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 こんな稚拙なもの…。

 出来上がった試作表に、ただただ激しく落ち込み、今すぐ消えてしまいたくなる。

 透明人間になって、誰にも見咎められずに家に帰ってしまいたい。

 小学生の方が上手く作れるんじゃないかと思ってしまうレベルのエクセル表は、行間だけがやたらと幅広く取られていてスカスカな印象だ。

 作成者の脳ミソのスカスカっぷりと同じく。

 自分の不出来さ加減に相応しい落ち込み加減にすべく、更なるダメ出しの材料を探しているところに、わあっと華やかな歓声が上がって、わたしは思わずその方向に目を向けた。

 出た。

 そこには一条さんを中心にして、女性正社員達が談笑している。

「さすが部長、太っ腹ー」

「一条さんもお手柄よ。さすが転がし上手!」

 きゃいきゃい盛り上がっているのは、多分、というかほぼ確実にお茶菓子が差し入れられたからだろう。

 何を貰ったのか興味がない訳では無いけど、仕事を放って輪の中に入って行けるほど図々しくはないつもりだ。だから仕事に集中しなきゃ。

「多加木さーん」

「はいっ!」

 弾かれたように返事をして声の主を見ると、森藤さんが手招きをしている。無視する訳にもいかないので、わたしは席を立って森藤さん達の所へ向かった。

 一条さんは一瞬緊張した様子だったけど、すぐににこやかに微笑む。

「役員から頂いたの。この部署では新入社員から選ぶ決まりなのよ。だからまず多加木さんから選んでね」

 老舗高級店のロゴが入っている洋菓子の箱を目の前に出されて、わたしは面食らった。

 丁寧に個包装された超高級菓子はどれも美味しそうで、何を選ぶべきかサッパリ分からない。そんなわたしに森藤さんが

「一条さんのオススメはどれ?」

 と話を振った。

「この中からなら、フィナンシェかしら」

「じゃあ私、それにしよっと。多加木さんも同じのにしない? 少し休憩しよう」

 ほぼ強引に食べるものと飲むものを決められて、わたしは作業スペースの一角に座らされた。

「え、でもわたし、仕事が…」

「どんな仕事してるの? 多加木さんが良く働くからって、佐藤くん仕事押し付けすぎなんじゃない?」

「いえ、会議資料のレイアウト変えたかったのはわたしのほうで…」

「会議資料のレイアウトを変えてくれるの? 助かるわ」

 お菓子を他の女性社員に選んでもらっていた一条さんが急に話に入ってきて、わたしはぎょっとする。

「資料の文字が小さすぎるって、地味に文句が多くて困っていたの。枚数増えてもいいから、もう少し文字を大きくしてって頼んでたのよ。やっと直してもらえるのね」

「あー、アレ。コレね」

 眼鏡を前後させる仕草をして、森藤さんがフフっと笑った。

「老眼、ですか…?」

「そ。特に数字の判読がキビしいらしいわ。読む相手が年寄りだっていう視点が欠けてるのよね、あいつは」

 同期の気安さからなのか、まるで上司のような口っぷりでのダメ出しだ。

 文字の、大きさ…。

「あ、あのっ」

「ん?」

「ご迷惑でなければ、佐藤チーフに見せる前に、見ていただけませんか? もし、ご迷惑でなければですが…。あの、一条さんの意見もぜひ参考にさせていただきたいのですが」

 一気にそこまで言うと、わたしははっとして我に返った。

 いけない。

 森藤さんとわたしのチームは担当している内容に接点が無いし、第一、契約社員は正社員の補佐なのに、わたしの補佐を正社員の二人に頼むのは、いくら何でも話が違う。

 なのに。

「今、どこまで出来てるの?」

 森藤さんがフィナンシェの最後の一口を口に放り込む。

「え? あ、いえ、まだほとんど…」

「そっちの方が都合がいいわ。イメージは固まっているんでしょう?」

 今度は一条さんが身を乗り出してくる。

「はい、大体…」

 その迫力に気圧されている間に、二人のお姉様方は完全に仕事モードでわたしのデスク前に集まった。

 うう…。もう少しマシな状態になってから見せるつもりだったのに。

 わたしはこわごわと稚拙な表を二人に見てもらう。

「もう少し文字ポイントが大きくてもいいわね」

「行間はこのくらいでいいんじゃない? あ、文字ポイントを大きくするならもう少し広くてもいいわね」

「一枚にムリヤリ詰め込んでるから、全体的に見辛くてしょうがないなぁ。情報の詰め込み過ぎで逆に判りにくいし。多加木さんはこのデータの所からページを変えようとしているの?」

「は、はい。でも、その次のデータからでもいいかなぁ、と迷ってて」

「そっちのほうがいいかも」

 一条さんがそうぽつりと呟き、森藤さんも頷く。

「じゃあ後は、二枚に分けた時の情報量の調整ね。切るべき情報はチーフの判断だから、多加木さんは取りあえず、スペースの確保だけしておけばいいわ。全体的なレイアウトは悪くないと思う。今までのものから思い切り変えちゃうと、それはそれで不評になるだろうし…馴染み深いところは残しておいて」

「はっ、はいっ」

 嘘みたい。

 ついさっきまで、駄目でどうしようもない表だと思っていたのに。ううん、永遠に完成することなんてないだろうと思っていたのに。

 もしかしたら完成しちゃう? それどころか…。

 褒められるかも、なんて思えてきたなんて。

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