第十六話
アーサー、ヴィオラ、エセルバード、ムネチカの姉でオリンピアの妹のカティーナ、ムネチカで食事をしていた。
楽しく談笑し乍ら食べている家族の中、ムネチカだけは暗い顔をしていた。
嫌な、予感がする。
何か、大切なものが、壊れてしまう様な……。
ふと、小さな悲鳴を聞き取るムネチカ。
思わず立ち上がってしまう。
「ど、どうしたの?」
「あ、いえ……、ッ?!」
突然胸を抑えて蹲るムネチカ。
家族や使用人が駆け寄る。
『あああぁあぁぁあああああああッッッ!!』
確かに、聞き取った。
此の、悲鳴は……!
「いまの、つるぎッ!」
人を押し退け、自室へ駆ける。
近づくに連れ、誰かの笑い声が聞こえて来る。
「あっはは! やってやったわ!」
「何をしているッ!」
部屋に駆け込む。
オリンピアが居る。
足下に、見慣れた鈍色が転がっていた。
しかし、其れは輝きを失っていて。
罅が、入っていて。
折れて、いて……。
「いまの、つるぎ……? っ……。ぁ……、あ……! ッああああああぁぁぁぁぁああああああ!!」
オリンピアが吹っ飛び、壁に叩き付けられる。
ムネチカが重力魔法で重力を操ったのだ。
泣き叫ぶムネチカ。
遅れて部屋に入って来たアーサー達が其の光景に絶句する。
「きさま……っ! 貴様ああああああッ!」
ムネチカの悲痛な叫び。
其れを聞いて我に帰ったアーサー、ヴィオラがムネチカを止める。
「止めろ! ムネチカ、正気に戻れ!」
声を掛けるも、泣き叫ぶムネチカには届かない。
「何故……! 何故っ今剣が折れなければならなかった! 俺が憎いのならば、俺を狙えば良かろうッ! 何故、何故、今剣なのだ?!」
悲しみ、怒り、様々な感情の籠った言葉、叫び。
あまり感情を表に出して来なかったムネチカの其れを聞いて、唖然とするアーサー達。
更に重力を強くし、オリンピアが壁に埋まる。
「! 止めろ! 止めるんだムネチカ!」
アーサーが気を取り直し、再び声を掛ける。
「高が武器一つで怒ってどうする?!」
アーサーが言った。言ってしまった。
ムネチカが其の言葉に反応する。
其の反応を良しと見たのか、更に言うアーサー。
「武器等、また作ってもらえば良い! 俺が金も出す! だから、?!」
ふと、ムネチカが振り返る。
其の顔は、迚も子供のする表情では無かった。
大人の、百戦錬磨のアーサーでさえ、後退り、恐怖する程。
「高が……? 亦作れば良い……? 金を出す……? 何を言って居るのだ?」
ムネチカから濃密な殺気が放たれる。
使用人が一人、亦一人と倒れて行く。
「此の子は、今剣は、俺の子達は……、生きて居るのだぞ? 我が子を殺されて……、高が、亦作れば良い、金を出す、等と言うのか? 今剣は、俺の子だ。大切な、俺の子だ! 此の世界に産まれ落ちて、此れからという時に、今剣は、殺されたのだぞ……? 我が子を殺されて、怒らない親が何処に居る」
先とは打って変わり、静かに、静かに涙を流すムネチカ。
「ムネチカ、お願いよ。オリンピアを解放してあげて!」
涙を流し、ムネチカに懇願するヴィオラ。
ムネチカは渋々解放し、今剣の残骸の前に座った。
オリンピアを壁から降ろし、治療をするヴィオラ達には目もくれず、ムネチカは今剣を静かに見下ろす。