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アンジェラ

 アンジェラは、自分が美しいことを知っていた。自慢ではなく、ただの事実だ。


 誰もがそう言うし、どんなパーティでも、アンジェラが微笑むだけで空気が揺れる。アンジェラはそれがたまらなく不思議だった。

 たしかにアンジェラは、神によって作られたと称えられるほど美しい顔に生まれた。目は大きく鼻筋がすっと通っていて、左右対称だ。ちいさな口はぷるぷるに色づいている。


 美しい。でもそれだけ。

 中身は空っぽで、たいしたものは詰まっていない。両親は高位貴族に嫁がせたがっていたが、それなら、それに見合った教育を受けなければならない。人形のように美しく微笑んで、わかりませんで許される場所ではないのだ。

 両親は下位貴族で、それらを知らない。知ろうともしない。アンジェラが美しい、それだけで望むものを手に入れられると思っているのだ。


 アンジェラは、自分をくだらない人間だと認識していた。自分の外見だけで好意を持つ人間も、両親も、どうして中身を見ようとしないのだろう。


「姉さま……」


 アンジェラは、この世で一番愛しい人の名をくちびるに乗せた。それだけで息がしやすくなる。

 アンジェラにとってサラは、世界で一番美しかった。愛くるしい顔に、やわらかに波打つ髪。アンジェラより頭ひとつぶん小さな体は、細くて柔らかくて、いつもアンジェラを優しく抱きとめてくれる。

 いつの間にか変わり果ててよくわからない要求をしてくる両親が怖くて、泣きじゃくるしか出来なかったアンジェラを、サラはいつも励ましてくれた。アンジェラよりつらいのに、いつも笑顔で支えてくれる。


 そんなサラにお返しをしたくて、たまに夜中にこっそりとサラの部屋を訪ねた。

 サラはアンジェラより質の低い食事をしていたようで、お菓子を持っていくと喜んでくれた。お腹がすいていたの、と笑う姉の、なんて愛らしいこと。

 こっそりベッドの上で布団をかぶり、ふたりだけの秘密基地にくるまる。わずかに開けた布団の隙間からもれる月明りを頼りに、ハンカチにくるんだクッキーを広げた。


「これがジンジャー、これが姉さまの好きなナッツ入り。こっちはチョコレートで、すごく甘いの。ちょっと崩れちゃったけど……」

「ありがとうアンジェラ。みつかって怒られなかった?」

「こっそり隠したから大丈夫。ごめんなさい姉さま、お茶は持ってこれなかったの」

「アンジェラが来てくれるだけでいいの」


 サラは微笑んでアンジェラを抱きしめたあと、クッキーをかじった。


「おいしい! アンジェラも食べて」

「私はもうたくさん食べたの。姉さまが食べて」


 本当は、甘いものはあまり食べられない。誰かにお菓子をプレゼントされると、感想を言うために一口ずつ食べるよう言われる。嫌いなものも、好きなものも、全部一口ずつ。

 甘いものは体によくないそうだ。母はたくさん食べているのに、どうして私たちだけ禁止されているのだろう。


「じゃあ、半分こしましょう。せっかくだから、アンジェラと同じことをして過ごしたいわ。ね、アンジェラ。あーん」


 サラのあーんに抗えるわけがない。

 アンジェラは小鳥のような口を開け、小さくかじった。サラがくすくすと笑う。


「あら、アンジェラの口はいつからこんなに小さくなったのかしら?」

「姉さまの気のせいよ」

「じゃあ、たくさんお口に運ばないとね」

「私も姉さまに食べさせてあげる」


 ふたりでクッキーを食べさせあい、食べかすを捨てて証拠隠滅をはかる。大事にされていると見せかけて自分の意見を無視され、望まれたとおりに振舞わなければならないアンジェラにとって、サラだけが自分を受け入れてくれていた。




 アンジェラは、サラに愛情と罪悪感を持っている。

 サラだけ食事が別になっていくことが多く、一緒に食べたいと言うと、サラはディナーに来てくれた。嬉しくてたくさん話しかけた日の夜、サラが使用人に心ない言葉を吐かれ、両親も同じように思っていることを知った。


「ずうずうしく食事に行くなんて、なにを考えていらっしゃるの? アンジェラ様の一日の成果を聞く場なのに、それを取り上げて。アンジェラ様のお世辞を真に受けてのこのこやってくるなんて……ご両親も呆れてらっしゃいましたよ」


 サラは黙ってくちびるを噛みしめ、俯いていた。

 アンジェラは今すぐ飛び出して、違うと叫びたかった。サラに来てほしかったと、毎日の食事もサラさえいてくれればいいと言いたかった。けれどそれをするのはアンジェラの自己満足で、しわ寄せはサラにいくのだ。

 アンジェラは泣かないように手を強く握りしめた。伸びた爪が皮膚に突き刺さる。いま、アンジェラに泣く資格はなかった。



 その数日後、アンジェラがサラに似合うとプレゼントしたドレスでサラが酷く責められたとき、アンジェラはサラをこの家から逃がす決意をした。

 ここにサラがいてはいけない。自分がいれば、それだけでサラが不幸になる。


 しかし貴族令嬢は、自分の私財を持っていない。結婚前は家に養ってもらい、結婚すると夫に養われる。結婚のとき持たされる持参金が唯一自由になるお金だ。

 だが、自分の結婚まで待っていられない。それに、そのお金をサラに渡すことは難しい。


 アンジェラは、サラが唯一信頼するメイドに声をかけることにした。

 不機嫌を装い、サラを冷遇する使用人に当たり散らす。怯える使用人を睥睨し、ゆっくりと口の端をあげる。


「そうね、姉さまのメイドなら好きにしていいわよね。アニタを呼んできなさい。おまえたちは下がって、この部屋に近づかないで。さっさと行きなさい」


 しばらくしてアニタが入室し、アンジェラは水差しを思いきり床に投げつけた。自分の胸をじろじろと見て、隙さえあれば触ろうとしてくる、気色悪い男からもらった水差しなど、使いたくなかった。両親がこの水差しを気に入って使うように指示した気持ちが、まったく理解できない。

 ドアに耳をつけて人の気配がないことを確認し、アンジェラはアニタを手招きした。


「一回しか言わないからよく聞いて」


 アニタは滅多に笑わない。自分の感情に嘘をつけない人間だった。メイドに向いていないが、その実直なところが、サラがアニタを信頼する要素のひとつだ。


「これから、用事があるときは癇癪をおこしてあなたを呼びつけるわ。私に痛めつけられたフリをするのよ。近いうちに、理由をつけて姉さまを外に出すわ。姉さまに、銀行に口座を作るよう伝えて。次にあなたを呼ぶとき、宝石を渡す。それを現金に変えて、姉さま名義の銀行に預けるの。いいわね?」

「……アンジェラ様が悪女とささやかれます。サラ様は心を痛めるでしょう」

「姉さま以上に大事なものなんてあるの?」

「……かしこまりました」


 翌日、3人しかいない朝食の席で、アンジェラはさも今思い出したように話し出した。


「このあいだのお茶会で、公爵家のご令嬢が、わたくしのネックレスについていた宝石がお気に召したらしいの。差し上げる約束をしたわ」


 アンジェラが令嬢の名を出すと、父は満足そうに頷いた。


「たしか公爵家を継ぐ兄がいたな。よくやった」

「お茶会にいたほかの方にも差し上げるとお約束しました。何年もつけていないものは差し上げていいでしょう?」

「そうだな。それで恩を売れるならいいだろう」

「お茶会に持っていきますね。わたくしに宝石をねだったのが恥ずかしいから、秘密にしてほしいと言われています。内密にお願いしますね。令嬢のご両親にこの話をしたら、きっと恨まれますわ」


 ひとつ、あるいはふたつずつ。保管庫から宝石を持ち出して、自分で保管していると見せかけてアニタに渡す。ある程度たまると、アニタは休みの日に宝石を売ってサラの口座にお金を入れた。

 こんなときも、アンジェラの美貌は役立った。アンジェラが家紋入りの手紙に「プレゼントが多くて困っている。昔のものや身に着けないものはこっそり売りに出したい」と書いたものをアニタが渡すと、商人は納得した。

 アンジェラが多くのプレゼントをもらうことは有名だ。しがない男爵家に大量のプレゼントを保管しておく場所はなく、警備や維持費も馬鹿にならない。


 サラが一生贅沢をしてもいい金額が溜まったころ、サラの結婚が決まった。

 アンジェラは怒り狂い、いつものようにこっそり夜中にサラに会いに行った。心なしかサラがやつれたように見え、アンジェラはたまらなくなってサラを抱きしめた。


「姉さま……! こんな結婚なんて許せないわ!」

「アンジェラ……」

「お願い姉さま、どうしたいか言って。私にだけは本当の気持ちを教えて」


 冷たいサラの頬をつつみ、額にキスを落とす。サラは珍しく抱きしめられたままでいた。


「……アンジェラと離れたくない。いつか離れ離れになるとしても、こんな……もう二度と会えない結婚だなんて」


 この世のどんな宝石より美しいサラの涙に口づけ、アンジェラはサラの一部を飲み込んだ。


「姉さま、逃げて」

「え?」

「姉さまが逃げる準備をしているの。私のことを愛しているなら逃げて」

「……アンジェラはどうするの?」

「私も姉さまの後を追うわ。私への手紙はアニタへ送って」


 アンジェラは少し艶の欠けたサラの髪をなでる。自分と違って、やわらかにウェーブを描いているこの髪が好きだ。ふわふわでいつも触っていたくなる。


「……小さいころはよかったわね。もう、あまり覚えていないけれど……私が生まれなかったら、いまでもこの家は……」

「そんなこと言わないで!」


 悲鳴のような声がアンジェラの懺悔を遮る。


「わたしはアンジェラが生まれてよかったと思っているわ! アンジェラがいないなんて考えられない。……人の本質は変わらないものよ。アンジェラがいなくても、この結婚をしていたと思う。……自分の両親のことをあまり悪く言いたくはないけど」

「そうね。両親が、自分の子を粗雑に扱う人間だったということよね」


 価値がないからと捨て置かれる姉。

 綺麗だからと、自由を許さず、望んだことだけをさせる妹。

 家を繁栄させる貴族にとっては正しいあり方だろうが、家の道具にされた人間はたまったものではない。家の恩恵を受けられるならまだしも、この家はろくな権力を持っていない。今までアンジェラに何かあっても、自分で解決することはできなかった。


「姉さま、私にとって姉さまが一番大事だわ。どうか逃げて。そして、私が逃げたとき、受け入れてくれる?」

「……わかったわ。アンジェラが来たとき、不自由なく、のびのびと暮らせるように準備しておく。だからアンジェラ、無理はしないで。姉さまとの約束よ」


 アンジェラは、サラの頬にキスをひとつ落とした。約束はできないけれど、サラの未来に当然のようにアンジェラがいることが嬉しい。そのために、やれることは全てやるつもりだった。



 まずアンジェラは、以前から探していた極秘の運送集団を探し当てた。宝石でも人でも、誰にも知られず望む場所へ届けることを生業としている集団だ。

 社交界で存在がささやかれているが、誰も実在している証拠を掴めない。数年前の王族の亡命にもかかわっていると言われているが、真相は誰も知らなかった。

 アンジェラの気を引こうと、酒に酔った勢いで運送集団のことを漏らした男は、もっと酒を飲ませて記憶を失わさせた。


 特定の方法でコンタクトをとり、この国からサラを逃がすよう依頼をして依頼金を支払う。貯めていたお金が半分ほど消えてしまったので、アンジェラはさらに宝飾品とドレスを売ることにした。

 商人には「姉が結婚することになったので、たくさん持参金を持たせたくて」と伝え、大金を手にした。

 両親に気づかれる前に、宝飾品と衣類を担当しているメイドたちを買収し、口を噤ませる。


「いらないものを売って何が悪いの? すこしくらい贅沢をしたって気づかれないわ。私が結婚したら、あなたたちを侍女として一緒に連れていってあげる」


 そう言うと、みんなすぐに頷いた。これらを雇った両親の人を見る目のなさに呆れたが、いまは感謝することにした。おかげで、銀行には使いきれないほどの金がある。



 婚姻一か月前になってサラが消えると、屋敷は騒然とした。アニタが詰問されたが、その日はアンジェラが八つ当たりのために呼び出しており、すぐに開放された。

 貴族の婚姻は家門同士の問題だ。家門の信頼がなくなってしまう事態に慌て、サラを探すよう命じられた使用人が、家からいなくなる。

 遠くへは行っていないだろうから、表沙汰になる前にサラを捕まえられる。

 そう思っている両親をあざ笑うように、サラの痕跡は、自室を最後にふっつりと消えた。


 サラの結婚相手は、代わりにアンジェラを嫁によこせと騒ぎ立て、謝罪し通しだった父は態度を変えた。

 王族の側室になるのに、どうして男爵なんぞにやらなければならない、と徹底抗戦する構えだ。側室なんて噂があるだけで打診もされていないのに、どうしてそんなに根拠のない自信を持てるのだろう。


 家が騒ぎで浮ついているのを感じて、アンジェラはふと思った。

 自分が家を出るのは一年はたってからと思っていたけれど、今ならいけそうじゃない?

 アニタを呼んで聞いてみると同じ考えだったようで、むしろ急かされた。


「いまは使用人の8割がサラ様を探しております。旦那様が帰ってくるよう命令していたので、あと数日もすればほとんどの使用人が帰ってきてしまうでしょう。宝飾品とドレスの担当が捜索中で不在なため、いまは違う使用人が管理していますが、数が少ないと怪しんでいるようです」

「じゃあ、今夜出ましょう。アニタ、あなたはどうする?」

「できるならご一緒に行かせてください。ここで残るなんて、死ねと言っているようなものですよ」

「姉さまがアニタを気に入っていたから、仕方ないわね。でも、私もあなたに感謝しているのよ。姉さまを守ってくれたから」


 アニタは薄く微笑み、なにも言わなかった。




 その日の夜中、アンジェラはアニタとふたりで家を出た。

 家には、まだたくさんの貴金属や珍しい骨とう品などを残している。それらを換金すれば、今までアンジェラを育てるためにかかったお金と、両親が昔のように暮らすのなら一生不自由しないお金が手に入るはずだ。

 あとは、アンジェラを使って手に入れた人脈。両親が礼節を持って接していれば、アンジェラが消えたとしても付き合ってくれる家門はあるだろう。誰かに連れ去られたと同情を誘うのもいい。サラがいないこの国で自分がどんな扱いをされようが、アンジェラは構わなかった。

 今後のことは、両親の行いにすべてがかかっている。


 サラがいなくなっても、サラのことを一度も心配していなかった両親に、アンジェラは完全に見切りをつけた。

 何度も、サラの待遇を改善するように訴えた。アンジェラが両親の言うことを聞けば叶えると言われ、どんな命令にも逆らわず、必死に望む娘を演じた。なのに、最後まで何も変わることはなかった。これが最後のチャンスだったのに。 


「……さよなら、母様、父様。これから生きていくお金を残すことが、せめてもの子心よ。でも、これは私じゃなくて姉さまの心。どこまでも優しい姉さまに感謝するのね」


 使用人の服を着てフードを深くかぶり、アニタとともに家を出たアンジェラは、一度も振り返らなかった。

 アンジェラは極秘の運送集団に、サラがいるところへ連れていってもらうよう依頼した。目隠しと耳栓をされ、夜明けとともに綿をつめた荷馬車のなかに入れられてごとごと運ばれる。丸一日運ばれたあと、背負子に座らされた。

 どうやら、ここからは山を登るらしい。澄んだ木々のにおいがする。


 一定時間でアンジェラたちを運ぶ人が変わる。ときおり休憩するだけで、ほぼ休みなく動いているが、隣国に着くのに一週間以上はかかったように思う。目隠しをしたままのアンジェラは途中で時間の感覚が狂い、もはや何日背負子に座りっぱなしなのか、まったくわからなかった。


 運送集団しか知らない極秘のルートで山越えをし、検問なしで隣国に入ると、アンジェラとアニタは足腰ががくがくだった。満足に歩けない。軽く歩く練習をしてから、また荷馬車に押し込まれた。

 アニタとふたり、お互いの存在を頼りに息を殺しながらひたすら馬車に揺られる。真っ暗で日が差さない綿のなかで、山越えで消費した体力を取り戻すように眠った。




 ゆっくりと馬車が止まって、手を引かれて荷馬車からおりると、アンジェラは久々に新鮮な空気を吸い込んだ。ずっと目隠しと耳栓をしていて、いまが昼なのか、街中なのかもわからない。

 アンジェラの手のひらに、棒で文字が書かれる。


「依頼完了。ここからは、ふたりで。……わかったわ。ここまで運んでくれてありがとう。追加でお金を払うわ」


 結構、と書かれ、アンジェラは微笑んだ。


「……そう。本当にありがとう。あなた方にたくさんの幸福がありますように」


 人の気配が消えるのを待って目隠しと耳栓を外すと、まばゆさに目がくらんだ。まだ夜明け前の薄暗い時間なのに、久々に目にした光はあまりに強い。

 ゆっくりと瞬きをしながら目を慣らし、状況を確認する。アンジェラもアニタも、衰弱はしているが怪我や病気はしていない。

 街のはずれであることを確認し、ふたりはそろそろと歩き始めた。ぎこちなく重い脚も、夜が明けて人が行きかうころには、不自然ではなくなっていた。

 服に挟んであった地図を頼りに一軒の家へたどり着き、アンジェラは震える手でノックした。


「はい。どなた?」


 出てきたのは、最愛の姉だった。


「アンジェラ……!」

「姉さま!」


 泣いて抱き合って再開を喜ぶ姉妹を、アニタが無言でドアの中へ押し込んだ。ここで注目を浴びるのはよくない。


「アンジェラ、アンジェラ……! あなたが無事でよかった! どれだけ心配したか……!」

「姉さまも無事でよかった! ちゃんと逃げられたか不安で仕方がなくて……ああ、姉さま……」


 お互い泣き笑いしながら、移動する時間も惜しみ、ふたりは床で離れてからのことを語り合った。


「わたしはまず、アンジェラと住む家を借りたの。アンジェラが来るまで、ここはアンジェラが住むのにふさわしい街か調べていたわ。調査の最中にいろんな人と出会って、商売がうまくいっていない人にアドバイスをしたりね。売り上げが上がったら、売り上げのいくらかをアドバイス料としてもらう契約なの。これでアンジェラに頼りきりにならなくて済むわ」

「姉さま……! 私が一生働かなくてすむお金を持ってきたから、もう大丈夫よ」

「ふふ、せっかくだから、アンジェラと旅行もしてみたくて。気に入ったところがあるなら、そこに住んでもいいし」

「なんて素敵なの! 姉さまに似合うものはすべて買わなければ!」


 アンジェラははしゃぎ、それから不意にまじめな顔をして姉の瞳をまっすぐ見つめた。


「姉さま、正直に答えて。私のこの顔は、ここで役に立つ? 誰かに色仕掛けをするなら喜んで使うわ。でも必要ないのなら、火で焼いてしまいましょう。こんな顔が横にいるだけで、姉さまを不幸にしてしまうかもしれないもの」

「なんてことを言うのアンジェラ! わたしはアンジェラの顔が好きよ。いいえ、どんな顔でも好きだわ」


 サラは泣きそうな瞳の端に、そっとキスをおくる。


「でも、アンジェラが痛い思いをするのは嫌。アンジェラが自分の顔が嫌いなら、火傷以外の手を考えましょう」

「……姉さまは、この顔が好きなの?」

「もちろんよ」

「じゃあ、私も好きだわ」


 アンジェラは笑った。名前のとおり、天使のような顔で。



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