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第4戦闘部隊~コア~  作者: きと
第1章 アリステル編
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第3話 笑う演出家

 アリステル王国の戦闘部隊には任命式が存在する。通常は、兵士養成学校を卒業したての時に行われ、その後各々の部隊へと配属される。しかし、コアのように隊長が入隊の合否を決める場合や、部隊を異動する者がいる場合は、もう一度任命式が行われる。

 ルドルフ、レオ、ニーナ、アスカの4人は、王室に繋がる廊下を歩いていた。アスカは、心配そうにルドルフの引きずるものを見つめている。


「あの、それ大丈夫なんですか?」


 アスカの指さした先には、眠っているゼクスがいた。

 レオは、ゼクスを一瞥し、ため息を吐く。


「ゼクス。いい加減起きなさい」


「いって。なんスか」


 ゼクスは、レオに叩かれた頭を押さえたまま、起きる。


「あれ、ここどこですか?」


 ゼクスは、周りを見渡す。ルドルフとレオは、再度ため息を吐く。


「ここは…廊下。アスカの、任命式……」


「あっ、そうだったな。オレまた起きてなかったんスか? すいません」


 ゼクスは、苦笑いをしながら謝る。


「全く、朝弱いのを直せと言っているだろう」


 ルドルフは、呆れたように言う。

 ゼクスは、朝が弱い。緊急の収集がない限り、いつも昼まで寝ている。昼間は、『第4戦闘部隊待機室』に詰めているが、夜は自由行動のため、ゼクスが夜に何をしているか、なぜ朝起きれないのかは誰も知らなかった。

 アスカは、ゼクスの思いがけない弱点に、苦笑いをする。


「ん?」


 急に、ニーナがアスカの後ろを見つめる。


「何ですか? ニーナさん」


 ニーナに見つめられ、アスカの心拍が上がる。


「誰か…来るよ」


「え?」


「アッスッカー」


「うわっ」


 ニーナの言葉の通り、アスカの背中に青年が抱きついてきた。

 短く切った灰色の髪に灰色の瞳。背は、アスカと同じくらいだ。腰には、2本の刀を提げている。


「ラーク!」


 アスカは、青年の顔を確認する。


「聞いたぜ、アスカ。コアに入隊できたらしいな。おめでと!」


 ラークは、まるで自分のことのような喜びようだ。


「さすがに、情報が早いね。ありがとう」


「ん? あんま嬉しそうじゃないな。あっ、トラウマ克服しないといけないんだっけな」


「そんなことまで知ってるの? いつもどこから仕入れてくるんだか」


 アスカは、苦笑いをする。


「っと。すいません」


 アスカが、ルドルフたち4人の視線に気づき、4人の方に向き直る。


「僕と、同期の」


 ラークも、ルドルフたちの方に向き、真剣な顔をする。


「第1戦闘部隊所属、ラーク・イストックです」


「第4戦闘部隊隊長ルドルフ・ヴェルヘンだ。第1戦闘部隊ということは、君が今年の首席か。噂に聞いてるぞ。そうとう優秀だそうだな」


 第1戦闘部隊は、各年の兵士養成学校を首席で卒業した者が配属される。ラークは、学科、実技共にSの今年の首席卒業生で、アスカと同じ16歳だ。


絶対支配(パーフェクトルール)の二つ名を持つコアの隊長のお耳にまで届いているとは。光栄ですね」


 ラークは、恥ずかしそうに頬をかく。


絶対支配(パーフェクトルール)…?」


 アスカが首をひねる。


「ルドルフ隊長の二つ名だよ。今まで負けたことがなく、絶対に相手を支配することから、ついた二つ名だ」


「隊長のこと、よくご存じなんですね」


 ラークはレオの方を向く。レオの微笑みに、ラークは笑顔で返す。


「隊長だけではないですよ。第4戦闘部隊レオ・イリアス副隊長。二つ名は黒き智将(ブラックジェネラル)。敵味方共に恐れられる程の参謀らしいですね」


 ラークはゼクスの方を向く。


「ゼクス・ショークブルク。二つ名は惨劇の道化師(トラジッククラウン)。名家ショークブルク家の次男。朝が苦手なのは、兄に勝つために夜中に鍛錬しているせいでしたっけ」


「なんで、それを」


 ゼクスは驚いた顔をする。コアの一員ですら知らない、ゼクスの弱点の理由。それを、ラークは簡単に答えた。

 ラークはニーナの方を向く。


「ニーナ・キャベル。二つ名は静かなる台風(サイレントタイフーン)。無口無表情なのは、聞こえてしまう音のせいですか?」


「どうして…そのこと」


 ニーナの無表情が歪む。


「そして」


 ラークは、一旦下を向く。一呼吸置いて、顔を上げる。その顔は、変わらず笑顔だった。


「カルラ・ストラス」


「お前!」

 

 ルドルフは反射的に拳銃を取出し、ラークの頭に銃口を向ける。レオは剣に手をかける。


「なぜ、お前がその名前を知っている」


 ルドルフとレオの顔は、怒っているような、悲しんでいるような判別のつかない表情を描いている。

 ゼクス、ニーナはカルラ・ストラスという名前に何の反応も示さなかった。ルドルフとレオが激昂するほどの名前なのに。コアの一員ですら知らない名前を、ただの新卒のラークが知っていた。

 ラークは、表情を崩さない。


「俺は、敵ではないですよ」


 ラークは、手でルドルフの銃を下ろす。銃は、重力に従って下りていく。それは、ルドルフが警戒を解いた証でもあった。レオも、剣から手を放す。


「ラーク。あなたは、誰の味方なんですか?」


 ラークは、アスカを見つめる。


「俺は、アスカの味方です」


 アスカの呆然とした目とラークの強い瞳が合う。アスカには、ラークの意図が分からなかった。ラークはそれを読み取り、苦笑する。


「そして」


 ラークは、アスカから目を放し、全員を見渡す。


「アスカがコアの一員である以上、俺はコアの、アリステル国王イニス様の味方ですよ」


 呆然とする全員を見て、ラークは笑みを深める。


「では、俺はこれで。これからアスカの任命式なんですよね。引き留めてすいませんでした」


 ラークは、王室とは反対方向に去って行った。



 ルドルフが溜め息を吐く。


「噂以上の情報収集能力だな」


 レオは苦笑いをする。


「あれが、笑う演出家(スマイルディレクター)。隊長に対するあの度胸。手強いですね、彼は」


 ラークの本質は頭の良さでも、力の強さでもない。人並み外れた情報収集能力だ。どこから仕入れてくるのか分からないが、ラークに知らない情報はないとまで言われている。その情報収集能力といつも笑顔のラークから、付いた二つ名が、笑う演出家(スマイルディレクター)だった。


「あの、すいません。ラークが」


 アスカが遠慮がちに言う。


「アスカ。なぜ彼はあそこまであなたのことを」


「あっ…」


 ラークのアスカに対する態度は、明らかに普通の友人関係とは異なっていた。


「分かりません。ラークとは養成学校で出会いましたが、その時からラークは僕に対してだけあんな感じでした。剣術も勉強もなんでも教えてくれました」


「そういえば、彼も腰に刀を提げてましたね」


「ラークは二刀流です。アリステルの出身なのに、どこで身に着けたのか」


 アリステル出身の者が身に着ける武器は、主に剣と銃だ。アリステルで刀を製造している所は一か所しかなく、教えている所は全くない。刀を身に着けようと思ったら東洋の国に行くか、自己流でするしかないのだ。

 アスカは、父親の剣術を見よう見まねで練習し、身に着けた。しかし、そのアスカよりもラークの方が剣術は上手だった。

 ラークが東洋人ではないかとアスカは疑ったことがあるが、ラークから東洋人ではないと言われ、それで受け入れている。ただ、謎だけは残っている。


「そんなことより」


 ゼクスが口を開く。


「カルラ・ストラスって誰ですか?」


 普段冷静なルドルフとレオが、あそこまで激昂した名前。ゼクスとニーナは、聞いたこともなかった。


「それは」


 ルドルフとレオは気まずそうな顔をする。ゼクスは、目線を外そうとしない。


「10年も前に死んだ者の名だ。お前たちには関係ない。そろそろ行くぞ」


 ルドルフは、ゼクスと目を合わさずに王室の方へ歩いて行った。ゼクスは納得していない顔をしながらも、しぶしぶ付いて行った。



 王室に向かう廊下には、多くの人が行き交っている。しかし、その廊下から園庭に繋がる廊下に入ると、途端に人がいなくなる。

 そこに、笑顔で歩いているラークがいた。周りには誰もいない。


「あれが、第4戦闘部隊。コアか」


 ラークの顔から、笑顔が消える。そして、刀を1本抜く。

 刀身は銀色に輝き、全てを切ってしまいそうなほど鋭い。


「とりあえずアスカに害はなさそうだな。まあ、害があれば切り捨てるまでだ」


 ラークは、刀を腰に戻す。慈しむような、懐かしむような顔で柄に触る。その仕草は、アスカによく似ていた。


「大丈夫。アスカは守るよ。イオリさん」


 ラークの声は、誰の耳にも届かなかった。


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