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「ーーああっ。シアンさん、ついに見えてきましたよ。何かいろいろ寄り道しちゃった感じがするけど、やっと帰ってこれたんですねえ・・・」


「そうだなあ・・・」

シアンは、自分の頭の上に乗ってもすっかり違和感のなくなった妖精に、しみじみとうなずいていた。

彼らは今、二人だけで始まった旅路に、もうすぐ別れを告げようとしていたのである。

(アシューの措置はかなり反対されたけど、あれはたぶん、間違ってないと信じたいよな)

青年は、自分のなつかしい故郷を眺めながら、旅装を正していた。


あれからーー

スレイブ=キマイラを倒した後、シアンは仲間たちに、ある提案をしたのである。

・・・それはもう、ダーラを筆頭に、猛反発を食らうような内容の話だった。

『アシューを、これからも生かしておいてくれないかーー?』

一瞬何を言われたのか分からず、目を「はっ?」と見開いたダーラが、みるみる青ざめていくのを青年は止めることになった。


それは誰のためでもない、ローデンシアと、スターブルクにとって、現状では最高に平和をもたらす提案なのだった。

「確かにこいつは殺されて当然の存在だけど」

粛々とシアンは説明している。

彼のわずかな友達の、というか元パーティーにいた、思考のとち狂った魔法使いの言うことにはーー。


魔物は昔から人間にとってのガンと同じで、いくら外科的に取り除いても、生活習慣(政治・思想)が変わらないかぎりは似たようなもの(悪意)がいくらでも現れるという、宇宙の法則らしい。

そして、ここで何より大切なのは、ローデンシアが大妖を”飼っている”という情報が伝わった時の、軍事的効果についてである。


・・・自然主義(ファンタジー)色が濃いこの国は、簡単な武力で手に入る資源地として、周囲からはおいしいエサのように思われてきた。

そこで、唯一の古き”隣国”として同盟を結んできたスターブルクによって、うまく平等な貿易を行ってきたのだが、現在ではそうもいかない。

ウチの国(スターブルク)も、今は魔王軍による壊滅から立ち直っての日が浅いから、軍人は新兵ばかりだからなあ・・・。だから、もちろん「人間には手を出さない」、という制約つきで、アシューを生かしておいて欲しいんだよ」

シアンはそう願っていた。


それを聞いたダーラだけではなく、リンドウまでが悩ましく上を向いていたが、一つだけ質問されてしまった。

「・・・でも、それではローデンシアにメリットはあっても、シアンさまの国にはさほどとくがないのではありませんか? むしろ、隣国に爆弾を抱えることになって、危険になるのでは。同盟の助けを切って捨てた国なんて、もう二度と信用される価値はありませんし」


その意見は手厳しかったが、青年も苦笑を返すしかなかった。

「だから、今回アシューを倒したのは、ウチの国からの密使ということにしてほしいんだ。国策としては無視するしかなかったけど、ちゃんと奴を倒すのは協力したって、それとなく『ハウザー家』でも通して」

なんと言っても仕事の依頼主は、中央都市にも通じているような、豪商である。

依頼料をいくらかまければ、それくらいの頼みなら聞いてくれるだろう。


そのとき隣で小さくなってヘコヘコしていたアシューは、「向かってきた冒険者になら手を出していいからな」と言われてホッとしているようだった。

「あっ、そうですか? アイツらは、勝手に人の領分を侵してきますから・・・。ほんとに、どこにきょを構えても、ゴキブリみたいにダンジョンに入ってくる有様で」

そんな暴言を吐く大妖のオデコをたたいて、青年はハウザー家のある街『サドン』、そして家路へと、ついて行ったのだった。




うーむ。

そんなこんなで、後始末はほぼ向こうにまかせて帰ってきたんだけど。

これで良かったと、胸を張って言えるのだろうか・・・。

峠の上から村を見おろしながら、シアンはいまだにくすぶった気持ちを抱えていた。

もうちょっとキッチリ話を詰めてから帰りたかったが、彼の手に握られた紙が、それを許してくれなかったこともある。


「シアン、チチ() キトク、デハナイガスグカエレ」

短く印字された急報が、彼の手元にはあった。

とっくに父を亡くしている青年にとって、これは悪い冗談にしかならない。

だが、それでもシアンにはたった一人、貧乏のどん底にいた時に、親代わりになって助けてくれた人がいたのだ。

「タコ焼き屋の伸さん・・・。まさか、異常でもあったんだろうか」

これまでのどんな時より嫌な予感を感じて、彼は村へと帰郷することになった。

旅路は、おそろしく速かったのだが、

「・・・シアンさん。私も、そろそろ去らねばなりませんね」

村の全景が見渡せる場所にくると、今度はノノとの別れも待っていたために、青年はそこでためらっていたのである・・・。



ーー凱旋帰国が一人では、あまりに寂しいではありませんか。



そう言って、故郷まで同行してくれた無職のノノだったが、やはりシアンも、彼女がいなくなるのはあまりに虚しかった。

「お前は、いい旅仲間(パートナー)だったんだけど・・・」

いつものように、青年は真面目な会話になると弱くなる。

「ーーきっと、さらに必要としてくれる人間は、ローデンシアにいるんだよな」

伝えてから微笑むのがやっとだった。

妖精は、また彼女もおなじみのように、にっこりと破顔して答える。

「そんなあ! 別にエステルさんだって自由にしてていいよって言ってくれてるし、ただ食べ物が美味しいからあそこに帰るだけですって!」


どすっ、と転びそうになって、シアンは手荷物を取り落としていた。

ま・・・まあ、始めから終わりまで、こういうヤツだよな・・・。

彼は気を取り直して、その長めの腕を前に伸ばしている。

そこにノノが小さな手を合わせて、お互いに強く握りあったのだった。

去り際に彼女が残した言葉は、やはり妖精(フェアリー)だったからかもしれない。

『・・・国を二度救い、そして再びその二つに橋を架けようとしたあなたに、幸運を』


・・・君がいてこそだったよ。


青年はそう返事をして、軽く手をふったのだった。





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