第5話 任命式・後
任命式は、イニスが任命の言葉を告げた後、ルドルフにアスカが武器を奉げて終了となる。案の定、コンデルはアスカの刀に目を輝かせていた。
「では、これにて任命式を終了する。コアは残れ。後は、解散」
イニスの言葉に、全員が頭を下げる。
「アスカ。お前の刀。かっこいいな!」
コンデルは、終わるや否や、アスカの刀に飛びつこうとした。
「コンデル。アスカは耐性ないんだから驚かすな」
しかし、それをゼクスが手で制す。
「あ、あの、あなたは」
「俺様は、第7戦闘部隊隊長、コンデル・ジョーダンだ。刃物の醸造を行っている。お前のも、希望したら作ってやるぞ」
「アスカ・シノノメです。僕のは、これで大丈夫です」
アスカは、刀を大事そうに握る。
「えー。なら、銃もやってみない?」
エンデルが、コンデルの後ろから顔を出す。アスカは、急に出てきたコンデルと同じ顔の女性に戸惑っている。
「私は、コンデルの双子のエンデル・ジョーダン。第8戦闘部隊隊長よ。よろしくね」
「あ、よろしくお願いします。僕、刀しか使えないので」
「えー。もったいないなあ」
エンデルの頬が膨れる。
「武器はそれでいいかもしれんが」
ジャンが、双子を遮るようにアスカの前へ出る。
「部隊を異動する気はないかのお」
「は?」
アスカは、ジャンに対して、唖然とした顔を浮かべる。
「ちょっと、ジャンさん。アスカは渡さないと言いましたよね」
ルドルフが慌てて話に加わる。
ジャンは、それさえも面白がるように笑みを浮かべる。
「儂は、第9戦闘部隊隊長、ジャン・ケンブル。おぬしの異動はいつでも大歓迎じゃからな」
ジャンは、最後まで笑いながら去って行った。
「あれが、第9戦闘部隊の隊長」
アスカは、いまだ開いた口が塞がらない。
「強烈なキャラばっかりだろ」
セッカが、アスカの顔に苦笑いをする。
アスカは、セッカに対して、遠慮がちな笑みを返す。
「ああ。俺は、第5戦闘部隊隊長、セッカ・シャンチェル。んで、あそこにいる無愛想なのが第1戦闘部隊隊長、コージュ・ショークブルク。ゼクスの兄貴だ」
「あれが。あ、アスカ・シノノメです。よろしくお願いします」
アスカは、セッカに頭を下げる。セッカはその仕草に優しそうな笑みを浮かべた。
「お前ら、そろそろ帰れ。私は、コアに話があるんだから」
解散を言い渡したはずなのに、残っているコア以外の面々に、イニスが苦々しい言葉を吐く。その言葉は、軽いながらも、効果は絶大だった。
残ったコアは、イニスの前に並ぶ。
「さて、アスカ改めて入隊おめでとう」
「ありがとうございます」
アスカは、頭を下げる。
「実は、コアには入隊した新人特別の訓練というのがある」
「訓練?」
アスカは、不思議そうに呟く。
アスカ以外のコアの隊員は、例外なく嫌そうな顔をしている。
「お前ら、そんな嫌そうな顔をするんじゃない。アスカが不安に思うだろう」
イニスは苦笑いを浮かべる。
「アスカ。訓練というのは難しいことではないんだ。訓練の内容は」
アスカの喉が鳴る音が響く。
「訓練の内容は、全戦闘部隊の隊長に認められること」
「え、認められるって」
「強さを示す、ということだ。とは言っても、勝てと言っている訳ではない。アスカの強さをどんな形でもいいから認めさせればいいんだ。評価基準は、隊長各々違うからな」
ルドルフを除いた8人の隊長。どの隊長も、強者ぞろいだ。新卒のアスカが、純粋に勝てるわけはない。だから、アスカの強さを認めさせれば、合格となる。
「順番は、第9戦闘部隊から。そのまま、番号をさかのぼっていけ。つまり、最初はジャン、最後がコージュだ」
「何で、こんな訓練」
「コアは、戦闘部隊の中では一目置かれている。そのコアに在籍するんだ。周りの者を納得させなければいけない。他のやつらもやったんだ」
ルドルフ、レオ、ゼクスは苦々しい顔で頷く。おそらく、いい思い出ではないのだろう。
勝たなくてもいいとは言っても、認めさせるには相応の強さは必要となる。人が人を認めるというのは、そう簡単なものではない。
特にアスカには、戦闘の力はまだほとんどない。赤き制裁にもそう簡単にはなれない。それぞれの評価基準があるとはいえ、隊長たちを認めさせるのは、一筋縄ではいかない。
だが、訓練を受けないわけにもいかない。すでにアスカはコアの一員なのだ。
「分かりました。やります」
アスカの返事に、イニスが笑みを浮かべる。
「よし。では、今日は解散。アスカ、頑張れよ」
「はい」
コアの隊員は、イニスに向かって跪いた。
王室を出たコージュ達4人は、揃ってある場所へと向かっていた。
「なんで、貴様らまで来るんだ」
コージュは、無愛想な表情をさらに深める。
「アスカを見たついでに、もう1人も見たいからに決まってんだろ」
セッカは、そんなコージュの機嫌を全く気にしない。コンデルとエンデルは、若干恐れて後ろの方を歩いている。
そんな4人が立ち止まったのは、『第1戦闘部隊待機室』と書かれた扉の前だった。
コージュは、無言で開ける。
「あっ、コージュさん。お帰りなさい」
中には、1人しかいなかった。
「ラーク」
『第1戦闘部隊待機室』は、コアの待機室同様、2つの部屋をくり抜いて作られている。それは、単純に人数が多いからだ。そのため、部屋の中は大きい机と多くの椅子が置かれ、会議室のようになっていた。
ラークは椅子に座って、本を読んでいる。
「あれ?」
ラークは、本を置いて、コージュの後ろにいる3人に目を向ける。
「こんにちは。俺は第5戦闘部隊の」
「セッカ・シャンチェル隊長、ですよね。透明な守護者で有名の。で、そちらは、第7戦闘部隊、緋色の先鋭のコンデル・ジョーダン隊長と第8戦闘部隊、緋色の爆弾のエンデル・ジョーダン隊長。ですよね」
ラークは、笑顔で締めくくる。
セッカは、城の警備にあたる第5戦闘部隊の隊長。飄々として掴みどころのない性格から、透明な守護者の二つ名がついた。コンデルとエンデルは、その容姿と扱う武器から、緋色の先鋭と緋色の爆弾の二つ名がついたのだった。
セッカ、コンデル、エンデルは驚いた顔をしている。隊長の名前は、どこかで耳にすることはあるのかもしれない。しかし、二つ名まではそんなに聞くことはない。特に、コンデルとエンデルは忙しく、あまり人前に出ることはない。必然的に噂されることも少ない。
「さすが、笑う演出家」
セッカは、乾いた笑いを浮かべる。
「やだなぁ。それ、隊長の方々の耳にまで入っているんですか? 恥ずかしい」
ラークは、照れたように頬をかく。
「というか、何しにいらっしゃったんですか? アスカの任命式の帰りですよね」
「こいつら、お前を見に来たいと付いてきただけだ。もういいだろ、そろそろ帰れ」
3人から一斉にブーイングが生まれる。その様子にラークの笑みが深まる。
「仲いいんですね。特に、コージュさんとセッカさん。お2人は、カルラ・ストラスとも同期でしたよね」
ラークの言葉に、4人の顔が強張る。
「あれ、双子の隊長さんもご存じなんですか? ゼクスさんは知らなかったのに。さすが、隊長さんは違いますね」
「何で、新人のお前がその名前を」
「笑う演出家だから、ですかね」
ラークは、不敵な笑みを浮かべた。