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レベル99のゴブリン  作者: 明星
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第21話

少年は1人来た道を引き返していく。

腰にぶら下げているのは長剣と短剣。

その短剣を抜いて右手に持つと、少年は木の幹に傷を付けながら歩いている。

なぜならまたこの場所に帰ってこなければいけないからだ。

多少の剣の訓練をしてきたとはいえ片腕しかなく、そしてこれが始めての実戦だ。

ここには自分の身を守ってくれる者はいない。

いや、今は自分が人を守る立場にあるのだ。

だから必ずゴブリンを倒し、少女のところへと帰らなくてはならない。

その道標として、少年は木の幹に傷をつけているのだった。


少年は目を細めて辺りを注意深く見ながら歩いている。

今はまだ見える。大まかな葉の境が分かるし地面に落ちている枝などの判別もできる。

目が覚めた初めの頃は大変だった。

十数年間あるのが当たり前になっていた眼鏡がなくなり、何をするにも恐ろしくて仕方がなかった。

今でも夜は駄目だ。あっちの世界よりも尚暗いこっちの世界の夜はとても出歩けるものではない。

しかし昼間の、太陽が出ている間であればほぼ問題なく過ごすことができる程度には慣れてきた。

だから今回も日が暮れるまでにゴブリンを見つけて決着をつけなくてはいけない。

少年はゴブリンの方から見つけてもらう為に敢えて音には気を使わなかった。

普通に歩きわざと葉を揺らす。身に付ける防具が音をたてるのもそのままにしていた。

「いきなり襲い掛かってくることはないはずだよ」

と赤い髪の女戦士は言っていた。

もともと平原に住んでいるあの生き物は、まずこっそりと忍び寄って来るのだそうだ。そして自分が勝てると判断した相手にだけ襲い掛かるのだと教えてもらった。

そして本来は単独では狩りを行わない。常に仲間とチームを組んで狩りをする。

しかし今回の相手は1人だ。

臆病な生き物が1人で狩りをするのだとすれば、尚更突然襲い掛かってくることはないだろう、と少年は予想しているのだ。


なぜこの地が忌み地と呼ばれているのかを知っている者はいない。以前は語り継がれていたのだろうが、今ではこの森に立ち入ってはならないという事実だけが残っている。

そんなだからなのか、森はとても静かだった。

前回もそうだったが、今回も森の中で生き物に出会うことがない。

もちろん全く生物がいないわけではない。虫や爬虫類、両生類などの存在は確認できる。

しかし小動物やそれを餌とする猛禽類、大型の草食、肉食動物のどれ1つとして確認できていない。

それがこの森を忌み地とする理由の1つなのかもしれないが、今は都合がよかった。

なぜなら少し前から少年の右後方から何かがつけてきているのが分かったからだ。

静かで自分から出る音しかしていなかったが、途中から別の足音が聞こえ始めた。

自分以外にいるとしたら少女かゴブリンだけだが、こっそり隠れてつけてくるのならばゴブリンで間違いないだろう。

「戦いやすい場所にいかないと」

と少年は独り語ちる。

こんな狭い場所で戦うには相手の持つ短剣の方が有利だ。

少年だって短剣を持ってはいるが、戦うのなら少しでも有利な方がいい。その為に持ってきた長剣なのだから、できるだけ広い場所で戦いたい。

いつ襲われるか分からない緊張感の中、少年は常にゴブリンを気にしながら前を見て歩き続けるのであった。


そんな少年をゴブリンは追い掛ける。

武装している人間相手に逃げ出すことをしないのは、目の前の人間に違和感を覚えるからであった。

見た目は強い人間で間違いない。硬いものに身を包み、よく切れる長い武器を持っている。

仲間を散々殺し、棲みかから追いやった強い人間。

それに間違いはないはずなのだが、なぜかゴブリンはその人間が強いとは思えなかった。

それは歩き方なのかもしれない。短剣の振るい方なのかもしれない。あの、表情なのかもしれない。

何が違うのだろう。見ただけで身のすくむ強い人間とあの人間とでは、一体何が違うのだろう。

そう考えていた時にふと頭を掠める記憶があった。

ぱっと浮かんでぱっと消えた記憶を捉えようと、ゴブリンはもう一度考える。

どこかで見たのだろうかと。どこかで会っているのだろうかと。

そして、ついに思い出した。

あの顔を見たことがある。会ったことがある。

ついさっき思い出していた間抜けな人間の顔と目の前を歩く人間の顔が、今完全に一致した。

あれは崖から落ちた人間だ。崖から落ちて死んだと思っていたが、生きていたのだ。

ということは、あれは強い人間ではなく弱い人間。

格好だけは一丁前だが、その中身は勝手に足をもつらせて崖から落ちるような間抜けな弱い人間。

少年のことを思い出したゴブリンは久しぶりに楽しい気持ちになってきた。

殺し損ねたあの人間をもう一度狩ることができる。そしてその暁には今持っているものよりも上等な武器を、更には身を守る硬いものをも手に入れることができるのだ。

こんな機会は滅多にない、とゴブリンは醜く笑って短剣を逆手に持ち直したのであった。

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