暮らしの始まり
言語の勉強、生活用品の購入、やることはいっぱいだ。
今やるべきなのは生活用品の購入。雑貨どころか下着の一着すら無い。
扉を指差し、外に出ると伝える。
「………?」
言語は分からないが、外に行くというのは分かったようだ。
この格好だとかわいそうだが仕方ない。まずは服屋に行こう。
家を出て車に乗る。
「車」
指を差し「車」と教える。
「くるま?」
うなずいた。
そして乗り込み、エンジンをかける
「ひっ!?」
あ、しまった。車を見るのは初めてか。
「危なくないですよ」
「………?」
分かってくれない。一回疑い始めるとダメなのか。
車を降り、ドアを開けて座るように伝える。
すると、怯えた様子になってしまった。
「大丈夫ですよ」
「…?」
席に座っても何も無い、とジェスチャーする。
「………」
すると、やっと乗ってくれた。
「シートベルト」
「しーと…べると」
つけてみせると、マネをしてつけたがかなり怖がっている。
前方を指差し、アクセルを踏んだ。
「ひっ!?」
「あ、危なくないですよ!」
暴れたりしなくて良かった。
だが、本当に怖いのだろう。すごく緊張した様子だ。
どこかに連れていかれるのかと思っているのか。
ここら辺は田舎だが、何も無い田舎ではない。歩いて15分くらいでスーパーやコンビニ、駅がある。まぁそれ以外は潰れた個人経営の店くらいしかないが。
30分くらいで服屋等がある。隣町だが。
まずはこの格好をなんとかせねば。
エミリア・ルイツァーリさんは少し震え、怯えた様子でキョロキョロしている。閉じ込められたり、連れていかれた経験があるのだろうか。
安心させてあげたいが、何かすれば逆効果だろう。
~30分後~
ドアを開け、降りるようにジェスチャーする。
「服屋」
「ふくや?」
ここの名前が「服屋」であると伝えた。
「いらっしゃいませーっ」
「…!?」
明るい店員があいさつしてきた。エミリア・ルイツァーリさんは後ろに隠れてしまったが、軽くお辞儀すると、マネしてお辞儀した。
「たかぎいつき、………?」
ここがどこか気になったようだ。
服をつまんで、服を売っていると伝える。
「ん…?」
服屋、という概念が無いか。
とりあえず女性物のコーナーに連れていった。
「服」
「ふく」
辺りを指差しこれらが「服」だと伝える。
可愛らしい服がたくさん並んでいる。
そして一着を取り、渡す動作をした。好きなのどうぞ、と伝える為だ。
嬉しそうだ。ちょっと不安も和らいだか。
何着か持ってきた。
次は靴だ。
「靴」
「くつ。」
好きな物を選ばせた。
次はパジャマだ。
「パジャマ」
「ぱじゃま?」
寝る、というジェスチャーと服を渡す動作で寝間着ということを伝える。
「あぁ」
分かったようだ。
二種類持ってきて、寒がる動作と暑がる動作をした。暑い時と寒い時の物、ということか。
オッケーサインを出し、次は靴下と…いよいよ下着だ。
こんな所でパンティとブラジャーの名前を言いたくない。それに身長が182の僕、一部の高い棚以外だと頭が見えてしまうのだ。
ま、まずは靴下だ。
「靴下」
「くつした。」
いくつか選び、持ってきたが全部入れるよう伝えた。
…ふぅ。パンティを一つ取った。
「ぱ、パンティ。」
「ぱぱんてぃ?」
首を振って違うと伝える。
「パンティ」
「ぱんてぃ?」
うなずいて当たっていると伝える。
履く動作をしてどんなものか伝えた。
「な……!」
分かったようだ。誤解も生んだが。
少し警戒されてしまった。
そして自分に合うサイズを選び持ってきた。
そしてそのサイズのものをいくつか取った。
次はブラジャーか。
一つ取った。
「ブラジャー」
「ぶらじゃー。」
胸を持ち上げる動作でどんなものか伝えた。
「んん…………!」
違うんだ…誤解しないでくれ…
もう完全に警戒している。
マズイ、店員さんの視線が少し増えている気がする。早く逃げよう。
会計し、車に戻った。
会計の時、「お金」の名前も教えた。
「………たかぎいつき。………」
きっとお礼だろうか。笑顔で買った物を見せてくる。
そういえば、いちいちフルで言わせるのもアレか。
自分を指差した。
「いつき」
「イツキ?」
うなずいた。
「たかぎいつき……イツキ。」
分かったようだ。そして、エミリア・ルイツァーリさんも自分を指差した。
「………エミリア・ルイツァーリ………エミリア」
エミリアと呼べ、という事か。
「エミリア?」
「……」
うなずいた。
オッケーサインを出すと、マネしてオッケーサインを出した。
エミリアさんを指差し、服を着せる動作をし、車を指差した。車の中で着替えろ、と伝える為だ。
「エミリア、服、車」
ついでに「着る」と「履く」も教えるか。
上着を着る動作をした。
「着る」
「きる」
ズボンを履く動作をした。
「履く」
「はく」
うなずいた。
車の後ろに乗せ、着替えさせた。
だ、駄目だ。ミラーを見ては駄目だ!
僕の中の天使と悪魔が戦っている。
「ダメだよイツキ君!覗きはいけないよ!」
「いいじゃねえかよ、バレなきゃ犯罪じゃないんだぜ?」
「そんな悪魔の言うことを聞いちゃダメ!理性を保って!」
「ところで天使よぉ、気づいてるか?」
「な、なにが」
「最初っから目は言うことを聞いてなかったぞ」
「あ、ほんとだ。」
そう、既に向いていたのだ。
いや、一瞬だけだから。結構長い一瞬だったなー
すると、エミリアさんが話しかけてきた。
「い、イツキ。………」
背中を向けている。付けられないのか。しかし、彼女いない歴=年齢のワイにはブラの着け方は分からぬ…
…!
な、なんだこの肌の手触りはぁぁ!
サラサラながらもモッチリしたこの感触っ!温かくて、柔らかくて…溶けてしまいそうだ…
美しい首筋…
出っ張りすぎず、出なさすぎずの肩甲骨…
引き締まったくびれ…
そして、この太ももと尻…
細いながらも肉付きがあって、多すぎず少なすぎずの程よい筋肉で引き締まっている。
はっ!理性、理性を保つのだ。
文明の利器、スマホで着け方を調べ、付けてあげた。
「イツキ、グッ」
やっぱり意味はよくわかっていないようだ。
そして再び前を向いた。
着替え終わり、スーパーでひらがなカタカナ練習帳と生活雑貨を買い、家に戻った。
気付けばもう十二時。
パンなら食べたことあるだろうか。多分米は無いよな。
袋から六枚スライスのパンを一枚取り出し、トースターに入れて五分。
こんがり焼けたパンにバターを塗って食べたいが、エミリアは何が好きなのだろう。何も塗っていない状態で一度出してみよう。
「召し上がれー」
「…?」
あ、名前が知りたいのか。
「パン」
「ぱん。」
名前がパンであると教えた。
そしてバターを持ってきた。
「バター」
「ばたー?」
「パンに塗るんです」
パンに塗る動作をしてどんなものか教えた。
すると、パンに塗り始めた。
「はむ…」
おいしい、みたいな反応をした。でもそれ、塗り過ぎだと思う。バターの味しかしないと思う。
牛乳を飲むと驚いたような顔をした。
「牛乳」
「ぎゅー…にゅー。」
僕のポケットを指差している。財布か?
牛乳…財布…あ!牛乳は高いのか。
違う、と首を振った。
すると、そうなのかぁ、みたいな顔をした。
お昼の後。何をしようか。
今日ここに来たばかりで色々やり過ぎても疲れてしまうだろう。
何かしたがるまではゆっくりしていよう。
「イツキ、むぎちゃ。」
麦茶が飲みたいのか。
麦茶のボトルを渡した。
「んー…?」
開け方が分からないのか。
「ここを…こう」
「おぉ…」
分かったようだ。
麦茶を注いだコップを渡してくれた。
「めし…あ…?」
「召し上がれ?」
「めしあがれ。」
さっきのを覚えてたのか。言葉を覚えるのが早い。必要だから必死で覚えようとしているようだ。
「ありがとう」
「あり…が…?」
難しいか?
「ありがとう」
「ありが…とう。」
お礼とかはしっかり覚えないとな。
そして夜。
部屋が無いのをどうしようか。
一人暮らしには無駄に広い家なので部屋は余っているが、家具は無い。
一緒の部屋で寝るのは怖いだろうし、別な部屋で寝よう。
そしてお風呂の物の使い方を教えた。
「シャンプー」
「しゃんぷー。」
出し方を教え、頭を洗うのに使う、と教えた。おそらくしばらくは使わないだろうが。
「ボディーソープ」
「ぼでぃー…そーぷ?」
体を洗うのに使う、と教えた。
そしてシャワーだ。
「シャワー」
「しゃわー?」
水を出して見せた。
「おぉ…」
やってみて、とジェスチャーするとシャワーを掴まずに蛇口をマックスまで捻った。
シャワー が おそいかかってきた!
「わっ!」
「あ、そこを捻っ…」
シャワー は エミリア を 殴った
「うぐっ!…くっ!」
エミリア は ふしぎなちから で シャワー を くだいた
「ふぅ…イツキ、……?」
何か言っているエミリアさん。なんと言っているか分からない。
とりあえず蛇口を捻って水を止めた。ホースも暴れるのを止めた。
きっと魔物と勘違いしたのだろう。
驚き過ぎて何も考えられん…
これからの僕の生活、大丈夫なんだろうか。