ヘカトンな僧侶
「おおっ!? そこにいるのは、ノノ殿ではありませんかあっ!」
その、青年たちにとって入国後の初戦闘に乱入してきた男は、信じられないような腕力をしていた。
先端が20㎏はあるんじゃないかというヘカトン級メイスを、苦もなく片手でふり回している。
ついに・・・ついに見つけましたぞおっ!
勝手にそう叫んで、敵の後ろから現れると、一体を輪から弾き出してしまった。
『ギィィッ!』
シアンと戦っていたはずの、無惨に胴を薙がれたブル=リカオンは、古木に激突して息を引き取っている。
「ああっ、リンドウさんじゃないですかあ!」
まだ2体のリカオン (キラー系)が残っていたので、妖精は離れた場所で手をあげていた。
・・・どうやら、敵ではないらしいな・・・。
ギョッとしたように固まっていたシアンだったが、なんとか平静を取り戻そうとしている。
「ーー!」
相手の位置は、正面、それに斜め左か。
そしてどこかのオッサンが浮き足立たせた相手に歩を進めると、片手切り下ろしから横突きに流して、2体をすばやく全滅させたのだった。
(・・・ノノ殿・・・。先ほどの剣技は、なかなか見事でござったな。もしやこちらが、探していたはずの眠れる戦士・・・)
「いや、どう考えても《戦士》はアンタだろうよ」
青年は頭をぼりぼりと掻きながら、答えていた。
さっきの戦闘をどうにか終えて、妖精と男が抱き合うように喜ぶのを眺めたので、気持ちはすっかり参っているのだ。
・・・とんだコントを見せられたものだが、身体の分厚さ、腕力、タフネス、どれをとってもまるで勝てる気はしない。
いったいどんなパロディーチョイスで仲間が選ばれているのか、青年にはさっぱり分からなかった。
「ん? どうしたのですかな、シアン殿とやら!」
もう付き合ってられん、というようにシアンは目をそらしていたのだが、そこは相手も困惑しているようだった。
「いったいあなたは、なにを考えておられるのやら・・・。それがしは、僧侶以外にありえないでござる。
ほら、その証拠に背中のバッグには薬草が60本も・・・回復魔法は使えませんが、そのぶんメイスで敵を屠りまくりましょうぞ!」
「だから重戦士だよそれは!!」
もう突っ込む気力もなくして、シアンはその場にへたり込んだのだった。
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いや~。ノノ殿とはぐれてから、あっちこっちと旅しましたが、まさか故郷に帰ってきているとは思いませなんだ・・・。
リンドウと呼ばれた僧侶は、いかつい鉄型の鉢巻きをたたいて、恥ずかしがっていた。
「この向こうで、洞窟を発見しましてのう。
こりゃあ魔物が多いわけじゃあと思って、皆殺しにしておったらポコッと外に出られましたわ!」
あっはっは!
二人は意気揚々と笑っていたのだが、青年だけはどうも軽いノリについていけなかった。
そもそも、屋台や魔物を見つけるたびにいなくなってしまう仲間がいては、パーティーが維持できるはずもない。
前の冒険のときもそうだったが、どうやらシアンは、今回も一人で奮闘せねばならない予感がしてきた。
「・・・それで? その洞窟のボスは倒せたのか? この辺のモンスターだけを見ても、けっこうなレベルの敵がいた気がするが・・・」
たいていの場合、居心地のよい住処を見つけた魔物たちは、取り合いになってボスが生まれる。
そして、この国ではまだ ーー というべきなんだろうが、冒険者らは名声なんかを得ようとして、逆に宝を奪われていったりするのだ。
「毒消し草が2つと、薬草が1つ手に入りましたな」
中年のリンドウは、バッグに手を回してうなずいていた。
「少し変じゃと思うたのだが、外にいる敵よりも、むしろ洞窟のモンスターの方が弱かったのではなかろうか・・・」
「・・・?」
青年もそれは確かにおかしいと思ったのだが、彼もそれほどこの地に詳しいわけではない。
自分の経験だけで、安易に答えを出せるはずもなかった。
「さあ。そんなことより、我がハウザー家が見えてまいりましたよ~」
そこで妖精がかけてきた言葉で、二人の思いは中断されたのだった。
「おお・・・」
「いつ見ても、あの屋敷は公園のようじゃのう」
この地の王族は、自らが狩猟を行わない時は、民に憩いの場として手入れされた森や、草原を解放している。
丘の上から見下ろすハウザー家は、もはや一介の商人ではなく、そういった広大なスケールの町並みを所有していた。
・・・ふふん!
べつに自分が何をしたわけでもないのに、ノノは小さな胸を張っている。
わき腹をぐいっと突いてやると、「何するんですかぁ!」と両肩を怒らせて反応していた。
・・・いや・・・。なんかイラッとしたのでつい・・・。
シアンはそう答えて歩き始めるが、実のところ今回の旅を、それほど危険なものだとは考えていなかった。
何しろ、前にした冒険より苦労するはずがないのだから。
(一周ラスボスを倒して、クリアしてる人間の本気を知ったら、二人ともびっくりするだろうな・・・)
呑気にそう微笑みながら、自称”勇者”のいる豪邸へと向かったのだった。