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夜明けのヴィーグリーズ

荒野の星空は、いつだって流星よりもはるかに落ちてくる。


街にいると感じられないものが、すこし喧騒を離れた場所に移動するだけで、あふれるくらいに身体や大気に満ちていることを教えてくれたりする。

(・・・こんな時に、ホッとしたような気分になるなんてな)

闇が徐々(じょじょ)に洗われ、空が薄らんでゆくのを見ながら、シアンはどこかくすぐったいような思いを感じていた。


朝焼けの雲は、今にも消えてしまいそうなほど かぼそいが、鮮やかに色づいている。


ーー彼は、前の旅を終えてから、夜にまともな眠りを取ることができなくなっていた。

(何でなのかは、自分でも分からないけど・・・)

ただ、夜襲を怖れたような過去より、平和を取り戻したあとに悪夢がやって来たのは、やはり魔物にもちゃんと意思があったということなのだろう。

(必要のない奴まで、かなり殺したもんな)

長いあいだ、そんなことを考える気持ちも持てなかった。


もともとは、”異世界”で生まれたとされる堕天使 ーー この大陸の魔物 ーー は、福音で満たされるこの世では、力が半減してしまう。

それでも脆弱な生き物ばかりのこの世界は、彼らにとって格好の狩り場だったらしい。

「本当は、異世界(あっち)で勝ち残れずに、逃げてきたような奴らみたいだけど・・・ときどき先祖返りみたいに、くそ強い”魔王”なんかが出やがるしな・・・」


人は邪神など、圧倒的な力にはおびえ、ゆがんだ願望すらそこに重ねてしまうものだ。

だが、度が過ぎればどうにかしようという、『世界の意思』が働く。


・・・どこまで力は、幅を効かせていいのか。

シアンもきっと、それを間違えて世の中から弾き出されてしまったのだろう。







「お早いですね」

ふいに澄んだ声が耳に届いて、青年は後ろをふり返っていた。

小高い山のようになった岩場に、ダーラが登ってきているところだった。

「夜襲があるかもって、言い出したのは俺だからね」

ふっとシアンは表情をくずしたが、同じ岩に跳びのってきた彼女は、いつものような無表情をしたままである。


「こちらが ”待ち受けている” というような雰囲気は、ちゃんと生物の波長として、周りに届いてしまいます。

・・・モンスターなんかは、特にその辺は敏感ですし・・・」

ふむ、と青年がうなずいているのを見て、ダーラは謝っていた。

「すみません。私の知らないような経験をされてきた方に、こんなこと」

「いや」

どんな思いを経てきたとしても、初心への忠実さに守られることはある。

青年は、気持ちよく両腕を伸ばしていた。

「ダーラさんがいてくれて、ずいぶん楽させてもらったよ。俺はこれまで、パーティーメンバーに恵まれたことなんてなかったから」

「でも、魔王を倒された一団を率いたのでは・・・?」

「ああ・・・」

あいつらは今、なにしてるんだっけ。

たしか、本物の《戦士》は、最後の闘いで俺においしい所をもって行かれたとかで、”真・魔王”などというものをさがして各地を放浪している。

あとは膨大な魔力を込めた石を売って、人に不幸と狂喜を撒き散らしてる《魔法使い》がいたし・・・。


「まあ俺らのことはいいよ。それより、朝飯の準備をはじめたみたいだね。ーー 下に降りようか」

その時、フライパンで卵を焼く心地良い音と、かすかに干物をあぶる焦げを感じて、シアンは顔をそらしていた。

朝からしっかり働いてくれるのはいいが、あのコンビはどうにもこう・・・。

ほうっておいたら、また肉類をがっつりせしめて、こちらの食卓には草オニギリを並べるかもしれない。

「どうぞ。われらが旅路には、過分すぎるはなよ」

岩山から飛び降りて、青年は困ったような顔のダーラに手を貸し、仲間たちを叱りに向かったのだった。









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