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深遠の闇に愛されし夜の魔女  作者: 要 希沙良
第一部 運命の出会い
17/20

第16話 『共に・・・』

ここまでで、第一部完です。

つたない文章で、読みづらかったらと思うと、申し訳なさでいっぱいです。

それでも、ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。

 



「スイエンにって・・・、私とステラが中央に住むってこと?」


 ヨルにとって、この誘いは予想外だった。

 自分が利用されるかもしれないなど、考えもしなかったからだ。

 自分の利用価値など、無いに等しいとさえ感じていた。


「ヨル、ヨルは自分の価値を考えた事があるか?俺達からしたら、ヨルは優しい娘だと知っているから、どんなに強い力を持っていても怖くはない。それに、人を傷つける力はヨルが傷つくから使わせたくない。だけど、ヨルの力だけしか知らない人から見たら?力を恐怖する人、その力を利用して戦争を起こそうとする人、・・・そんな人間も確かにこの世にはいるんだ。だから、俺と一緒にスイエンに来てくれると助かる。その方がヨルを護れるし、何より『俺が』ヨルを護りたいから」


 グレンの一言一言に、耳を澄ますように聞き入っていた。

 ヨルの為、ヨルを護りたい・・・その響きはヨルにとって、魔法のような言葉だった。

 いつも、グレンの言葉だけは簡単にヨルの心の壁を乗り越えてしまう。


(どうして、・・・どうしてこの人の言葉はこんなに切なく胸に響くんだろう)


 お母さんの言葉は、暖かくて優しい言葉だった。

 でも、グレンの言葉は、切なくて涙が出そうになる。


 ヨルは、グレンの言葉にどう答えるか正直困惑していた。

 今まで、自分の容姿を気にして、人が多いところは避けてきた。

 いくら言われ慣れていても、心無い言葉に傷つかないわけではない。


(でも・・・、でもグレンは護ってくれるって言ってくれた。私、信じてみてもいいかな・・・)


 ヨルは、椅子の上で目を瞑っているステラに視線を据えて、心で語りかけた。


≪ステラ、グレンを信じて、スイエンに行ってもいい?≫


 ステラは目を開け、椅子の上でお座りした状態でヨルの瞳を覗き込んだ。

 傍から見れば、ヨルとステラが無言で見つめ合っている不思議な状態だが、誰も口を挟むことはなかった。ヨルの事は、ヨルが決めなくてはいけないからだ。


≪私は、ヨルには人の中で生きて欲しい。だってあなたは『人』なのだから。人として幸せになってもらいたい。もちろん、その横には私が居なくちゃ駄目だけどね。だから、ヨルがスイエンに行きたいなら行けばいい。ヨルは自由に生きればいいの≫


≪あはは、ステラってばいつも私を甘やかしすぎ(笑)。でも、ありがとう。人と接する事を怖がってばかりじゃいけないね。私、もっともっと堂々と自由に生きてみたい≫


 ヨルは、ジッと待っていてくれていたグレンに体を向けた。


「はい。私、中央に行きます。でも、中央に住むってどうすればいいの?」


 グレンはヨルの返事に、正直ホッとした。

 もし断られれば、どうやって説得するかを考えなければいけなかった。


「住む場所も、今後のヨルの待遇も、決して悪いようにはしない。ただ今後は、魔法使いとして王城に勤務することになると思う。もちろん、ヨルが嫌なら無理強いはしない。」


「ううん。ただそこに居ればいいって言われるよりずっといい。私にも仕事があるなら嬉しいよ。でも王城って、王様が居るところだよね?私がそんなところで働いていいの?」


 ヨルの不安は、ヨルの18年間を思えば仕方のない事かもしれない。

 少しずつ、人と触れ合い、受け入れてくれる人が居ることを知っていった。

 それでも、全ての人が受け入れてくれるわけじゃない事も知っている。

 神聖な、それも選ばれた人しか入れない王城に、自分が勤めていいのだろうか?という不安は、ヨルにとって至極当然のものだった。

 グレンは、ヨルの不安を拭うように優しく頭を撫でながら、ヨルの欲しい言葉をくれた。


「ヨルは偉大な魔法使いだ。胸を張り、堂々していればいい。ヨルは、ヨルらしくいれば何も問題なしだ。」


 シアンもミズトも、グレンの言葉に同意するように、大きく頷いていた。

 ステラは、またウィンクなどして見せている。

 まだ完全に不安が拭えたわけではない。だけど、護ってくれる人が、人達がいる。


「うん。私は、私らしく生きていたい。グレン、よろしくお願いします。」


 ヨルは、大輪の花のように美しく微笑んだ。




 ********




 今は昔、忘れられた神々の時代


 夜と闇を司る、運命(さだめ)の女神『エカトゥリュシカ』は、1人の人間に恋をした。

 灼熱を纏ったような、鮮烈な魂の輝きを持つ人間。

 エカトゥリュシカは、その人間に夢中だった。

 その人間を愛するあまり、『人』になりたいと思うほどに焦がれていた。

 人間の男もまた、女神を深く深く愛していた。


 面白くなかったのは、昼と光を司る、導きの男神『サクトゥリュース』。

 永遠に共にいるはずの片割れを、人間に取られると思い込んだ。


 それは、いつから始まったのか、誰が始めたのか、誰も知らない。

 いつしか人と神は、争うことを選んだ。


 人の味方をしたのは、運命(さだめ)の女神『エカトゥリュシカ』と、彼女を護る『金の盾』。

 神の軍を率いるのは、導きの男神『サクトゥリュース』と、彼を護る『銀の盾』。


 全てを飲み込む最強の『(つるぎ)』と、闇を切り裂く唯一無二の『(つるぎ)』が何度も交わった。


 何度も、何度も(つるぎ)が交わり、終りが見えぬ戦いが何日も何日も続いた頃、サクトゥリュースの一瞬の隙をエカトゥリュシカは見逃さなかった。


 全てを飲み込む最強の(つるぎ)で、サクトゥリュースの胸を貫いた・・・はずだった。

 しかし、エカトゥリュシカの(つるぎ)が貫いたのは、己の愛する人間だった。

 まさに、サクトゥリュースの胸を貫くその瞬間に、2人の間に割り込んだのだ。

 女神の片割れを、女神自身の手で討たせたくなかった。優しい彼女は必ず後悔し、悲しみ続けるだろう。男は、彼女の心を護りたかったのだ。


 (つるぎ)を受けた瞬間に、愛する女神に己の想いを伝えた男は、女神に微笑みを残してその命を終えた。

 強大な神の(つるぎ)で貫かれた人間の男は、痕跡を一切残さずに世界から消えてしまった。

 まるでそこに最初からいなかったかのように。


 その瞬間、世界が慟哭した。

 一瞬で空は闇に包まれ、雷鳴が轟き、激しい雨が大地を襲った。

 愛するものを、自らの手で殺してしまった。その事実がエカトゥリュシカから正気を失わせた。


 ただ、愛するものと共に生きたかっただけだった。

 もう逢えない人を探し求めるように、女神の悲しみが世界を覆いつくした。


 あまりにも深い悲しみに、心が壊れ悲鳴をあげる。

 女神を救う為、金の盾と銀の盾が命をかけても、女神の慟哭は止まらなかった。


 サクトゥリュースは、片割れを救う為に自らの命で、エカトゥリュシカの命を止めた。


 エカトゥリュシカは、愛する人と共にいたかっただけ。

 サクトゥリュースは、愛する片割れと共にいたかっただけ。

 ただ・・・、ただ、それだけだった。


 エカトゥリュシカが消えた後、何百、何千年立っても、女神の悲しみは世界を覆い続けていた。

 わずかに生き残った人々は、強大な神の力を恐れ、闇を恐れた。

 闇に対する恐怖は、人々の記憶から神々のことが忘れられても残り続けた。


 何故、闇を恐怖するのか・・・。それを識る『人』は、今はもういない。


 女神が振るっていた、聖銀の(つるぎ)は、今も女神の悲しみを浄化する為に、この世界のどこかに在るという。

 意志持つ(つるぎ)は、いつかまた彼女にめぐり逢う為に、この世界に在り続ける・・・。

次からは王城編になります。

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