

アントムは首を縦に振った。

その後、ナジョルはアントムに対し三日後このアジトに呼び、ザヴァ連合と結んだ祝福パーティーをしようと伝え、アントムは嬉しそうに相槌をした。

 ザヴァ連合は、ナジョル女王が率いる連合のアジトに着き、アントムが誘導をかけた。

ランリーは他の皆と別の場所に連れてかれ、着いた先は薄暗いところだった。

そこには人影が一人居ることが分かり、近づいてみるとナジョル女王が立っていた。

ランリーはナジョル女王の横に立ち、話しかけた。

 「初めまして。君がナジョル女王ですね。私はランリーと言います。」

 「そうです。私がナジョル女王です。ランリーね。今日は来てくれてありがとう。」

二人は挨拶を交わした。

 「ここはどこですか?」

 「ここは、ステージ裏よ。」

ランリーは、その言葉で自分が何処に居るのかやっと理解できた。

ナジョル女王は、ランリーに行く合図を伝えると二人は、ステージ上まで向かった。

 「さぁ、行きましょう。」

 会場のステージで話すアントムが、場を盛り上げていた。

そして、アントムが静かに呟くとそれと同時に会場もステージに視線がいくよう辺りを暗くした。

 「さぁ、みなさんお待たせしました。ザヴァ連合とナジョル女王です。」

そういうと、皆がステージに一点集中し見ていた。

先にナジョル女王が現れ、その後にランりーが現れた。その瞬間、盛大な拍手がなった。そして、二人は指定された椅子の座った。

アントムが皆に改めて紹介した。

 「改めまして、僕達のリーダーのナジョル女王です。そしてザヴァ連合のリーダー、ランリーです。同盟 を結べた こととても嬉しく思います。ありがとうございま・・・」

アントムが話している途中に横から口を挟んできたナジョル。そして、凛と立ち堂々と話し始めた。

「同盟を結んだ今、やれることが増えました。何よりも国を消滅させる確率が高くなりました。そこで同盟名を発表し ます。」

そう言うと会場が一気に静まり、皆が息を飲み込んだ。

 「ディサピアー同盟軍よ。」

二秒後に、会場内は歓声と盛大な拍手で響き渡っていた。

ナジョルは、持っていた扇子をとり仰ぎながながら皆を見下ろした。

アントムは予想外の出来事に思わず、驚いていた。

 祝福パーティーは終わり、ナジョルは少し疲れた様子を見せていた。

ナジョルは、アントムに部屋へ戻ることを告げその場を後にした。

 「承知しました。ごゆっくりなさってください。」

 翌日、カーテンの隙間から日差しが差し込み、ナジョルは目を覚ました。

最近の疲労が溜まっていたのか、身体が重たく起き上がるのがやっとだった。

けれど、休んでいる暇は無かった。決行まで四日を切っているからだ。

それに、警察官や他のヒーロー達にも邪魔されたくないと念入りに作戦を練らねばいけない。

そうナジョルは言い、皆が居る部屋へと向かった。

 「ごきげんよう、皆さん。昨夜はゆっくり寝れたかしら?」

皆は、ナジョルに視線を送り笑って首を縦に振った。

それを見たナジョルは、笑って答えた。

その後、決行までにやる事や対策を考えていたナジョルはそれを話し始めた。

 「あと四日後に迫った今、やるべき事を話すわ。チームに分かれそこで街の監視と動きを徹底的に調 べ上げ、流れを把握しておくこと。そうすれば、こちらも動きやすいし、邪魔が入らず戦いに専念で きるわ。絶対にヒーローはやってくる。しかも、大人数でね。事件や災害があればヒーローは必ず飛 びついて来るわ。そこを逆手にとり、一気に攻めるのよ。ヒーローさえ倒してしまえば、あとはこっ ちのものよ。だって、ヒーローの力じゃ、私たちに勝つことは出来ない。警察官なんて役に立たない わ。ヒーローをお引き寄せ ましょう。その時点で私たちの勝利よ。」

それを聞いた皆は、興奮していた。

 その後、四、五人のチームに分かれ指定された街の監視を始めた。

 アントムや他のヒーローは情報を集める為、いつも通りヒーロー活動をしながら動いてもらうことにした。本当は、チームに分かれ街を監視するのもアントム達にやってもらおうと考えていた。警察官とほぼ同等の立場で調べてもおかしくはない。ただ、そこに時間をかけるよりも、実際自分達の目で見た方が確実。仮にアントム達にそれを任せて情報収集を行ったとしても、活動時間が決まっているだろうし、長くは警察署には入れないはずだ。しかも活動する場所の担当が決まっているらしく、そこを担当外のアントム達が探っていたら、恐らく警察官は何か違和感を持つだろう。

考えすぎかもしれないが、先手を打つのであればそれが良い気がする。

例え、他のヒーローや警察官に聞いても、それが本当の事かどうかは分からない。

やるのなら徹底的にやらないと、この作戦は潰れる。

成功させる為に今は、情報が勝利の近道になるとナジョルは考えていた。

 そしてその行動と同時に夜、街に攻撃をしながらヒーローはどのくらいの時間をかけてやってくるのかを見ていた。

 そんな中、ナジョルはもう一つ秘密兵器を考えていた。

それは、ノウムを作る事だ。

 以前、本を読んだ時に敵の数を強化すべく人工的に作られた化物が居たと、書かれていた。

その方法を実際やってみようと考えていた。

 ナジョルは、ある人物に相談した。

それは、同盟軍のランリーだった。

 以前、同盟軍を結成したときナジョルに聞かれ話していたことがあった。

 「何故、ランリーの仲間はSランクが九割存在するの?」

ランリーは、自慢げに笑いながら答えた。

 「それは、俺が中心になって作ったからだよ。傑作だろ。」

ナジョルは、その言葉に目を泳がせた。そんなことが出来るのかと頭が一瞬真っ白になった。でも、実際に存在はする。

 その時のことをナジョルは思い出し、ランリーに相談したのだ。

 「ねぇ、ランリーにお願いがあって、秘密兵器を作りたいの。」

ランリーは、首を傾げながら右手を顎につけ考える様子が見えた。

 「秘密兵器・・・?」

 「えぇ。そうよ。国を滅ぼす為にはこの人数は足りないわ。だから、ノウムを百体作ってほしいの。   貴方なら出来るわよね?」

ランリーは、ようやくナジョルが何をしようとしているのかその背景が見え、首を縦に振った。

 「分かった。ただ、決行前にテストをしたい。本当に起動するのかと攻撃力を実践でみたいから、テスト 用で六体作り、決行までにその実践を行う。それでいいか?」

ナジョルは、納得した顔で頷いた。

これで、確実にこの国もヒーローも滅ぼすことができるとナジョルの気持ちが高まり、心臓の鼓動が早くなっていることを感じた。

ランリーは時間が無いことから、Sランクを共に生み出した仲間に急いで声をかけ交渉した。

そして、その時使った場所へ向い徹夜でテスト用のノウムを作ることにした。


 決行日まであと三日─ 


 翌朝、ノウム六体を完成させた。

 その事をナジョルに伝えると、少し驚いた顔を見せた。

 「この短時間で、よくやったわね。」

 「仲間のお陰だ。それに生き物の血が必要だからね。」

 「人間の血・・・?」

 「あぁ、人間の血と動物の血を混合させて作ったんだ。肉体は、死んだ遺体を使用してそれを改良し、動かせるよう に手を加えた。」

ランリーはナジョルに内容を話し終えると、今夜テスト用のノウム六体を実際街で使い、どれくらいの攻撃力があるか試すことを伝えた。

 「結果が楽しみね。」

ナジョルは、嬉しそうに呟いた。

 「成功するさ。Sランクも成功してるからね。」

 「そうね。」

 「じゃあ、俺また戻るわ。また、夜にここで会おう。」

そう言うと、待ち合わせ場所が書かれた紙をナジョルに渡し、その場を後にした。

 その夜、ナジョルは指定された待ち合わせ場所に着いた。

そこは、街を見渡せる高い場所だった。

ランリーは後からやって来て、ナジョルに軽く挨拶をした。

 「お待たせしました、ナジョル女王様。じゃあ、やりましょうか。」

そう言うと、ランリーは右手の中指と親指で擦り合わせ音を一回鳴らした。その瞬間、急にノウムが現れた。全長三メートル程の高さで、肉体もガッチリしていた。

そして、ランリーは続けて五回指の音を鳴らし始めると五体のノウムが出現した。

 「みんな好き勝手にやっていいぞ、思いっきり楽しめ。」

その瞬間、ノウム達はランリーの言葉に反応しそれを理解したのか街に向かって飛び始めた。

ナジョルは驚きと同時に、ある疑問が頭によぎった。

 「ねぇ、ランリー。なぜ貴方の指の音でノウムが出現したの?それにランリーの言葉を理解したようにさっき街へ飛 んで行ったわ。」

ランリーは、口角をあげ嬉しそうに語った。

 「答えは簡単さ。ノウムの脳にチップが埋め込まれていて、俺の言葉にしか反応しないようプログラムされてい る。」

 「そういうことね。でも、それだけで急にノウムを出現させることも出来るの?」

 「あぁ、出来るさ。俺は二つの超能力を持っている。一つは、テレポートで物体を瞬間移動させる能力。そしてもう一つが、他の超能力者達の超能力を複数コピーができることだよ。」

二人が話している間に、ノウムの攻撃は加速し、口から火を出したり、暴れまわったりと街は一瞬で赤く染まっていた。

その後、町の住民はパニックを起こしながらもその場から逃げよう必死だった。

テスト始めて五分経った頃に、ヒーローや消防署、警察官がやってきた。

ヒーローはノウムと戦いながら、街に広がった火を手分けして消化させていた。

 ノウムの能力や肉体など、ヒーローと戦える状態にあると確信しランリーは、両手を大きく広げながら嬉しそうに話した。

 「テストは、成功だ。」

ナジョルはその光景に体が痺れた。

 戦いの末、ノウムはヒーローの手によって四体倒されたが、残りの二体は回収することができた。

二人は、その場を後にした。

ランリーはノウムを作りにザヴァ連合のアジトへ向い、ナジョルと別れた。

 「ランリー、当日も楽しみしているわ。今以上の傑作をね・・・。」

ナジョルの言葉にランリーは、帰りながら左手を挙げ横に振った。

 その頃、警察署では今回の街で起こった被害について追求を急いでいた。

何故なら、ノウムのようにあんな化け物が出たのが初めてだったからだ。

その場に駆けつけた警察官やヒーローに、情報を取り近辺に怪しい人は居なかったか、倒したノウムの身体を隅々まで調べ上げ、とにかく情報を得ようと奮闘していた。

そんな中、一人のヒーローが有力な情報を持っていた。そのヒーローの名は、ラドという青年だ。

 ラドは、ヒーローの中でも上位に上がる程の腕前があり、しかも超能力のレベルはSランクと皆から羨ましく思われる存在でもあった。

ラドが持つ超能力は、相手の行動を先読みできる能力でがあること。そして元々彼は身体能力が高く、それを活かし腰に剣を一本と、両足の太ももに小型爆弾を付け、戦闘していた。

 そんなラドが、あるものを見たと話したのだ。

 「僕は現場に駆けつける際、ある建物の屋上から二人の影を見ました。しかも、その二人が居たところは、 今回被害にあった街から近いのにも関わらず、その場から立ち去ろうとしない様子でした。」

皆は、ラドの言葉に向き合っていた。あの現場で、その行動はおかしいと納得いった。

 「他に、何か気になることはあったか?」

警察官は他の情報を求めたが、ラドの表情は曇っていた。

 「他の情報がなくて、すみません。ですが、警察の調べでは今回ノウムが初めてだと仰っていましたね。 となると、これからも有り得るかもしれない。もしそうだとしたら、早めに手を付けておかなければいけ ない。」

その言葉で一気に空気が重くなった。

一人の警察官が、皆の前に立ち視線を集めるかのように声を出した。

 「これを機に、ノウム被害事件としてチームを組むことにした。

  そして、今回僕がチームのリーダーになるアラン警部補だ。宜しく。」

 アラン警部補も言葉で、重い空気が少し軽くなった。

 アラン警部補は、どんな難事件も解決していて、ヒーロー達からも信頼されている存在だ。

 そして、ノウム被害事件のチームにラドが選ばれていた。

理由は、有力な情報を持っている事とそしてヒーローとして即戦力になる事だからだ。

ラドは、笑みをこぼしていた。

 その翌日、科学捜査研究所からノウムの件で情報が入ったと報告が上がった。

 「調べによると、ノウムは人間の血と動物の血が混ざって作られたことが分かった。そして、ノウムの脳には人の手によってプログラムされたチップが入っていたことが分かりました。これによって分かることは、これを作れる人物が居る事とそして、動物にも被害があるという事です。何よりも怖いことが、ノウムの身体は、死体から作られていることが研究の結果分かりました。」

それを聞いたチームは、あまりの衝撃に言葉を失った。

アラン警部補は顔を曇らせながら、呟いた。

 「そんなことが、本当に有り得るのか。でも、今回の調べで結果は出ている。だとしたら、今できることをやるし かない。」

アラン警部補は、チームに街で情報を集めて来るよう指示を出した。

 そんな行動をしていると知らないディサピアー同盟軍は、時間の許す限り作戦とノウムの配置場所を考えていた。

 アントムはヒーローだが、アラン警部補と馬が合わないことでチームから外れていた。

 警察官やヒーロー達が、手分けして被害にあった街で情報を集めていると、ある少女がラドに話かけてきた。

 「ねぇねぇ、ヒーロー。私昨日の夜ね、被害があった街から近い、ある建物の屋上に居たんだ。そこに女 の人と男の人が居て話しているの聞いちゃったの。」

ラドは、少女の言葉に唾を飲んだ。

 「なんて言ってたの?」

 「なんかね、テストは成功とか、当日も楽しみしているとか言ってたよ。」

ラドの考えが当たってしまった。どこかで憶測であって欲しいと思っていた。

少女のお陰で、有力な情報を手に入れることが出来、そのお礼を伝えた。

 「教えてくれてありがとう。でも、なんでその時間に屋上なんかに居たの?」

少女は、恥ずかしそうに身体を横に揺らした。

 「うーんとね、恥ずかしいんだけど、夕方頃まで友達と遊んでいてその後、あまりに夕陽が綺麗だったから、 使われていないその建物の屋上に上がって夕陽を眺めて居たんだよね。そしたら気づいた寝ちゃったん だよね。ごめんなさい。」

ラドは、謝る少女に優しく頭を撫で、静かに頷き笑顔で感謝の気持ちを伝えると、少女は嬉しそうに微笑み、その後別れた。

直ぐ様、その情報をアラン警部補に伝えると少しずつ点と点が線になってきていることに喜んでいた。

 「そこの建物に科捜研を呼んだから、もう少しで着くだろう。何か証拠が出てくるかもしれないからな。」

ラドは、アラン警部補の次の指示に動いていた。

 科捜研が敵が居た建物の屋上に着き、足跡鑑定や何か証拠が落ちていないが体制を低くし、探し始めた。そして、毛髪が二本とお洋服の繊維が落ちていて、足跡も残っていた。

鑑定結果から、足跡は男性と女性であり毛髪結果からナジョルとザヴァ連合のリーダー、ランリーだと分かった。 

アラン警部補は、その情報をチームに共有し、現在その二人が居る場所を調べた。

チームの協力があり、情報は早く手に入れることが出来た。

 「あともう少しだ。必ず見つけ、食い止めるぞ。」

アラン警部補の一言で、チームに活気がついた。

 












 






 






 

 






 







 






 


 


 

 




 
















































































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