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ある小雨の降る海で。。。!

作者: ミュゼ横尾光弘


 少年は、車を湘南方面に第三京浜を走らせていた。。。


 晴れ渡る快走な天気ではなく、どんよりと今にも雨が降り出しそうな嫌な空だった。。。


 まだ陽が上がりだしたばかりでどんよりした天気も重なり寂しい空気が流れていた。。。


 少年も同じように、晴々とした気持ちではなく、今にでも雨が降り出しそうな、もやもやと晴れる事のない思いだった。。。


 少年は晴れない気持ちと裏腹に、もしかしたらという期待に少しばかり夢を見て車を走らせていた。。。


 秋も終わり冬の訪れで外気の空気は冷えきっていたが、車の中に曇っていたせいかヒーターの拭きだし口から湿った暖かい空気と雨降りの寂しい匂いが拭きだされていた。。。


 だが少年の気持ちは湿った空気をもはねのける様な期待を少なからず持っていた。。。


 少年の走らせるスバルレオーネのバンの後ろ座席と荷物を載せる席は折りたたまれサーフボードが斜めに積まれていた。。。


 しかし、少年はサーフィンをするために車を湘南に走らせていた訳ではなかった。。。


 少年の心の中の迷いに戸惑い期待と不安が揺れ動き、現実を受け入れることができずに車を走らせた。。。


 スバルレオーネの水平対向4気筒のエンジンも悲しげにブロ・ブロ・ブロっと音色を奏でていた。。。


 少年は現実を受け止めたくなかったが、現に何かを確かめなければ気が済まないと感じていたのだろう。。。


 少年の瞳は、一瞬、雨をも振りはらうかのような期待と希望の予感を感じさせるようでもあった。


 そうした期待と裏腹に、傘もささずに雨に濡れ敗北感から不安を隠せない表情が本当は本来なのかもしれない。。。


 少年は現実を受け入れられない、現実を信じたくないと言う思いで車を走らせていた。。。


 どちらかと言えば、悲しくないと言い張るように無理やり笑顔を作ろうとしていたに違いない。。。


 少年は、音楽を聞く余裕すらなく、ただ、高速道路の繋ぎ目をタイヤが踏む、パタン! パタン! パタン! と淡々と音をたて静まりかえり運転していた。。。


 そして、少年は、第三京浜を降り横浜新道に入り車を走らせた。。。


 陽が上がり辺りが段々と明るくなり町が動き出して来たのが感じられた。。。


 この道は、いつも大渋滞する場所だが、日曜日のせいか、通勤ラッシュがないのか道は空いていた。。。


 ただ、陽が上がっても晴れ渡る空はどこにも見当たらなく、薄暗く今にも雨が降り出しそうな空模様に少年の眼から涙が、あふれ出そうに潤んでいた。。。


 少年の心の奥底に揺れ動く影が浮き出しては沈み悲しくも嬉しくも思いだされた。。。


 その思いは期待と裏腹に悲しくも現実に消えて行くのであろう。。。


 少年の心の中には、もういない彼女の記憶が現れ消えていくのだった。。。


 その影は海での思い出に楽しく過ごした思い出を回想していた。。。


 何故だか、幸せだった思いでばかりで、喧嘩した嫌な思い出は影を潜めていた。。。


 ただ嫌なことと言えば、些細なことで喧嘩したこと。。。


 そうした嫌な喧嘩も、その後に仲直りする為にセックスして身体を重ね合わせ辛いことのあとのほんの幸せを感じる事が出来た思いでが浮き出されては消えて行くのだった。。。


 サーフィンを終え、着替えている最中に、この車の中でも彼女の柔らかい身体の中に入り込み幸せに包まれていたことも思いだし瞳から涙がこぼれそうだった。。。


 そう、彼女と重なりあう時に服を脱がせ下着を脱がせる瞬間もたまらなく好きだった。。。


 今となっては全ては過去の思い出でしかない。。。


 少年は、また会えると、あるはずがない期待をして涙をこらえ鵠沼海岸に車を走らせていた。。。


 海岸線の国道に出ると小雨が降り出していた。。。


 雨のせいで、日曜日の朝にもかかわらず、海岸沿いの道には、ほとんど人が歩いていなかった。。。


 たまに海から出て立ち寄ったマクドナルドにも、珍しくほとんど人がいなかった。。。


 マクドナルドを過ぎ、国道を右折して、いつもの鵠沼 東急レストハウス前の駐車場に車を入れた。。。


 車が一台も止まっていなく誰もいない広い駐車場の海側にスバル・レオーネを停めた。。。


 少年は、サーフボードも持たずに傘だけ手にして降り立った。。。


 小雨だったため傘をささずに片手に傘を持ち海岸へと歩いて行った。。。


 いつもと違うのは、隣に彼女がいないこと。。。


 それに片手にサーフボードを抱えていないことだった。。。


 海風は、冬を迎える空気の気温より、ひと月前の海水の暖かい空気が吹くせいか少し生温かく感じた。。。


 鵠沼の海岸には、黒い雲に覆われた空に小雨の寂しさが漂い少年の心を更に悲しみに落とし込み風が海から流れていた。。。


 少年は、悲しみをこらえながら少しの期待を持ち海岸へ歩いた。。。


 もしかしたら、また同じ場所に彼女がいるかもしれないと。。。


 いるはずのない現実の中、幻想に包まれていた。。。


 小雨が降り出した影響なのか、鵠沼の海岸にはサーファーが誰もいなくひっそりとしていた。。。


 いつもの海、いつもの場所。。。


 海岸の砂浜と公園の間にコンクリートで細い道があり、そこに堤防の様な壁があった。。。


 いつも、少年がサーフィンをしているときに、その堤防の様なコンクリートの壁に彼女は腰かけ、少年が海から上がるのを待っていたことを思い出していた。。。


 いつも一緒に海に来て少年が海に入っている間、少年を見ながら上がってくるのを見守る彼女の姿を想像し、いるはずのない彼女が今日も、もしかしたらいるかと期待していた。。。


 思い出を忘れ現実を受け入れる為に少年は、ここにまた来たのかもしれない。。。


 少年は、海岸を西から東に海沿いに歩いた。。。


 すると、いつものコンクリートの壁に一人の少女が座っていた。。。


 少年は、まさかと思い期待していた。。。


 愛し合った彼女とは会うことが出来ないと知りながら期待し奇跡が起きたかと幻想し心が高ぶるのだった。。。


 もう会うことのできない彼女。。。


 そう、彼女とは二度と会うことはできない。。。


 と、現実に引き戻された、だが今、同じ場所に座るうしろ姿の少女に思いを寄せるのだった。。。


 少年は、恐る恐る少女に近づいて行った。。。


 小雨の中、小柄な少女は傘もささずに、崩れ落ちる波の音にたそがれて海の沖の遠くをぼんやりと見つめていた。。。


 少年は、二度と出会うことのない彼女と重ね合わせていた。。。


 少年は、座っていた少女に近ずいて少女の前に立った。。。


 瞳が大きく、そばかすのある小柄な少女は、少し寂しげではあるが海の妖精とでもいうような雰囲気だった。。。


 いや、違う、少女は妖精ではなく現実に座っているのだ。。。


 少女は、地元の子なのか? それとも遠くから来ているのか?


 少年は少女がどこから来たのか気になりだしていた。。。


 SEXワックスの甘い香りが漂い茶色い髪を後ろで一つに束ねていた。。。


 きっと地元の子でサーフィンをしているに少女に違いないと少年は思った。。。 


 二人の空気を和ませるかのように波の音が強く砂浜に叩きつけられていた。。。


 そうした波の音すらも二人を強く結びつけるように繰り返し繰り返し潮風と共に奏でていた。。。


 空には黒い雲のすき間にトンビが飛んでいた。。。


 そのトンビは緊張していた二人の空気を切り裂くかのように鳴いていた。。。


 ピューピロロロロー。。。 ピューピロロロロー。。。


 少女はトンビの声に反応し顔をあげた。。。


 少年と少女は顔を見合わせた。。。


 お互いが、お互いを認めたのか、導かれた様な運命を感じたのか、お互いが知らず知らずにうなずいていた。。。


 少女の寂しげな表情が少し頬笑みを浮かべていた。。。


 それは、まるで初めて出逢った全く知らない人同士ではなく何かの意味があり必然に出逢うべきして出逢ったと言う様な感情で満ち溢れていた。。。


 いるはずのない彼女の座っていた場所に、紛れもなく座る少女がいるのだ。。。


 少年は少女の横を指さし少し緊張しながら言った。。。


「隣に座っても構わないですか?」


 少女は、うなずき恥ずかしそうに言った。。。


「あっ! はい! 大丈夫です」


 少年は、ゆっくりと少女の様子をうかがいながら隣に座った。。。


 少年は、自分が来た理由を明かそうか迷った。。。


 少年は、何故この少女がこの場所に座っているのか考えていた。。。


 もしかしたら、彼女と同じように海に入っている彼氏を待っているのか? だが、海には誰もいない。。。


 では、これから来る彼氏を待っているのか?


 でも、もし彼氏がこれから来るのなら、少年が座っていては誤解されるはずだ。。。


 では、彼氏を待っているわけでもない。。。


 少年は、様々な妄想をしていた。。。


 少年は自分と同じように、もう二度と会えない彼氏とまた会えると期待して待っているのか。。。


 そんな妄想も考えているだけでは答えはでない。。。


 そう思いながら少年は、少女に声をかけた。。。


「ここで何をしてるんですか?」


 少女は、黒くなる雲を見上げ、雨が少女の顔に降り注ぎ悲しそうに言った。。。


「忘れるために!」


「そう、忘れるためにねっ!」


 そう彼女は寂しげに言った。。。


 そして、その後に続けて言い出した。。。


「忘れて、新しい何かを求めて待っているの!」


「そう! 何かを? 待っているの!」


「ここで、また新しく人生を迎えられると思って、待っているのよっ!」


 少女は、そう言うとまた顔を下げ少年を見ることもなく海を見つめた。。。


 少年は、もしかしたら自分と同じ様に二度と会えない再会を期待しているのではないかと思えていた。。。


 少年は、言葉に詰まり少女に、これ以上聞くことが出来なかった。。。


 きっと、彼女も少年と同じで別れを忘れるために来たのかもしれないと。。。


 もう二度と会えない彼女はいつも明るく振る舞い優しい子だった。。。


 そんな彼女の思い出と、今いる少女の現実とが重なり合う。。。


 少年は、熱い感情と偶然である現実に心臓の鼓動が高まり身体が熱くなっていた。。。


 きっと、ここにいる少女も同じように心と身体が熱くなっているに違いない。。。


 そう少年は感じた。。。


 そして、熱くなった心を身体を、しばらくの沈黙の空間と小雨が二人の身体を冷やしていった。。。 


 少年は、二度と会えない彼女がひき合わせてくれたのかとも思いだした。。。


 少女も同じように思っているのか、少し緊張した顔が安心したのか雨が嫌な思い出を流してくれたのか、少し頬笑みを浮かべていた。。。


 そして、息を飲み少女が少年に声をかけた。。。


「あなたこそ、どうしてここに来たの・・・?」


 少年は、そう聞かれ、正直な答えを言えずに答えた。。。


「きっと、君に出会うため・・・かな?」


 そう、きっと二度と会えない彼女が引き合わせてくれたんだ。。。


 もう会いたくても会えない彼女がきっと、新しい出会いで幸せになって欲しいと、この少女をここへ連れてきたのかもしれないと。。。


 少女が、小雨に打たれ上を向いて言いだした。。。


「きっと、また! 会えると信じて、ここに来たの!」


 そう言うと、少女は少年の方を向き足を左右交互に上げ座るコンクリートの壁を踵でコンコンと叩きながら甘えるように下を向き言った。。。


「また、会えるかもしれないと・・・!」


 少年は、そう言う少女が、どんな思いでここに座っているかが想像できた。。。


 海風が小雨と共に二人を包み込みお互いの心が融け込んでいくかのようにお互いを認め合う様に感じた。。。


 トンビがまた、ピューピロロロローと鳴いた。。。


 少年は、少女の思いを飲みこみ、うなずいた。。。


「ぼくも、同じなんだ・・・!」


「ぼくも、同じで! また会えると思って来たんだ!」


 少年は、そう言うと少女の方に顔を向け言った。。。


「同じだね!」


「じゃあ! 本当にお互いがお互いをひき合わせてくれたなら・・・」


「また、会えるはず、来年の今日、またここで出会えるはずだね!」


 そう言うと、少年はコンクリートの壁から飛び降り、少女と向かい合いうなずいた。。。


 すでに、二人は小雨に打たれ髪も服も滴り濡れていた。。。


 もう二度と出会うことのない、この世にいない彼女がきっと引き合わせてくれたに違いない。。。


 少年は、そう思い二度と会うことのできない彼女の後ろ姿と眼の前に居る少女を重ね合わせていた。。。


 きっと、このまま離れてもまた運命が引き合わせてくれるんだと確信していた。。。


 生きる希望に、生きる喜びを共感できる少女との出逢いが少年の勇気と希望に変化していた。。。


 少女も同じように自信に満ちた顔をして、うなずき言った。。。


「じゃあ! 来年またここで必ず会いましょう」


 そう言い、少女は眼をつぶり上を向いたままだった。。。


 お互いの心は繋がり幸せな空気が黒い雲の空を切り裂き青空をのぞかせていた。。。


 


 一年後、また同じ場所に少年はやってきた。。。


 居るはずのない彼女に少女の面影を探しに。。。


 そして、その後また。。。


 居るはずのない少女を求めて。。。





 あれから数年、いや30年は経っているに違いない。。。



 今、また訪れて見ると、そこには昔のレストハウス前駐車場はなく、県立湘南海岸公園西部駐車場になっており昔の面影はなくなっていた。。。


 昔と違い曇り空ではなく晴れ渡る空模様だった。。。


 車を停めて、昔のように海岸にでようと海風テラスを通り歩いて行くと、そこには堤防の様な石の壁は既になく石で作られた階段が残されていた。。。


 気持ちの良い海風が歳をとり過ぎた少年の頬を撫でるように吹く。。。


 今日は肩上、頭ほどの波もあり、地元のサーファーが自転車で良いポイントを探し求めて走りまわっていた。。。


 きっと良い波がたつと会社を有給休暇で休むか、お腹が痛くなったと嘘をついて来ているのだろう。。。


 歳をとり過ぎた少年は今も昔も変わらないんだと実感した。。。


 そんな中、同じ場所に。。。


 あの頃と同じ様に、おばさんになった少女が座っていた。。。


 あの時の少女かどうかは不明だが、とにかくそこには少女の面影が存在していた。。。


 そこに座っているおばさんになった少女も同じように何かを待っているのかもしれないと年を取り過ぎた少年は思っていた。。。


 鵠沼の海風は昔も今も変わることなく頬を撫でていた。。。



 生きていれば、また。。。


 いつか必ず逢えるはず。。。



。。。おしまい。。。



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