第四話
……ふむ。
ムネチカは夢中になって本の世界にのめり込んでいった。
そして、ムネチカをじっと見つめる職員。
ムネチカは一冊読み終わり、次巻を探す。
「あ」
次巻はムネチカの手の届く距離にはなかった。
棚の一番上の段にあったのだ。
「どうしました?」
「ほんがとれなくて……」
「あれです」と指差したのは大人でも読むのを遠慮しそうな歴史書。
「じゃあ、俺がムネチカ様を持ち上げますので」
「ありがとうございます。おねがいします」
ムネチカの両脇の下に両手を入れて持ち上げる職員。
「取れますかー?」
「うーん、もうすこしひだりにおねがいできますか?」
「左ですね」
左に動く職員。すると、何かに躓いたのか、よろける職員。
「わわっ!」
ムネチカを守るように抱き込み、後ろに倒れる職員。
「だ、大丈夫、ですか……?」
「せんせーこそだいじょうぶですか!?」
「大丈夫ですよ。ムネチカ様に怪我が無いか見なくては……」
そう言うと、職員はムネチカの体を触り始めた。
「せ、せんせー、くすぐったいです……」
「大丈夫ですよ、すぐにヨくなりますからね」
……様子がおかしいな。
鼻息が荒いし、何処を見ているか分らない。
「せんせ、っん!」
いきなり口吸いをするとは……。
否、そう言っている場合では無いな。
此奴から離れなければ。
藻掻くムネチカ。
しかし、大人相手に今は子供の体のムネチカ。力の差は一目瞭然。ムネチカの行動は、職員を煽ることしか出来ない。
「ムネチカ様、綺麗な肌してますよね……。美味しそう」
底知れぬ悪寒を感じたムネチカ。
「噛んでも良いですか? 良いですよねぇ、ムネチカ様」
返事を聞かずに顔を首筋に近づける職員。
「せ、せんせい……?」
「そんなに怯えなくて良いんですよ。気持ち良くさせてあげますからね」
かぷ、と噛み付かれるムネチカ。
「いたっ……!」
顔を歪めるムネチカを見て嗤う職員。
「噛み跡つーいた」
狂ったように笑い始める職員の隙を突き、扉まで走る。
「ま、待てっ!」
慌てて追いかけてくる職員を横目で見、腰を落として構える。
そして扉を見据え──、
「ふっ!」
──蹴破った。
物凄い音と共に倒れた扉を飛び越え、教室へ戻るムネチカ。
「た、たすけてっ!」
乱れた服を抑え乍ら慌てて教室へ入ってきたムネチカを見て、ただ事では無いと思った女性職員。
直ぐにムネチカを入らせ、背へ隠す。
直後、ばたばたと音を立てて教室に走り込んでくる男性職員。
「はあっ!」
「がッ!」
女性職員が飛び、空中前転からの踵落としを男性職員に決める。
動きに無駄が無かった……。相当の手練だな。
「お怪我はありませんか!?」
駆け寄ってくる女性職員。
「だいじょうぶですよ。すこしかまれただけです。たすけてくれて、ありがとうございました」
「そ、そんな。子供を守るのは当然です。私は大人ですから。それより、噛まれた所を見ても良いですか?」
噛まれた首筋を出すムネチカ。
「血が出ていますね……。失礼します」
何処からとも無く包帯を出し、傷に巻く女性職員。
「てぎわがいいですね」
「元冒険者ですから」
だから動きに無駄が無いのか。