表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深遠の闇に愛されし夜の魔女  作者: 要 希沙良
第一部 運命の出会い
5/20

第4話 『王国 の 危機』

 

 

 

 グレンとミズトはヨルの素顔を正面からみた状態で・・・固まった。

 それは見事に固まった。

 

 (やっぱり・・・、まぁ仕方ないし・・・)

 

 どう、反応していいかわからず困っているのであろう2人だが、ヨル自身はそんな反応は慣れっこだった。

 

「すみません。みなさん、私の姿を見ると畏怖や恐怖、奇異な目で見てきます。お二方もこのような『色』を見るのは初めてで、困惑されたでしょう?」

 

 気持ち悪がられても仕方ないと思った。お母さんとステラ以外の人からは常に不気味がられて嫌悪されてるし、むしろそれが『日常』だったのだから。

 

 悲しげな顔でヨルが謝罪するのをみて、グレンが再び詫びた。

 

「しっ、失礼しました。あまりにも・・・、あまりにも見事な闇色だったので、つい見とれてしまいました。夜の色ですね、艶やかで、新月の夜の時のような、深遠の美しさを感じます。」

 

 お世辞にしても言い方があるだろう、しかしグレンには人の本質を見抜く力があるのだろうか?

 たとえ社交辞令だとしても、言われた瞬間に大きく心が震えた。

 真っ直ぐにこちらを見つめる鮮やかな(あか)い瞳。

 とても、社交辞令で言っているとは思えない、穏やかな瞳がヨルを見つめていた。

 

 

「ど、どうしました??大丈夫ですか?」

 

 突然、少し焦っているような、困惑したグレンがこちらを覗き込んできた。

 訳がわからず、首を傾げているヨルに、グレンはそっと右手を差し出した。

 

「え?」

 

 ゆっくりと、グレンの大きく暖かい手が、ヨルの頬を伝う涙を拭った。

 

「あの、涙が・・・」

 

 ヨルは涙を流す自分に全く気付いていなかった。

 今まで黙って事の成り行きを見ていたミズトが、突然口を開いた。

 

「自分にはわかる気がします。グレン団長は天然ですから」

 

 ヨルが、よくわからないという感じで、瞬きを2,3度繰り返すと、ミズトは優しく微笑んだ。

 

「見ての通り、自分も少し特殊ですから、今まで色々ありました。人の言葉の裏に潜む本心が怖くて、人を信じることが出来なかった。でも団長に出会って、なんだかそんなことを悩んでいた自分が馬鹿らしくなりましたよ。だってこの人天然ですから。団長の裏も表もない言葉は心に響くんです。あなたも、嬉しかったんですよね?」

 

 ヨルはミズトの言葉を反芻しながら、グレンを見つめた。

 

「・・・嬉しかった?」

 

 涙に濡れたキラキラと輝くヨルの瞳にジッと見つめられ、グレンは一瞬たじろいだ。

 ヨルの瞳には力がある。引き付けられる力。

 見つめられると、あっという間に引き込まれそうだ。

 

「あなたも色々苦労したのでしょう?自分もグレン団長に出会うまでは常に回りに壁をはって生きていました。大丈夫です、この人はお世辞など言える器用な性格ではありませんから安心してください」

 

 ミズトの言葉に、グレンは非常に複雑な顔をしていた。

 

「なんか、けなされているのか、誉められているのかわからないんだが?」

 

「もちろん、最高の誉め言葉です」

 

 グレンの複雑~な顔を見ながら、ミズトは自身満々笑顔で言い放った。

 

 2人のやり取りを見ていたヨルは、優しく微笑むミズトの瞳を見つめ、ミズトもヨルの瞳を見つめた。

 

 (あぁ、この人の瞳にも悲しみがある。私と同じ孤独を知っている人だ。)

 

 ヨルは、そっと目を伏せ大きく深呼吸をしてみた。

 

「そう、ですね・・・色々ありました。人を信じることは今も難しいです。でも、あなた方のような人と出会えるのなら悪くありません。人を拒絶しなくて良かった。優しい言葉をありがとう」

 

 そういってヨルは18歳らしい笑顔を、普段はステラにしか見せない笑顔を2人に向けた。

 ヨルの不意打ちの笑顔を真正面から見た2人は、顔を赤らめ俯いてしまった。

 

「どうしました?」

 

 ヨルの問いかけにグレンは慌てて先を続けた。

 

「いいえ!何でもありません!さぁ、話の続きをしましょうか?」

 

 (笑顔が可愛すぎて直視できなかったなんて言えないし!!)×2

 

 

 ***********

 

 

「さっきの王国からの依頼の話ですね?」

 

 ヨルは、深刻な話になりそうな予感に、空気までもが張り詰めていくように感じていた。

 正式に協力を仰ぐ為に、グレンとミズトは、王国からの密命をヨルに全て話すと決めた。

 何よりも時間がない。若干の焦りが滲んだ声でグレンは話を続けていく。

 

「そうです。西の大国ホムラまでの道は現在土砂で埋まっている。・・・と、いうことになっています。というより、混乱を防ぐ為に、そうせざるを得なかったのです」

 

 どこか苦しそうに語るグレンに、ヨルは、ただ事ではないことが起こっているのだと察し、息を呑んだ。

 

「やはり、あの依頼は作為的に力のある者を選別する為のものなんですか?ただの土砂撤去にランクの指定なんておかしいなって思ってました。」

 

 ヨルの言葉に、グレンは苦笑いを浮かべる。

 

「はい。かなり無茶な依頼ですが、こちらも時間がないので・・・。多少無茶な依頼でも、王国からの依頼なら、多少の違和感は無視してくれればと、思っていました。」

 

 ミズトもグレンの言葉に肯定するように頷いた。

 

「依頼には、土砂撤去以外に橋を架けるというのもありましたよね?しかも傭兵のBランク以上と、魔法使い中級以上なんて、かなり実戦向きのランクですよね、まさか戦争でも始めるんですか??」

 

 軽い冗談で言ったつもりだったのに、2人ともなんだか気まずそうにしている。

 そして、ものすごく嫌な予感がする。

 

「もしかして、まさかのまさかですか!?」

 

 グレンをチラリと見やり、頷くのを見てから、ミズトは話を続けた。

 

「はい。その『まさか』なんです・・・。我々は、力のある傭兵と、魔法使いをスカウトしにきました。戦争は・・・、すでに始まっています。国内でも、まもなく陛下から発表され、避難が始まる予定です。すでに、ホムラ国が進軍を始めて10日。あと5日程で国境の川にたどりつくでしょう。その前に強固な防衛線を築きたいと国王は考えておいでです。」

 

 グレンが、話を引継ぎいだ。

 

「そこからは、私が言おう。騙して雇うつもりは決してありません。引き受けてくれるもの全員に真実を伝え、正式に王国が雇う事を話します。ただ、時間がありません。特に魔法使いが圧倒的に足りていないのです。どうか力をお貸しいただけませんか?」

 

 城や中央には沢山の騎士や兵士、魔法使いがいるはず。

 なのに、市民から戦争の為の人員を雇わなければいけない状態ということは・・・

 

「すでに被害が出ているのですか?」

 

 グレンとミズトが息を呑んだ。

 おそらく事実なのだろう。

 ここまで話しておいて隠し事も必要ないと判断したグレンは、真実を語るために口を開いた。

 

「我が国には、都市の名はありますが、国の名はありません。初代国王陛下は、『国は己の持ち物ではない。わざわざ所有物のように、名など付けなくていい。ここに家があり、人々が幸せに暮らしていければそれでいいじゃないか』とおっしゃったからです。国民あっての国、国とは自分を含め、国民全員のものと考えられていたそうです。ですから、近隣の国からは名の無き国『無国むこく』と呼ばれています。」

 

 グレンは、大きく息を吐き、搾り出すような声で話しを続けた。

 

「10日前に、スイエンにある軍施設が直接魔法攻撃され、多数の死傷者が出ました。その直後に、ホムラ国と我が国の間にある中立商業都市『エンエン』に駐屯している我が国の守備軍が・・・全滅しました。そして、ホムラ国国王から『名無き国をホムラの名で染め上げてやろう』と宣戦布告の文書が届きました。」

 

 (国境と防衛線を飛び越えて、直接中央の軍施設に攻撃!?結界も張ってあったはずだし、その全てを越えて魔法を叩き込むなんて荒業をどうやって?)

 

 特級ランク、いや・・・、マスタークラスの魔法使いでも結界を無視して攻撃を叩き込むなど無理だろう。

 では、どうやって?スパイがいて、何らかの方法で結界を消したのなら・・・

 

「軍施設への魔法攻撃は、本当に外部からのみの攻撃なのですか?」

 

 最初から聞かれるとわかっていたようにミズトが答えた。

 

「はい。国境の結界も、スイエンまで3重に張ってある結界も全て無理やりこじ開けるように破られていました。」

 

「となると、敵はいつでも中央を攻撃できるぞと、宣戦布告してきたわけですね。」

 

 はっきりいってとても怖い。

 急に日常が遠く感じる。

 目に見えないが、いつでも殺せると、命を握られているようだ。

 

 (でも・・・、たぶん私なら、その魔法に対抗できる。 自信・・・、ううん。確信かな?)

 

 自分でなければいけないなんて、使命めいたものはないけど、『できる力』は持っている。

 何より、やっとつかんだステラとの平穏な暮らしを壊されたくない。

 

 戦争になれば日常は簡単に非日常に塗り替えられてしまうだろう。

 愛国心なんてないし、他人がどうなろうと知ったことじゃないって思っていたけど・・・。

 優しい人がいるって、知ってしまってるから。

 もう、見ないふりなんかできない。

 守れる力があるのに、知らないふりはできない。

 

「私、普通に穏やかに生きていくのが夢なんです。でもこのままじゃ、私の普通が無くなってしまうんですね。レイハートさん?ウォールさん?私でよければ協力させて下さい。私なんかが、何かの役に立つのなら喜んでお手伝いします。」

 

 グレンが突然頭を下げた。

 

「ありがとう!ありがとうございます!あなたのような少女まで、戦争に駆り出さなければならないのは正直心苦しいです。ですが、ほとんどの魔法使い部隊は結界の再生と維持で手が離せない状態です。1人でも多くの魔法使いが必要なんです。本当に協力を感謝します。」

 

 上級魔法使い1人が、兵士何十人分もの役割をこなせるので、戦争は魔法使いの数で決まるとまで言われている。何十、何百もの敵を一瞬で消せるのは魔法使いだけなのだ。

 だから、どの国も1人でも多くの魔法使いを確保しておきたくて、魔法使いの養成に力を入れている。

 

「セラヴィーンさん、国境ではすでに王国直下騎士団が守りを固めています。そこに、今回の依頼を承諾してくれた傭兵達が参加しても数は4000に満たないでしょう。ホムラ軍はおよそ5000、その後に本体の15000が迫っています。非常に厳しい戦いになります。」

 

 ・・・遊びではないのだ。

 これは現実。非日常が急速に近づく感覚。

 

「はい、わかりました。一度、家に帰って準備を整えてきます。私はどこに行けばいいですか?」

 

 ステラに説明してこなくちゃ・・・怒られるかな(泣)

 

「今、国境防衛線と王都の間に防衛戦は1つしかありません。そこが最終防衛線になります。兵を分散させるより1つの壁を分厚くすることに徹底することにしました。ですから、国境をもし越えられた場合は、最終防衛線で必ず押し留めなければいけないのです。現在は、多重結界で何重にも囲い、防衛線の強化に努めています。我々も、防衛線に向かい戦いの準備をします。セラヴィーンさんには、我々と同じ最終防衛線で待機していただきたいのです。」

 

「わかりました。あなたに目印を付けさせていただいてもいいですか?それを目印に転移しますので。後、私の事はヨルと呼んで下さい。敬語も必要ありません。自分よりも年上の人にさん付けされるとなんか申し訳なくって・・・」

 

 はにかみながらそう告げるヨルに、微笑み返しながら、グレンの心は、先ほどから感じる『力』に翻弄され続けていた。

 

 

 ************

 

 

 ―――――グレンside

 

 ギルドに近づいてくる、強い魔力に気付いて声をかけたのは偶然だったのだろうか?

 出会う必然だったのかもしれない。

 

 出会った魔法使いは、見たこともないほど美しい少女だった。

 

 確かに、ヨルの髪と瞳は大変珍しく、人々が嫌がるのも仕方のない事かもしれない。

 人は自分と違うものや、見たことのないものを拒絶するからだ。

 

 だが、今までヨルの顔をしっかりと見た者はいなかったのだろうか?

 

 こんなに美しい女性は見たことがなかった。

 みんなヨルを遠巻きにしか見ず、目を合わせようとしないから気付かないのだろう。

 手足もスラリと長く、身長も170近くあるのではないだろうか?

 

 王城にいる、白の陛下と並んだら、それは見事な一対の絵のようになると思った。

 

 今まで、陛下のように美しい人間は見たことがなかったが、この少女は、同じかそれ以上だ。

 

 実際、ローブを取って素顔を晒したときも、纏う色の珍しさよりも、彼女の美しさに驚き言葉がでなかったのだ。

 

 そっと拭った彼女の涙が、今までの孤独を思わせ、心が震えた。

 辛かったのだろう、苦しかったのだろう。

 その時、その場にいれば守ってやれたのに、と。

 

 出会ったばかりとか、距離とか、関係なかった。

 ただ心が震え、歓喜している。

 出会えた、やっと出会えたと体中の細胞が訴えているようだ。

 

 年相応に恋もしてきた、経験もそれなりにある。

 愛がなんであるか、わかったつもりだった。

 

 でも、今までこんなに心が震えたことはなかった。

 こんなに切ないと思ったことはなかった。

 

 話す言葉、声、姿に目が離せない。

 これは何だ?守らなければいけないと感じる。

 今わかっているのは、心が彼女を求めて叫んでいる。

 共にいたいと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ