第六話
「そうだ。君が、ムネチカだね?」
「? はい」
頷き、兜を取る一人の騎士。
「あ……」
癖毛の瑠璃紺。深紫のつり目。そして、騎士団所属。
「もしかして、エセルバードにいさまですか?」
「あぁ。良く分かったね」
ムネチカの頭を撫でるエセルバード。
此の人は、エセルバード・スミス。
スミス家長男で今は確か17歳。
俺が生まれる前に騎士育成学園に入った故、会った事は無かった。
こうして騎士を引き連れているということは、無事騎士団に入れたのだろう。
「それより、何があったんだい?」
「ああ……。じつは、そこでたおれているせんせいにおそわれそうになって……。あのせんせいがたすけてくれたのです」
男性職員から女性職員を示し乍ら言うムネチカ。
「そうか。では、あの男を吹っ飛ばしたのも、あの女性なのか?」
女性職員が何か言う前に、ムネチカが「はい」と答える。
「ふむ……。領主の息子が襲われそうになった。しかも怪我をしている」
不穏な気配が流れる。
「ここは潰れるかもしれないな」
矢張りか。
「にいさま」
「ん? なんだい?」
「たしかにしょくいんにおそわれたのはじじつですが、しょくいんにたすけられたのもじじつです」
「まぁ、確かにね」
先を促すエセルバード。
「ただの、いっぱんじんであれば、このようちえんのせきにんであったかもしれません」
「! と、いうと?」
「このおとこ、かんじゃですよ。ね? せーんせっ」
逃げようとしている男を捕まえるムネチカ。
「ッ!」
「どこのてのものですか? まさか……、」
「くっ! ああそうだよ! 俺は間者だ! そして、標的は、……お前だ!」
ムネチカの首を掴み、持ち上げる間者。
「ムネチカ!」
間者が勝ち誇った笑みを浮かべる。
「このていどで……」
「?」
図に、乗るなッ!
間者の腕に巻き付き、外側に捻る。
「ぐあッ!」
「てやっ!」
地に足が着くと同時に背負い投げを噛ます。
「か、確保!」
エセルバードが動揺し乍らも間者を捕らえる。
しまった……! 亦やってしもうた!
挑発には引っかからないが、ああいう勝ち誇った笑みを向けられるとつい……。
嗚呼、どう言い訳するか……。
「ムネチカ……」
「は、……はい」
エセルバードがムネチカの前に立つ。
「良くやった!」
「……へ?」
「ムネチカが気づいて止めなければ、恐らく逃げられていただろう。それに、この幼稚園が潰れる所だった。……だが、あまり危ない事はしないでくれ。今回は助かったが、次はどうか分からない」
優しくムネチカの頭を撫でるエセルバード。
「あなや……」
「ん? 穴?」
「あ、いえ。……わかりました。きをつけます」
「止める訳では無いんだな……」
乾いた笑い声を上げるエセルバード。
追求はしてこないのか……?
「あ、今見た事は全て父さんに話すからね」
エセルバードが完璧な笑みをムネチカに向ける。
「は、ははっ……」
あなや……!