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第4戦闘部隊~コア~  作者: きと
第1章 アリステル編
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第4話 任命式・前

 入隊の任命式には、イニス、配属される部隊の隊員、そして第1戦闘部隊から第9戦闘部隊までの隊長が集まる。どの新人がどの部隊に配属されたのかを把握しておくのと同時に、その新人が他の部隊から引き抜きを受けない牽制のためでもある。毎年必ず新人が入ってくる第1戦闘部隊を除いて、どの部隊も人員不足に悩まされているのだ。

 特に今回は、数年ぶりにコアに新人が入るとあって、アスカは注目の的だった。


「よお、コージュ。第1戦闘部隊は優秀なのが入ったんだってな」


「セッカ」


 すでに王室にいたセッカは、入ってきたコージュに話しかけた。

 第1戦闘部隊隊長、コージュ・ショークブルク。ゼクスの兄であり、32歳だ。ゼクスとは対照的に長い茶色い髪。冷静そうな顔。武器はゼクスと同じ、ナイフだ。各年の首席をまとめあげる第1戦闘部隊の隊長とだけあって、アリステルの五本指に数えられている。

 ちなみに、他の五本指はイニス、ルドルフ、そして第2戦闘部隊隊長と第9戦闘部隊隊長だった。


「お前の所は、どうなんだ?」


「こっちは全然だ。全く、第1戦闘部隊から1人くらい分けてくれてもいいのに」


 セッカは、呆れたように首を横に振る。

 第5戦闘部隊隊長、セッカ・シャンチェル。コージュとは同期、同年齢であり、無愛想で近寄りがたいコージュに唯一気楽に話しかけることのできる人物である。短い赤い髪に、灰色の瞳。色んな国の血が混ざっているらしく、考え方も1つに留まらずに様々な考えを持っている。そのため参謀としての力も相当なものだが、彼は自ら第5戦闘部隊を希望した。

 第5戦闘部隊は主にアリステル城の警備を任されている警備部隊である。オーリウスが攻めてきた時は、コアのように前線に赴くのではなく、城の守りに徹する。つまり、イニスの一番近くを守っているということである。

 セッカは、その職務に憧れ、第5戦闘部隊を志願した。セッカは、人一倍イニスに尊敬の念を抱いているのだ。


「ところで、イニス様は?」


 コージュは誰も座っていない椅子に目を向ける。対してセッカは、無言で首を振る。


「知らん。俺がきたときから、いらっしゃらなかった」


「どっかにいかれるなんて、珍しいな」


 その時、王室の扉が開いた。


「失礼します」


「ルドルフ」


 入ってきたのは、ルドルフ、レオ、ゼクス、ニーナだった。


「セッカ。コージュ。早いな」


 ルドルフも、セッカとコージュの同期である。しかし、コージュが一方的にルドルフをライバル視しているため、ルドルフとコージュの仲は良くない。


「兄貴」


「貴様もいたのか、愚弟」


 ゼクスは、コージュを睨みつける。しかし、コージュはゼクスには興味なさげな視線を向けるだけだ。それによって、さらにゼクスは劣等感を感じてしまう。

 ゼクスとコージュの仲は良くない。コージュは、昔からゼクスに対して興味を持っていなかった。ゼクスも最初は気をひこうとしたが、いつしかそれは憎しみに変わり、会うたびに睨みつけるようになったのだ。

 それでも、コージュはゼクスに対して何の興味も示さない。興味のあるのは自分より強いルドルフとイニスだけだった。


「相変わらずだな、コージュ」


 ショークブルク兄弟の事情を知っているルドルフは苦笑する。


「ゼクスも大分強くなった。そろそろ認めてやったらどうだ?」


「ふんっ」


 コージュは、鼻を鳴らす。言葉はなくとも、それで十分だった。

 ゼクスは、コージュから目線を外す。


「それより、ルドルフ。イニス様がいないのだが? どうなっている」


 コージュは、椅子に目線を促す。


「イニス様は全員が揃ってから、アスカと入ってくるそうですよ」


「アスカっていうと、噂のコアの新人か。どんなやつなんだ? レオ」


「真面目な、良い子です」


 レオはセッカよりも後輩だが、この2人は仲が良い。優秀な参謀同士考えが合うのか、よく一緒に議論をしていることがある。


「強いのか?」


「強くない。けど。弱くない」


 ルドルフが、皮肉そうな顔で笑う。


「どういうことだ?」


 コージュとセッカは、不思議そうな顔をするしかない。


「まあ、アスカのことは来てからのお楽しみだ。それより、他の隊長たちは? 遅くないか?」


「あ、そうだった!」


 セッカが、何かを思い出したように1枚の紙を取り出す。


「えっと。第2戦闘部隊隊長アリー・ヨーケル。第3戦闘部隊隊長シュタイン・ビヨンド。第6戦闘部隊隊長リュン・ハルカス。この3人は合同演習のため欠席らしい。だから残りは第7、8の双子の変態と第9のおっちゃんだ」


「あの双子来るんスか?」


 ゼクスは嫌そうな顔をする。何かを思い出したらしい。


「珍しく忙しいやつらが来るんだな。双子と、しかも、ジャンさんか」


 ルドルフも、苦い顔をする。


「何だ。おぬしら。早いのう」


 ノックもなく、ドアが開く。一人の男性が入ってきた。


「ジャンさん」


 第9戦闘部隊隊長、ジャン・ケンブル。金の短く刈り上げた髪に、蒼い瞳。年齢は60歳で、戦闘部隊の中では一番年上だ。参謀の能力に長けた第9戦闘部隊を纏め上げるほどの能力を持つが、アリステルの五本指に数えられるほどに戦闘の能力も高い。


「珍しいですね。おっちゃん。あんたが来るなんて」


 コアには、レオ、第5戦闘部隊にはセッカがいるが、他の戦闘部隊には作戦を立てるだけの参謀の能力を持つ者がいない。そのため、オーリウスが攻め込んできた時の作戦など、他の戦闘部隊の作戦までも統括する第9戦闘部隊は忙しく、ジャンも任命式を休むことが多い。

 コアにレオ、第5戦闘部隊にセッカがいるのは、彼らの希望もあるが、その2つの部隊の特色上、部隊単独で別行動をすることが多いからだ。


「そりゃ、学科Sの新人とくれば、儂が来ない訳がないだろ」


 ジャンはニヤリと笑う。

 どこから仕入れたのか、ジャンはアスカの養成学校での成績を知っていた。本人の希望がなければ、アスカは本来第9戦闘部隊に配属される人材だ。


「アスカはあげませんからね」


 ルドルフは、はっきりとした拒絶を示した。レオ、ゼクスも頷いている。


「儂は諦めんよ。言っておくが、おぬしんとこの新人もじゃからな」


 ジャンは、コージュを指さす。

 首席の最初の配属は第1戦闘部隊、という決まりがあるが、その後の引き抜きは自由だ。コアに入ったアスカ同様、第1戦闘部隊に入ったラークも引き抜かれる可能性は十分ある。


「あいつは強いです。あなた相手でも、渡しませんから」


 コージュも拒絶の意を示す。

 強い人間にしか興味を示さないコージュが、ラークの引き抜きを拒絶した事実は、周りの人間を驚かせた。

 ゼクスだけは、悔しそうな表情をしている。実の弟ではなく、あの新人を選んだのだ。


「ふふっ。珍しいなぁ。あのコージュがそこまで言うとは。余計欲しくなった」


 ジャンは嬉しそうに笑う。アリステル1の参謀と言われるジャンは、話術も長けている。人に部隊を異動する気にさせるくらい、お手のものだ。

 ジャンの笑顔に、他の者は、背筋を凍らした。彼は、やると言ったらやる男だ。

 ジャンの言うとおりになりそうな雰囲気を切り開く、2人の人間が、大きな音を立てながら入ってきた。


「失礼します!」


「すいません! 遅れました」


 片方は男性で、片方は女性だが同じ顔をしている。その2人を見て、全員が一斉に嫌な顔をした。


「コンデルとエンデル」


 第7戦闘部隊隊長、コンデル・ジョーダン。性別は、男。赤い短髪に、赤い瞳を持っている。第8戦闘部隊隊長、エンデル・ジョーダン。性別は、女。赤い長髪に、赤い瞳をもっている。この2人は一卵性の双子だ。年齢は20歳と、若くして隊長になったが、それはこの2人が持つ技術のためだった。


「よお。ゼクス。久しぶりだな」


 コンデルがゼクスに近づき、身体を触り始める。


「触んな、コンデル」


 ゼクスは、コンデルの手を振りほどく。

 ゼクスとジョーダン兄妹は同期だ。しかしゼクスはジョーダン兄妹のことがあまり好きではなかった。


「いいじゃねえか。俺様の作ったナイフの切れを確かめるためなんだから」


「わざわざ触んなくても、言えば見してやるよ。ほら」


 ゼクスは、服の中からナイフを取り出す。

 コンデルはそのナイフをうっとりした目で見ている。


「ああ。やっぱりいいなあ、このナイフ。最高の出来だ」


「相変わらず、気持ち悪いやつ」


 ゼクスは、げんなりした顔をする。

 コンデルは、刃物が大好きだ。しかし彼は使う方ではなく、作る方だった。第7戦闘部隊は、他の部隊で使う刃物の醸造を行っている。コンデルはその部隊を纏め上げるアリステルで有名な刃物職人だった。


「ゼクス。あんたそろそろ銃も扱ってみたいと思わない?」


 エンデルがコンデルの手からナイフを奪う。


「思わねえよ。銃ならニーナの方が上手いしな」


「あれ、そういえばニーナちゃんは?」


「あっこ」


 ゼクスは、壁の隅を指す。そこには怯えながらエンデルと距離を取るニーナがいた。


「あら」


 エンデルは嬉しそうな声を上げて、ニーナに近づく。


「ニーナちゃん。そんな逃げないでよ。あなたの銃見せて」


 エンデルの顔は、宝物を前にした子供のように輝いている。

 エンデルは、銃器が大好きだ。そして、コンデルと同じように、彼女も作る方だ。第8戦闘部隊は、他の部隊で使う銃器の製造を行っている。エンデルはその部隊を纏め上げるアリステルで有名な銃器職人だった。

 2人とも、普段は真面目な職人だ。しかし、自分の好きなものを前にすると見境がなくなる。武器を見るためだけに、突然触ってきたり襲ってきたりすることも少なくない。しかも、彼らもそれなりに強いため、簡単にあしらうことも出来ない。そんな彼らの性格から、変態と言われ気味悪がられていた。


「しかし、珍しいのぉ。おぬしらも来るなんて」


 第7戦闘部隊、第8戦闘部隊も、第9戦闘部隊と同じく他の部隊のために存在している。多くの様々な武器の製造を任せられている彼らは忙しく、任命式に来ることはジャン同様珍しい。


「たまたま空いたんですよ。なあ、エンデル」


「ええ。最近立て込んでたんですけどね」


 コンデルとエンデルが武器を追う手を止めた時、王室の奥の扉が開いた。


「みんな、そろっているな」


 イニスが、入ってくる。

 それを見た全員が、イニスに向かって跪く。


「それでは、これよりアスカ・シノノメの任命式を始める」


 イニスの重々しい言葉が、王室に響き渡った。


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