ガメても、犯罪にはならないけど
「ピュイっ!」
そいつでラストだあっ!
この場所を締めくくるのにふさわしく、戦端を切り開いたダーラが、壁に直突きを打ち込んでいた。
小さな肉がつぶされ、儚い苦鳴のような声とともに、岩に血がはり付けられる。
「すみません・・・私の不手際のせいで、とんだお手間を・・・」
ここの主は、どうやら『狂いネズミ』という、獰猛な集団動物のようだった。
その大型の巣穴に迷い込めば、肉食獣でも躊躇なく殺すといわれる、齧歯の死神だ。
「いや、どのみち乱戦はさけられなんだろう。ダーラどののせいではござらん」
始めはシアンが一撃で焼き殺す魔法を使おうとしたのだが、彼女はそこで、自分がやりますと言い張ったのだ。
私は魔術師としてこのお仕事に加えて頂いているのです。それを怠れば、自分の価値はないも同じーー
皆は大車輪の働きをした彼女にはもう休んでほしかったのだが、そこで傭兵ーーいや、ウィザード(自称)は、”ローファイア”という、戦場を阿鼻叫喚の渦に変えてしまう魔術をたたき込んだのだった。
・・・もちろん、彼女にとっての最強魔法で、シアンにとっては最弱レベルの呪文である。
「ーーしかしまあ、無事に切り抜けられてよかったよ」
いちおう先輩としてのフォローを入れながら、彼は頭のうしろを掻いていた。「下手をしたら、半月くらいは探索しっぱなしだったかもしれないしさ」
「・・・はい」
これほどの規模の巣窟を、三日とかからず攻略できたのは、運がよかったとしか思えない。
ダーラはそこで、ノノをちらっと窺うような動きを見せたが、青年はさして気にしないようにした。
”妖精は、古来から人に幸運をもたらすものである”
そんなうさんくさい逸話を、シアンもどこかで聞いたことはあったのだが、実際ノノのような妖精に出会っても、どうということはない。
いまの彼女は、びびりながらネズミに近づき、まともな形で残った死骸の一つを、つんつん 突いているようだった。
ーーさすがに、これを食べるとかは言い出さないだろうな・・・。
シアンは心でそうつっ込むと、まだ握っていた剣もそのままに、肩をすくめたのだった。
「・・・ふほほ。
これできゃつらめを、また一つ追いつめることができましたな・・・。
ーー おまけにほれ、シアンどの。 敵はこのような光り物には、すぐ反応するような俗物である。 小さな体に似合わぬ、溜めこんだ宝石たちの巨大さよ ーー」
こっちはこっちで、僧侶が俗にまみれたように、壁の横穴をまさぐっている。
うーむ。
しかし、これらの多くは、依頼主であるハウザー家の運送品とかなんだからね?
・・・ほんのちょっと、酒代くらいなら、使っても怒られないかもしれないけど・・・。
もはや返す力が湧かず、青年はその両手いっぱいに受けとった宝石に、苦笑いしていた。