第2話 『王城 到着』
「遅いなぁ・・・。何かあったのかな?」
引越しの準備が終わって、ヨルとステラは中央のギルド本部前に来ていた。
中央の地理に不慣れなヨルの為に、グレンが迎えに来てくれるというので、ありがたく甘えさせてもらうことにしたからだ。
中央でヨルが知っている場所は魔法学校とギルド本部しかなかったので、必然的に王城に近いギルド本部での待ち合わせに決まった。
さすがに中央の街中、とても人が多い。
ヨルはいつものスタイルともいえる暗色のローブを目深に纏い、なるべく目立たないように、子犬に変化したステラと共に立っていた。
幸い、ギルド前ということもあって、魔法使いの正装ともいえるローブを纏っているヨルに注意をむける者は誰もいなかった。
「・・・・・・・・・(怒)遅い!レディーを待たせるなんて、フフフ・・・いろいろとわからせてやらなきゃいけないかしら?」
歯を剥き出しにして、いやらしく笑う子犬バージョンのステラを横目に、ヨルは遠くに見える王城をボンヤリと眺めていた。
大きく威厳ある王城を目にすると、あんなに立派な所で働くグレンは、やはり凄い人なのだと再確認させられるようだった。
自分なんかがきてよかったのかと、今更ながらに不安に思う。
不安はたくさんあるけど、誘ってくれたグレンの言葉が、ヨルを支えてくれている。
「仕方ないでしょ?グレンは紅の騎士団の団長さんなんだよ?きっといろんな仕事がいっぱいあるのに、私の為に無理して予定をあけてくれたんだよ。本来なら、私1人の為に動く立場の人じゃないでしょ?」
「ハァ~、ヨルはお人好しねぇ・・・。そうだとしても言葉を送ることは簡単なんだから、もう少し私達を(ヨルを)気遣って欲しいわ」
「アハハ、いーじゃん。の~んびりいこうよ。ね?」
「まったく・・・・・・ん?ヨル、ミズトの気配がする。グレンは・・・、一緒じゃないみたいね。1人で転移してきたのなら、やっぱりグレンに何か急用が入ったのかしら?」
ステラの言葉にヨルも気配を探ってみると、ミズトが纏う優しい気配を感じた。
すれ違いになるといけないのでその場でしばらく待っていると、ミズトがヨルを見つけて駆け寄ってきてくれた。
「すみません、遅くなりました。団長が来れなくなりましたので急遽、私が代理で来ることになりました。」
「そうですか、それは仕方ないですね。それより、迎えにきてくれてありがとうございます」
「いいえッ!とんでもない!こちらから、スイエンに誘ったのですからこれくらい当然です。・・・えぇ~と、それでですね、迎えに来ない団長の話なんですが・・・」
「急なお仕事ですか?」
「違います。だけど、そうとも言えるような・・・。忙しくないわけではないですけど、今日の迎えは事前に予定に組んでました。なんですが、出る直前に予定外の方と遭遇しまして・・・、予定外の予定が入ってしまったというか、入りそうだというか、つまり団長はそれの対処に追われているというか・・・」
「?」
ステラは、ミズトのなんとも歯切れの悪い言葉に、なんとなく王城で何が起こっているのかわかってしまった。
「はは~ん、今頃、白のわがままを紅は懸命に説得しているころかしら?」
「「え?」」
ステラの呟きに、ヨルとミズトが同時に反応した。
ヨルの反応は、純粋に意味がわかっていない反応だ。
しかし、ミズトの反応は違った。
大げさな程血の気の引いた顔で、ステラを凝視している。
「な、なんで・・・」
ステラはいたずらが成功した子供のように、牙を剥き出してニッコリ(笑っているつもり)していた。
「フフン♪長く生きていると色々と知っているのよ」
ミズトはしばらくステラを凝視していたが、早くヨルを王城に連れて行かなければいけない事を思い出し、ヨルとステラにこのまま王城に向かうことを告げた。
「わかりました、そいうことにしておきます。とりあえずギルドの転移装置で王城に移動しましょう。グレン団長もなんとか説得を・・・してくれているハズですので(多分)」
***
ミズトに促され、王城の転移室の扉から出ると目の前に真っ赤な壁?があった。
アレ?と思いながらもヨルは、視線をゆっくりと上に上げていくと、ソレは壁ではなく紅のマントを纏ったグレンだった。
グレンは、転移室前でヨルが来るのを待っていてくれたようだ。
見上げたグレンの顔は、若干疲れたような、どこか精彩に欠く顔をしていた。
「ヨル、すまなかった。迎えに行くと約束したのに、行けなくて。」
グレンの姿を確認したヨルは、突然目の前に現れたグレンに驚きながらも、首を横に大きく振った。
「ううん。急用だったんでしょ?仕方ないよ。何か大変な事あったの?」
ヨルの問いかけに、グレンは視線を何度か宙をさまよわせたが、意を決したように大きく息を吐くと、真っ直ぐにヨルを見つめながら口を開いた。
「ヨル、実はな・・・、陛下が、白の陛下がヨルとの面会を望んでいるんだ。それで、いろいろとあって、迎えに行けなくなってしまってな・・・。なんとか断ろうと思ったんだが、結局・・・」
「結局、白の陛下のワガママを聞くことになったわけね?」
言いよどむグレンの横から、ヨルに抱かれたステラがその先を引き継いだ。
「う・・・、ハイ。そういうことになってしまった。すまない、ヨル。」
ぽかんとした顔のヨルに向かって、グレンが頭を下げる。
「・・・私に会うって、会って何かするの?」
「いや、国を救った魔法使いに会ってみたい好奇心・・・、じゃなくて、礼を述べる為にな・・・」
「もう好奇心って言っちゃってるし。ここの王様って白の陛下だよね?私とは正反対の色を纏う方。誰よりも眩しく、全ての人々に愛される方。そんな方が、私に会いたいの?」
ヨルの呟きに、誰も答れなかった。
ヨルのコンプレックスは根が深い。自分達はヨルの色彩ではなく、ヨル自身を見ているので気にしないが、初めて会う人は違う。
軍にいた頃、初めて会う人に顔を見せるのを嫌がっていたことが何度かあったくらいだ。
それなのに、突然国のトップと面会を求められれば萎縮もしてしまうだろう。
ステラは抱かれている腕を足場にして体を伸ばし、ヨルの頬に優しく頬ずりをする。
転移室の前で3人と一匹を包む、なんとも微妙な空気を断ち切ったのは、さすがというべきかミズトだった。
「さぁ、グレン団長。いつまでもこんなところで立ち話などしていないで、早くヨルさんを客間に案内しましょう。慣れない場所に連れてこられて、いきなり陛下と対面とか、ヨルさんだって混乱するでしょう。まずは、ゆっくりとお茶にしましょう」
ミズトの提案にもちろん誰も意を唱えることはなく、その場を後にした。