第3話 『紅 の 騎士』
目が覚めると、いつの間にか帰ってきていたステラがベッドの横で寝ていた。
窓の外はまだ少し薄暗いが、鳥達が夜明けを告げるようにせわしなく鳴いている。
まだ眠っているステラを起こさないように、静かに部屋を出た。
小屋には動物避けの結界(ステラは引っかからないよ)と、悪意のある者を入れないための結界を敷いてあるので、警戒心の強いステラでさえ、爆睡できてしまうのだ。
(帰ってきたの遅かったのかな・・・寝かせておいてあげよう。)
―――――朝ご飯を食べたら、早速ギルドに行くことにした。
この国のギルド本部は、『第1都市 スイエン』にある。
スイエンは王城を中心にドーナツ状の形状をしている。
さらに、スイエンをドーナツ状に囲い、4つのエリアに分けられた都市が、
『第2都市 ビレン』
『第3都市 ハラン』
『第4都市 シブキ』
『第5都市 ハトウ』
それぞれの都市は国王から任命された市長が管理していて、その4つ都市をぐるりと囲うように、大小様々な町がある。
(スイエン以外の都市の住民は、第1都市スイエンのことを『中央』とよんでいる)
ヨルの住んでいるシティは、『第4都市 シブキ』
の、管理している町の、外れの外れの・・・に住んでいる。王都といえば王都だが、『超』がつくど田舎なのだ。
各都市や大きい町にはギルドの支店がいくつかある。
すべての支店と本部は転移魔方陣でつながっている為、ギルドの依頼等で他都市に行く時は転移魔方陣で移動する。
もちろん、ギルドに登録して、ギルドカードさえ所持していれば、無料で何度でも使用できる。
とても便利な移動方法だ。
一般の人も使用できるのだが、移動の申請をしてチケットを購入しなければ利用できないようになっている。
昔は、ギルド登録が無料なので、移動のみの目的でギルドカードの発行をする人が沢山いたらしい。
それを防ぐ為、ギルドから1ヶ月に3件のノルマを課せられる。つまりは、最低3件は自動的に仕事が割り振られるのだ。
これで、未達成の仕事がギルドに溢れかえることも、登録したものの仕事がなく餓死する人も、転移魔法陣の大混雑もなくなり、すべてが円滑に解決した。
ノルマの達成が、3ヶ月連続で未達成だとギルドカードを没収され、登録抹消。当然、再登録してもランクは最初から。
ランクが上がれば、宿代の値引きとか、道具の無料支給とか色々な特典があるため、ノルマを真面目にこなす者がほとんどだ。
傭兵はFランクからAランクがあり、仕事をある程度こなしていけば、自動的にランクは上がっていくようになっている。他にSランクと特Sランクというものもあるが、これは王国が認めた傭兵にしか与えられず、それなりに功績がなければ任命されない特別なランクだ。
魔法使いは、下級、中級、上級ランクとあり、魔法学校在学中に、上級の資格までは取得できるよになっている。さらに上の特級とマスターランクは傭兵と同じく王国から任命されなければ取得できない。
上級以上になると、その身一つで、行ったことがある場所なら転移できるので、ヨルも自力で転移してしまうことの方が多い。
ノルマ以外の、大きな依頼や、お金になる依頼は中央のほうが沢山あるのだが、ヨルの容姿は大変目立つので、人の多く集まる本部には極力近づかないようにしていた。
(とりあえず今日はシブキの支店行って、昨日の報酬を貰ってこよう♪後は町長が依頼を出していたらラッキーだな~。)
いつも通り目立たないように、ギルドから少し離れた裏通りに転移してみれば、ギルドの前になにやら人だかりができていて、その中心に鎧を着けた男の騎士が2人立っていた。
(なんだろ?やだな~、騎士もいるじゃん!う~近づきたくないな~)
髪と顔を少しでも隠せるように、羽織っているローブをやや目深にかぶり、話が聞き取れる場所まで近づいてみることにした。
どうやら揉めているわけではないようだ。
「本日より、魔法使いと、傭兵の一般公募を開始する!先日の雨の影響で、西の大国ホムラとの国境線までの道が土砂崩れで封鎖されてしまっている。」
もう1人の騎士が先を続けた。
「土砂を撤去しても、その先にある川の橋が、雨で増水し、流されてしまっている。これは、王国からギルドに加盟しているもの達への依頼である。今日より5日間以内に道を整備し、橋を架けてほしい。」
どうやら、先日の雨の被害はシブキの街道っだけではなかったようだ。
まだ、続きがあるのか、騎士が喋りだした。
「全てのギルドで同時に募集している!報酬は金貨100枚!依頼が完了した後に参加者で分配する。」
その言葉に、集まっていた市民から大きなざわめきが巻き起こった。
当然だ。一般市民が見たこともないような大金だ。金貨1枚あれば2ヶ月は暮らせる。
「ただし、魔法使いは資格証明を提示できる者で中級ランク以上の者、傭兵はギルドの登録ランクがB以上の者のみ参加資格が与えられる!」
(・・・何か作為的なものを感じるけど、国が依頼人だとすれば、選定もこれくらいが普通なのかな?)
騎士の話を聞いていた人々が、あきらめたようにバラバラと散っていく。おそらく参加資格がなかったのだろう。
さて、どうするか?正直迷っていた。金貨100枚を山分け、大変魅力的な話だ。
むやみに信用して痛い目にあうのはもうこりごりだし、そんなことになったらまたステラに怒られる。
(でも依頼は『王国』からだし、まさか報酬をケチることはないだろけど・・・)
参加資格はある・・・が、今はとりあえず、ギルドに入って、昨日の報酬を貰ってくることにした。
まばらに残る人を避けながら、なるべく目立たないようにギルドの入り口に近いた。
中に入ろうと、扉に手をかけたと同時に、突然声をかけられた。
「失礼。魔法使いとお見受けしますが、先ほどの依頼の話は聞きましたか?」
・・・驚いた。
いや、普通に驚いた。
だって、他人に話しかけられることがほとんどないから(笑)
私は、ゆっくりと振り返った。
騎士の男性は私よりかなり背が高く、見上げなくては顔が見えなかった。首が痛くなりそうだ。
顔を見上げた瞬間、血のような鮮やかな『色』が目に飛び込んできた。
一言で言うなら『鮮烈』
騎士の男性は、赤かった。いや紅か?鮮烈な紅。
見たこともないほどの鮮やかな紅色を纏った騎士がそこにいた。
こちらも驚いたが、向こうはもっと驚いたらしい。
目を見開き固まっている。
おそらく、見上げた時に目が合ってしまったためだろうけど・・・
いまだ固まってる騎士に若干呆れながらも、仕方ないと苦笑した。
こんな反応は慣れているし、むしろマシなほうだ。
いまだに固まっている騎士に、こちらから話しかけてみた。
「あの~?一応話は聞いていましたよ?それがなにか?」
ヨルが話しかけると、固まっていた体がビクリと反応して、凝視していた視線が宙にさ迷いだす。
「あっ!!・・・っ失礼しました。大変珍しい『色』を纏っておいででしたので・・・」
よく見れば、騎士の男性はかなり整った顔をしていた。それに、人の上に立つ人特有の雰囲気を感じる。纏う空気?というか、存在自体がとても大きく感じる。
初めての感覚にヨルも戸惑っていた。
騎士の男も、このような事態というか、こんな『色』との対面は初めてなのだろう。
立派な騎士が、どう対応していいか困って焦っている様子に、ヨルはだんだんおかしくなってきた。
「フッ・・あはははッ!」
とうとうこらえきれずに笑い出したヨルを見て、さらに困惑する騎士。
それを見て、さらに笑いがこみ上げてくるヨル。
「あはッ、あははははッ!・・・し、失礼しました。私の事を珍しい『色』と表現してくださったのが、なんだかおかしくて。」
(あのときのステラの気持ちが、今ならわかる気がするわ)
あなたの行動がおかしくて笑えたとは、言わなかった。(言えなかった(笑))
突然笑い出したヨルをしばらく呆然と見つめていた紅の騎士は、ヨルの言葉にハッとすると、姿勢を正しながら、自らの非礼を詫びた。
「あっ、いえッ!こちらこそ失礼しました。力のある魔法使いとお見受けし、思わず声をかけてしまいました。」
見ただけでこちらの力量がわかるとは、この紅の騎士も相当の力があるようだ。
「そうだったんですか。王国からの依頼の話ですよね?大変興味深いのですが、内容のわりに報酬が破格だったんで、何か裏があるのではと勘ぐってしまって・・・。魔法使いの性でしょうか、何でも頭だけで考えてしまって・・、悪い癖ですね。」
申し訳なさそうに語るヨルに紅の騎士は大きく顔を振った。
「とんでもない!それは生きる為に必要な能力です。おそらくあなたは上級魔法使いなのではないですか?我々は特に、協力していただける魔法使いの方を探しています。ここではちょっと話せない内容なので、ギルドの中で話しだけでも聞いていただけませんか?」
―――――なぜ?
なぜかはわからないが、普段なら自分には関係ないことだと、面倒ごとは御免だと早々に立ち去るのに、この時は違った。
魔法使いの直感だろうか?運命の導き?『何』かはわからないが、とてつもない引力を感じた。
この引力に逆らえる気がしない。それほど大きな力。
ステラがここにいたら『運命の導きには従え』と言っただろうか?
この紅の騎士に引き付けられる。
目が離せないほどに。
結局、とりあえず話しだけならと承諾し、ギルドの奥にある、交渉スペースに入った。
ギルドの奥には、依頼人との細かい打ち合わせ用の交渉スペースとして、布に仕切られたいくつかの個室がある。
その一室に2人の騎士とともに入り、改めて自己紹介をした。
「申遅れましたが私は王国騎士の、紅を纏いし者グレン・レント・レイハートと申します。こいつは部下の・・・」
グレンの言葉をさえぎって部下と言われた騎士が言葉を続けた。
「私は、ミックスのミズト・シン・ウォールと申します。」
紹介を受けて、わずかに目を見張る。多色纏う者をミックスと言うが、このミズトは3色?いや4色ほど色が混ざって見える。
彼も、ある意味『異色』な存在なのだろう。
初対面時の自己紹介は通常略式で行う。よく知らない相手にいきなり自分の運命や色の事情を話したりはしないが、公式な場所や目上の方に求められれば、正式な自己紹介をしなければならない。
正直、逡巡した。
瞳の色はもうばれているのだが、ローブを取ってしまっていいものか。
(瞳を見られたのだから、グレンという騎士も予想はしているだろうけど・・・まぁいいか。取っちゃえ)
ヨルはゆっくりとローブを取ると、わずかに息を呑む気配が伝わってきた。
そのまま頭を下げると、自然と腰まで真っ直ぐに伸びた闇色の髪が、肩からこぼれ落ちた。
「初めまして。私は、闇を纏いし者ヨル・セラス・セラヴィーンと申します。上級魔法使いのランクにいます。」
私は、そっと顔を上げ、グレンとミズトの顔を正面から見据えた。
少し、物語りが動きだしました。
文章を書く難しさを痛感しております(汗)
亀更新ですが、頑張るので、よろしくお願いします!