家探索
エミリア視点でイツキに話す時、日本語以外でエミリアの言っている事を()の中に書きます。
エミリアさんが家に来てから一週間。そろそろ文字の練習をさせよう。
ひらがなカタカナ練習帳はあるが、最初は僕が教えた方がいいか。
「エミリアさーん」
「…?」
ひらがな一覧を見せた。
「…………?」
「ひらがな」
「ひらがな。」
そしてカタカナ一覧を見せた。
「カタカナ」
「かたかた?」
「カ タ カ ナ」
「かたかな。」
ひらがなを一個一個発音していく。
「あ い う え お…」
「あ、い、う、え、お?か、き、く…」
謎の文字でメモをした。発音記号だろうか。
何度も繰り返し、テストをする。
「あ、い、う、え、お、か、き、く、け…」
「グッ」
グッドサインを出した。中々良い調子で覚えている。
まずはここまでだ。
僕はとある飲食店で働いている。大学時代にバイトしていた所で、卒業後また働かせてもらっている。
店長には少しの間休むと伝えてあるが、今日の午後に行くと言ってある。
とりあえず時計の見方について教えよう。帰る時間を伝えても、時間が分からないでは意味がない。
壁に掛かっている時計を指差した。
「時計」
「とけい?」
時計を取り、読み方を教える。
「一時、二時、三時…」
「いちじ、にじ、さんじ…」
そして時計に七時、とひらがなで書いた付箋を貼っておいた。
「出かけてきます。「七時」には家に帰ります。」
外に行くとジェスチャーした。そして、エミリアさんはここに残る、とジェスチャーした。
「くるま?」
「歩いて行きます」
歩く動作をし、教える。
「歩く」
「あるく」
オッケーサインを出した。
「行ってきます」
「いってき…?」
外に行く、というジェスチャーと「行ってきます」を合わせて、外に行くときは「行ってきます」と言うことを教える。
そして、僕が外に行く時は「行ってらっしゃい」と言うことを教えた。
「行ってきます」
「いって…らっしゃ…い?」
オッケーサインを出し、家を出た。
やぁ、私はエミリア・ルイツァーリ。最近この世界に転生し、ここに住み始めた騎士だ。
イツキ殿は悪人でないと女神殿から何度も聞かされた。
えろほんの一冊すら持たない誠実な人間だ、と。
えろほんが何だかは知らんが、きっと良くない物だろう。
しかし、やはり信用できない。
女物下着の置き場に入る様な変態だ。
優しく接してくる者は大抵下心がある者だ。気を許した頃に裏切るかもしれん。
しかし、言語を教え、寝床を用意し、服を買い、飯をくれるのもイツキ殿だというのは事実。
イツキ殿の優しさには安心感がある。もしかすると本当に善良な人間なのかもしれない。
しかし、長い付き合いになるのだろうが信用するには時期尚早だろう。
今日はこの家の探索だ。何か怪しい物が無いか調べなければ。
この家は二階建てで、玄関から見て正面に階段と「といれ」、右に部屋と大きめの部屋、「おふろ」への通路があり、左に台所といつもの部屋がある。
そして未知の領域、二階。
もし、彼に悪意があるのならばきっと、私が近づかない二階に何か隠しているだろう。
まぁ、今日は一階だ。
まずは右。扉を開けると、大きめの部屋。
二つの部屋が繋がっていて、間に見たことの無い仕切りの様な物がある。
壁にも同じ物がついている。
動いた。中は収納か。「ふとん」と枕がある。
収納は三つ。大きいのが二つに小さいのが一つ。
この部屋には大きな机と小さな机がある。
ちょっとした置物や「てれび」。来客に暇をさせない為だろうか?
「てれび」はいつもの部屋にもあったな。
「とするとここは客間か。」
大きな部屋の近くの部屋。
ここは倉庫か?棚が並んでいる。
イツキ殿がいつも着ている服とは違った雰囲気の黒い服だ。何か、特別な時に着るのか。
棚に置いてある箱の中には、何やら奇妙な物がたくさん入っている。
持ち手に棒がついた何か。先端の形は様々で、十字、一の字、三角であったり、太さが様々で螺旋状になったりしている。イツキ殿から貰った「ひらがなカタカナれんしゅうちょう」を使って読んでみると、「どらいばー」とか「ぴんばいす」と書かれている。
ハサミもある。
紐や、粘着性のある布でも紙でも無い何か。これは拘束具の可能性がある。
楕円状の枠の中に網が張ってあり、持ち手が付いた何か。打撃武器か?この形状に何か効果があるのか?
「ここは少し怪しいな…」
ガラスのついた引き戸を開けると、いつもの部屋。
床は一定の大きさの板を並べた床。植物を干した物を床にしているのか?長い辺の部分には黒い物が付いている。
大きな棚が一つ。小さな像や人形がたくさん飾ってある。
あとは鳥かごや魚の入った透明な入れ物くらいか。
そして低い棚に乗った、黒い、大きな板。これが「てれび」だ。映像を映し出す、奇妙な物だ。私も驚かされた。
「ここは怪しい物は無さそうだ。」
扉を開けると台所。扉のすぐ横には引き戸がある。
水を出す流し台、火の出る謎の台、火を使わずにお湯を湧かす水差し、冷気を放つ謎の装置。奇妙な物ばかりだ。
棚があり、中には基本的に食器が入っている。しかし、やはり奇妙な物もある。
流し台の引き出しと戸には調理器具。流し台の上の棚は…届かん。
「ここにも無いか。」
廊下の突き当たりの引き戸を開けると脱衣場。
曇りガラスの引き戸を開けると「おふろ」。
私が見事倒した魔物の首と浴槽。水の出る装置もあり、壁に小さな棚がある。しゃんぷーやぼでぃーそーぷ、が置いてある。
「ここも危険な物は無いか。」
といれ、とか言う場所。
厠だな。
ここにも何も無いか。
今日はここまでにしよう。
…しかし、どうしてもイツキ殿の部屋が気になる。何か怪しい物を隠していそうな気がするのだ。
二階に上がった。
階段を上がると左にすぐ扉があり、「といれ」があった。そして右には洗面台と棚。
正面には動かすと折り畳まれる引き戸。開けると収納だ。
引き戸の左右に部屋。右に二つ、左に二つだ。
左の部屋の引き戸を開けると、いつもの部屋や客間と同じような床の部屋があった。ベランダと、引き戸がいくつか。
入ってすぐの左の引き戸は隣の部屋に繋がっている。
隣の部屋は床が木材で出来ていて、棒の両端に非常に重い円盤が付いた何かや、ぶら下がれる何かがある。
さっきの部屋の探索を続けよう。入り口から見て右に引き戸。開けるとそこは収納だ。「ふとん」がある。
「この部屋にも無いな。」
部屋なら出、右の部屋に行く。
少しだけ廊下があり、正面と左に部屋がある。
まずは左。
…なんだここは
トカゲ、カエル、コオロギ…様々な動植物だ。見たことのない生き物もいる。
入り口から見て左に折り畳まれる引き戸の収納、正面にベランダ、さっきの部屋のベランダと繋がっているようだ。右に窓。
棚がたくさんある。
「…!」
「ふせん」に書いてある言葉を、ひらがなカタカナ練習帳を使って読んでみると「れっどろーち」と書かれている。
「しかし、ゴキブリにしては赤いな…もっと黒くてカサカサと動くものでは…」
正面の部屋に入る。
「何かあるとすればここか…」
入り口から見て左に棚、右にはすぐ隣に細い棚の少しはいると正面に窓、右にベッドと窓、机。
ベッドの下の収納と机の引き出し以外の収納は無い。
ベッドの下の一番右の二段の収納には、笛とオカリナか。
オカリナは私もよく吹く。楽器の音色は心が安らぐのだ。
真ん中と左の引き出しには大量の書物。どれも難しい物ばかりだ。
左の書物は絵が多い。戦っていたり、話し合っていたり。これは一体なんだろう。
ここをこれ以上探しても何も無いか。この書物は文字を勉強してからゆっくり読もう。
机の引き出しにも何も無い。
「ここも無いか。」
いつもの部屋へ戻った。
「危険な物は無かったか。」
しかし、トラウマ、というのがあってか信用するのが怖い。
…裏切られるのが怖いのだ。
信頼している者に裏切られるというのは、いわば山頂から崖の底に突き落とされる様なもの。
それが何度も続けば、トラウマとなる。
運悪く今まであった人間が悪人ばかりだった、と頭で理解出来ても裏切られるのではないか、と考えてしまう。
イツキ殿はきっと善良な人間だ。しかし、やはり怖い。
いじめられるのではないか?無理やり何かされるのではないか?と考え始めるときりがない。
まぁ、それは今考える事ではないか。彼の帰りを待とう。
その頃、職場は。
「ああ高木君。体調は大丈夫かい?」
「すみません店長、一週間も休んで」
「たまに休むくらい文句は言わないよ」
「ありがとうございます。」
ここは結構人気な店だが、店員は、僕と店長とバイトが二人。ちょっと人が少ない。
「おお先輩!」
「ホントだ」
バイトの二人。葵と茜。
二人とも幼なじみらしい。
葵は僕っ娘。
茜は元気な女の子で、葵とセットでいることが多い。
「先輩、一週間も何してたんッスか!」
「ごめん、ちょっと色々あって」
女の子が転生してきたとか言ったら笑われるよな…
「これは一週間分の私の仕事を全部やってもらわないと」
休んでたんだし、みんなよりは仕事しなくちゃな。
「茜は一昨日まで休んでたでしょ」
「ギクッ!」
そんなことだろうと思ったよ。
「店長と葵の一週間分を僕たちで分けるしかないね」
「い、嫌だ!」
「はっはっは、相変わらず面白いな、君たちは」
やあ、エミリアだ。
「ただいまー」
イツキ殿が帰ってきた。ただいま?とはなんだろう。
「た…だいま?」
外から戻ってくる動き、自分が言う、という動きをした。
…そうか!帰ってきた人が言う言葉か!
「グッ」
このぐっどさいん?とやらにはどんな意味があるのだろう。私は肯定、という意味で使っているが。
そして外から戻ってくる動き、イツキ殿に対し私が言う、という動きをした。
「おかえり」
「おかえり。」
うなずいた。
帰ってきた人に対しては、「おかえり」と言えばいいのか。
「(帰ってきた人に対しておかえりと言えばいいのか)」
動きを交えながらそう言った。
すると、うなずいた。
「オッケー」
指で丸を作る「おっけー」とやら。イツキ殿が使っている様子だと、あれも肯定の意味なのか。
「それじゃ、お風呂に入ってきます」
おふろに行くのか。こういう時も「いってらっしゃい」か?
「いってらっしゃい」
すると、イツキ殿は笑顔で何か言った。
「いい感じですね」
どういう意味かは分からないが、褒めているのか?
なら、褒める時は「ぐっどさいん」をやるか、「いいかんじですね」と言えばいいのか。
今日は家の探索をしながら色々と考えたが、長い付き合いになる訳だ。しっかりと仲良くしていこうと思う。
今日はもう寝よう。出迎えもしたしな。
それに、明日も言語の勉強だ。