第十章【≪過去編≫こんな幸せがいつまでも】
≪≪これは、まだレオンの生まれるずっと前の出来事……。≫≫
「シチュアーノちゃーん遊びましょ♪」
優しい太陽の光が照りつける朝方、窓の外から声が聞こえてきた。
ここは、フランスの大都市プロヴァン、バラの有名なこの街は人口がとても多く立地の良さから貿易がとても栄えた街である。
「うぅ、ほわーあ」
欠伸をしながら大きなベットから、少女はむくりと体勢を持ち上げた。
彼女の名前はコラベール・シチュアーノ、代々続く貴族の家系のお嬢様である。
少しクルリと巻いた茶色の長い髪の毛が特徴的な可愛らしい女の子だ。
年齢は10才と幼くこれから色々な経験を積んでいく年頃だろう。
シチュアーノは眠たい目を擦りながら、ゆっくりと立ち上がると千鳥足でふらふらと窓の方へと歩みを進めていった。
まだ、朝方の6時で、夜が明けたばかりなので眠たいのは、当然の事である。
窓に近づくと、ノブに手を掛けクルリと回しそれを押しだした。
すると、涼やかな風が窓から、部屋へと入り小鳥のさえずる声が聞こえてきた。
恐らくシチュアーノにとって、こんなに気持ちの良い朝は久しぶりだろう。
窓から辺りを見渡したシチュアーノは何かに気がつくと、瞳をキラキラと光らせ声を掛けた。
「おーい、サーシャちゃーん」
シチュアーノは、外に居る女の子に手を振りながら名前を読んだ。
更にその女の子に笑顔を贈ると、クローゼットから適当に軽めな服と帽子を選び、走って玄関から飛び出した。
「オハヨー、サーシャちゃん」
「オハヨー、シチュアーノちゃん今日は何して遊ぶ?」
こうして毎日遊んでいる二人、勿論シチュアーノには他にも友達がたくさんいたのだが、サーシャは特別だった。たった一人の親友なのだ。
サーシャの特徴は少し青みのかかった黒の髪に服装は色身のある服を着るのが好きな様子である。
サーシャ自身そこまで、裕福な暮らしではなく普通の民衆の一人で特別貧乏という訳では無かったのだが、近所に家があり遊ぶ時はいつも、二人で遊んでいた。
「じゃ~今日は、人形遊びしよーよ」
案を出したのはサーシャである、その言葉に対しシチュアーノはキラキラとした表情で頷いて返事を返した。
二人は直ぐに移動を開始し、しばらく歩くと手入れされた芝の生えた公園が見えてきた。どうやら二人はここで、遊ぶ様子である。二人は風呂敷の様なものを下に引くと持ってきたフランス人形で遊び始めた。
「ぴゅーんどーーん」
何故かママゴトにしては、フランス人形の体をもち飛び交わすのだが、これも荒手のママゴトなのだろう。
二人とも、楽しそうに人形に様々な動きを出している。
「モリスはナベリアン食べましょーね」
「アハハッ、シチュアーノちゃんそれナベリアンじゃなくて、ナポリタンだよ~」
サーシャは笑いながら答えた。
とても、子供らしく可愛らしい会話で回りから見ていても、思わず笑みをこぼさずにはいられないだろう。
「ゲッ、ナポリタンなんだ!」
それから、暫くナポリタンの話などで盛り上がり、笑いが止まなかった。
恐らくあれから2時間程経ったであろう、突然シチュアーノがサーシャに声を掛けた。
「あっそろそろ私行かないと行けないや」
「どうしたの?」
「ちょっと、用事があるの、そろそろ帰るね」
まだ、昼にもなっていないのだがシチュアーノは帰る支度を始めた。
「そうなんだ、じゃ~また明日ね」
サーシャは少し寂しそうな表情をした、しかしシチューノが途中で帰るのはいつもの事なので、慣れた様子である。
帰る支度の出来たシチュアーノは足早に公園の入り口に移動し、もう一度振り返り、大きな声と手振りでバイバイと言って家路に帰った。
家に帰宅するとシチュアーノは、手さげ袋を起き、おもむろに無骨な形をしたカバンを取り出し部屋を移した。
その部屋には、30過ぎくらいと思われる少しきつめな表情の女の人が立っていた。
「先生!よろしくお願いします」
そう言うと、シチュアーノは無骨なカバンを慣れた手つきで開き、バイオリンを取り出した。
すると、先生と呼ばれる女はいきなりシチュアーノを怒鳴りつけた。
「よろしくお願いしますじゃないわよ!4分も時間を無駄にしちゃったじゃないの!!」
完全なとばっちりである、シチュアーノはいつもと同じ様に15分前には、準備をして待っているのだが、時間になっても、いつもやってこない女は、たまに早くくるとこうやってシチュアーノを怒鳴りつけるのである。
「ごっごめんなさい」
必死な様子で誤るシチュアーノ。
本来は、雇っている側はシチュアーノの方なので、一言言ってしまえば直ぐに、新しく優しい先生が来るであろう。
しかし、シチュアーノは絶対にそんな事をしなかった。
なぜなら、この厳しい時代に仕事を失う事によって、自分の目の前の人間が路頭を彷徨うのは目に見えていたのだ。
シチュアーノはこの頃から、人並み以上の優しさを持っていた、しかし、その優しさは時として、自分が耐えるだけでというトコロまで、行ってしまうのだ。
しばらく説教をすると、ようやく納得したのか先生はバイオリンを弾くように支持した。
すると、シチュアーノはバイオリンを持ち早速演奏を始めた。
すると、とてもキレイな音色が部屋中に響き渡った。
シチュアーノのバイオリンの音は十歳とは思えない程キレイなのだ。
その音色はまるで、晩酌でグラスとグラスを重なり合う瞬間の様に優しく、時に協会の鐘の音の様に荒々しく抑揚のある音色だった。
はっきり、言ってしまえば彼女の演奏する曲はまだ10才という年齢でありながら、30歳を過ぎた、先生の腕を遥か上を行っているであろう。
勿論、才能の方もかなり関係してくるが、それ以上に練習量も多かったのである。
練習していた、大量の課題曲が一通り終わり、練習を終わらせた時には、もう午後の8時を回ってしまっていた。
「ふわ~あ、今日は終わり~あたし帰るわ~」
先ほどまで、うたた寝をしていた先生は、突然起き上がると、帰る仕度を始めた。
「先生!お疲れ様でした」
シチュアーノは先生にこれでもかという程の笑顔を振りまいた。
次の日いつも通り窓の外から声が聞こえてきた。
「シチュアーノちゃ~ん」
いつもと同じ元気な声が聞こえてきた。恐らくサーシャがやってきたのだろう。
シチュアーノはいつも通り直ぐに仕度をすると、外に飛び出した。
シチュアーノの生活は毎日がこの繰り返しである。
最近は、コンサートの日数も迫って練習の量が多くなってきている事もあるのだろうが、やはり10才の子供の練習量にしては、以上な時間と言えるだろう。
「ねえ~シチュアーノちゃん何して遊ぶ?」
「じゃ~今日は、鬼ごっこしようよ」
今回案を出したのは、シチュアーノの方である。
ニコニコとした笑顔でそう言い放ったシチュアーノはとても、楽しそうである。
普通ならこの様な自由の限られた生活が嫌になってしまいかねないのだが、サーシャと遊ぶこの瞬間がシチュアーノにとって最高の時間になっているため、この短い時間が、シチュアーノの心の支えとなっているのである。
いつも、通り近くの手入れされた芝の生えた公園に行った二人は鬼ごっこを始めた。
二人の遊ぶ姿には貴族と農民という階級による壁は無く今の時代に合わない絆で結ばれていた。
二人とも、楽しそうに公園で走り回っている。
「サーシャちゃん?」
「イタッ」
逃げていたシチュアーノが突然歩みを止めた為、サーシャはシチュアーノにぶつかってしまった。
「いきなり止まらないでよ~どうしたの?」
すると、少し照れた様子でシチュアーノは振り返りこう言った。
「私、サーシャちゃんと友達で良かった」
突然何だ?という様な顔をしたサーシャは頭をかしげながら、シチュアーノに問いかけた。
「いきなり、どうしたの?」
すると、シチュアーノはこう言い返した。
「私、今あなたのおかげでとっても幸せだもの」
少しはずかしい言葉ではあるが、その言葉を言い終わる頃にはシチュアーノの態度はとても凜としていた。
それを聞いたサーシャも笑顔になりこう言った。
「私もよ」
そう言い終えると、サーシャは少し感覚をあけシチュアーノにタッチすると、また走り出した。
「あっ~ずる~い待て~」
サーシャはまたシチュアーノから背中を向け走り出した。
こんな、幸せがいつまでも……。
これが二人の願いだった。
ありがとうございます。
投稿完了です。
今回は過去編です
次回もまだ過去編だと思います。