お互い様でいこう
「はふう・・・。はふう・・・」
まるで熱帯地域のような暑さの中、二人は山道を進んでいた。
息を切らしているのは、なぜか空を飛んでいる妖精だけで、シアンの方はわりと平気そうに歩いている。
「なあ・・・。何もこんな活火山を越えていかなくても、普通に平野を抜ければよかったんじゃないか?」
彼らがいま苦労しているのは、『サラマンダーの尻尾』と呼ばれる、活火山脈のはずれの横断である。
汗で萎れかけている羽を懸命にふりながら、妖精は答えていた。
「だって、もし『ゴールドエンド』・・・いえ、正確には、シアンさんの国は“スターブルク”って名前でしたっけ・・・から密入国してるのがバレたら、わがローデンシア国に迷惑がかかるじゃないですか。ーーいや、何の魔物対策もしてくれない政府はいいとしても、私の主である勇者さまには、負担をかけられません」
なかなかいじらしいことを言って、ノノと名乗った彼女は、両手を前に出している。
その飛行体勢は、どうやら古来より〈スーパーマンスタイル〉と呼ばれているらしいが、そんなことはどうでもいいシアンは、ぴたっと妖精の羽を捕まえていた。
「!」
じたばたと暴れ出し、自由になろうとするノノを、肩にのせて速度を上げる。
「俺たちの国じゃあ、ほとんど見かけなくなっちまったけど、キミらは確か、人間でも一人だけなら仲良くしていい決まりだったよな?」
スタスタと軽快に山道を歩きながら、青年が言う。
「そうですよ。そう限定しておかないと、絶対に悪人を輪の中に加えてしまいますから・・・」
ノノはしょぼんとしているが、楽に進めるようになったので、悪い気はしていない。
「まあ、俺のことは利用していると思えばいいじゃないか。
その勇者さまのために、少しでも早く魔物を倒したいんだろう?」
「・・・そうですね。それに、シアンさまは以前、麻薬を密売していた極悪人ですもんね! たしか『神曲薬』とか! 」
くっ。
せっかく気を使ってやったのに、いらん過去をほじくり返してくるとは・・・。
まあそれでも、めんどくさい2度目の冒険をやっているより、用事を済ませてはやく帰れる方が良い。
(なんせ、俺にとっちゃあ周回プレイみたいなもんだからな・・・)
彼は、今回の旅を、そんな風に思っていたのだ。
『ただ待つことが、一番難しい』
成功者たちが、ときどき口にする言葉である。
シアンは、この時すでに大金持ちへの切符を手にしていたのだが、それは今の彼にとって、密入国用の通行手形より価値がないものであった。