仕事場見学
やぁ、エミリアだ。
最近気になっている事がある。
ほぼ毎日、イツキ殿が何をしに行っているかだ。
「しごと」とやらに行っているらしいが、それが何かはわからない。怪しい事かもしれん。
今日はその謎を解き明かそうと思い、イツキ殿をしばらく追跡した。
何度も散歩に連れていって貰ったお陰で、外に出るのもなんともない。
イツキ殿は建物に入っていった。洒落た雰囲気の場所だ。
しばらく外から観察するか。
今日もお仕事だ。まずはあいさつ。
「おはようございまーす」
「樹君、おはよう」
「「おはようございまーす」」
一個一個テーブルを拭き、ゴミがないかチェックする。
「ふぅ。…ん?」
銀髪赤眼の少女が物陰からこちらを見ている。
なんでこんな所にエミリアさんが?
「店長、ちょっと行ってきます」
「ん?あぁ、いいよ」
とりあえず中に入ってもらおうか。
「エミリアさーん」
「ギクッ!」
「どうしたんですか?」
「あ、す、少し、しごと、気になる」
一人でここまで来たのか。道は分かったのだろうか?
「そうだったんですか。…あ、そうだ!仕事体験、してみませんか?」
「しごと、たいけん?」
「体験って言うのは、やってみて学ぶ事ですよ」
社会見学は良いことだ。
「んー…やる」
「簡単に説明すると、注文を受けて、料理や飲み物を出すんです」
「ちゅうもん?」
「お客さんから何が欲しいかを聞くんです」
「うん」
たまにスマイルください、なんて言ってくる人もいるが、それはいいか。
「注文を受けたら、料理や飲み物を出す。基本はこれだけです。これを接客って言うんです」
「ちゅうもんを、受ける。料理、飲み物を、持ってくる。これがせっきゃく。」
ベルが鳴った。
ちょうどいい、まずはお手本を見てもらおう。
「葵ー、お手本お願いできる?」
「むっ…エミリアさん…」
「こ、こんにち…は…」
「分かりました、僕の能力を見せてあげます。」
なんでこんなに気合い入ってるんだろうか。
「い、いつも通りでいいよ」
お客さんに注文を聞きに行った。
「ご注文をお伺いいたします。…はい、オムライスとコーヒーでよろしいですか? コーヒーは食後ですね、かしこまりました。以上でよろしいでしょうか?承りました。」
「おぉ…」
「あんな感じで、注文を聞いて、料理が出来たら持っていくんです」
どや顔で葵がこちらを見ているが、あまり気にしなくていいか。
「それじゃあ、一回やってみますか?」
「う、うん。」
やあ、エミリアだ。
イツキ殿の仕事は、客人に料理を出すというものらしい。
私もやる事になったのだが、初めてなもので何もわからん。
「僕も横についているので、大丈夫ですよ」
「う、うん。」
き、客人に…ごちゅうもんを聞かねば…
相手は30歳くらいの男性だ。
「ご、ごちゅうもん…は…?」
「パンケーキを一つ」
「ぱ、ぱんけーき?で、よろしい…ですか?」
「はい」
「う、うけました?」
しまった!最後の最後で!
「承りました、それでは少々お待ちください。」
うぐ…結局イツキ殿に助けてもらってしまった。
「イツキ、ありがとう。最後、間違った。」
「まぁ初めてですから、僕も最初はあんな感じでしたよ」
「イツキも?」
「はい。僕はずっとこの仕事に慣れてるから簡単に出来るんです。」
「私も、慣れると、出来る?」
「もちろん!さ、次行ってみましょうか」
仕事終わり。
今日は接客、皿洗いなど、色々と教えた。
いつもと違う日本語を使ったり、お皿落として割ったり、エミリアさんは疲れた様子だ。
「「お疲れ様でした〜」」
「うん、お疲れ様〜」
「お、おつかれさま」
疲れはしたが、いい経験だっただろう。へとへとだが、満足げだ。
「エミリアさん、お疲れ様です」
「イツキ、おつかれさま」
「今日は楽しかったですか?」
「疲れた…でも、楽しかった」
店長からはここで働いてみてはどうか、と提案されたが、まだ週に一度体験するくらいでいいだろう。まだ日本語が不自由なエミリアさんにとって、それを知らないお客さんの相手はとても難しい。
「ところで、家の鍵は閉めましたか?」
「ふっふっふ、閉めた!」
やっと我が家だ。お風呂に入ってまったりしたいな。
…ん?
「鍵、開けないんですか?」
「持ってない」