第五話
ふと、何かが動く気配を感じるムネチカ。
周りを見渡すが、何も動いた形跡は無い。
“物”では無いのか……?
ふむ……。
ムネチカは集中し、正体を探る。
これは……。
霊力に近い何か、だな。
動いたモノの気配を探り当て、男性職員が術を放とうとしているのが分かった。
気づいた瞬間、女性職員を押しのけ、立ち上がって手を振り下げようとしている男性職員の鳩尾に掌底打ちを放つ。
子供とは思えない威力で放たれた掌底打ちは男性職員がくの字に降り曲がって吹っ飛び、硝子を割って更に後ろにある大きな柱にぶち当たる程。
「ふー……」
ゆっくりと構えを解く。
そして、振り返り唖然としている女性職員を視界に入れ、冷や汗を流すムネチカ。
しまった。
怪我をしてしまうと思うて咄嗟に体が……。
「ムネチカ様……?」
「……なんですか?」
腹を括るしかないか。
「ムネチカ様は……、神童、ですか?」
神童?
「それは、なんですか?」
「神童とは、幼い頃から魔法が使えたり、武術に優れていたりする者のことを言います」
まほう?
「まほう、とはなんですか?」
「魔力を糧に生物が起こすあらゆる現象を言います」
術と同じようなものか。
否、術は特別な札や数珠等を通して発動する。
先の男が発動していた時、男は自分で魔力を集め、発動させていた。
術とは似て非なるもの、という訳か。
それに、生物が、と言っていたな。人間が、とは言わなかった。
ということは、人間以外に知能ある者が居るということになる。
考え込んでいるムネチカをじっと見つめる女性職員。
これは、本を読み漁るしかないな。
む?
二人の目が合う。
「今の説明で、理解出来ましたか?」
「……ええっと……。まりょく? をつかって、……すごいことができる!」
女性職員が転ける。
「?」
「あぁ、いえ。……そうよね、こんな近くに神童が居る筈無いわ。さっきのはまぐれよまぐれ」
誤摩化せた、か……?
まあ、そのままでも良いのだがな。動き易くなる。
が、それはそれで面倒臭い事になるだろう。
「……せんせい、このせんせいは、どうするのですか?」
「あ、あぁ、そうですね……。先ずは騎士団とムネチカ様のご両親にこの事をお話しなくては。ムネチカ様、さっきの出来事をお話出来ますか?」
「はい。だいじょうぶです。おくのへやでねているこたちがおきないうちに、すべてすませましょう」
「え、えぇ……」
驚き半分、落ち込み半分、といった所か。
「……だいじょうぶですよ。ここがつぶれる、なんてことにはなりませんから」
「え……?」
「さ、いきましょう」と女性職員の手を引き外へ出るムネチカ。
同時に、他の職員が騒ぎを聞きつけて来た。
「ど、どうかしましたか?!」
「しーっ。ほかのこがおきちゃいます」
「あっ、し、失礼致しました。それで、何があったんです? ユリア先生」
女性職員、基、ユリアに答えを求める職員。
「それがですね……。詳しい話をまだ聞いていないんです」
「そうですか。ではムネチカ様、何があったか教えて下さいませんか?」
「はい」
先の出来事を話すムネチカ。
「申し訳有りませんでした。まさか職員が園児に手を出すとは……」
「いえ。だいじょうぶですよ。あ、きしだんのかたがたですかね?」
謝る職員の後ろに騎士団と思われる甲冑を身に纏った者が三人。